ソニー、新型コロナで消えた「営業利益682億円」の中身

 営業利益で682億円減の影響――。これはソニーが5月13日の会見で明らかにした、2020年3月期通期連結決算に与えた新型コロナウイルスの影響額の試算だ。ソニーは今年2月の第3四半期決算で営業利益の見通しを400億円上方修正したが、新型コロナの影響はこれを帳消しにするどころか、上回るほどのインパクトを与えた。十時裕樹専務CFOは、「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)事業がもっとも早くから影響を受け、映画分野は影響が表れるまで、もう少し時間がかかり、影響が長引く可能性がある」などと分析した。

ソニーの十時裕樹専務CFO(画像は2018年の会見時)

 新型コロナの猛威が、前期まで2年連続で過去最高益をたたき出して好調だったソニーを襲ったことは、第4四半期(20年1~3月)の急激な数字の落ち込みが物語る。第4四半期の売上高は1兆7487億円(前年同期比18%減)、営業利益が354億円(57%減)、株主に帰属する当期純利益が126億円(86%減)と大幅な減収減益だった。

 営業利益の約6割が吹っ飛んだ理由の一つに、前年のEMI連結子会社による再評価益を計上した音楽分野での大幅減益を挙げるが、新型コロナの影響はそれ以上に大きかったようだ。

 もっとも、欧州や米国でのロックダウンや外出自粛による「巣ごもり」消費は、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)など一部の分野にとって業績にポジティブに動いた面もあるという。
 

新型コロナの影響の半分がエレクトロニクス分野

 では、新型コロナが及ぼした682億円の減益要因の中身を分野別に見ていこう。まず、もっとも大きな影響を受けたテレビなどのEP&S部門は、約半分を占める351億円の減益インパクトだった。

 十時専務CFOは「サプライサイドでテレビを製造する主力4工場のうち、マレーシアの自社工場とメキシコとスロバキアの生産委託工場で3月中旬から順次稼働を停止。これら3工場は部分的に稼働を再開しているが、供給が需要に追い付いていない」と語った。

 また、カメラやスマートフォン(スマホ)の中国やタイの自社工場は通常通りの稼働だが、製品カテゴリーを横断して部品を供給しているマレーシアやフィリピンの一部パートナーの稼働率が下がり、部品不足による生産遅延が発生しているという。

 デマンドサイドでは、欧州などロックダウンの影響による店舗の閉鎖や休業で売り上げが減少しているほか、テレビではインドやベトナムでの影響が大きくなっている。デジタルカメラは全世界で需要が大幅に縮小しているため、売り上げと利益の両面での影響が大きく、長期化する可能性があるとした。
 

 利益面で貢献してきた金融部門も280億円減と試算した。ソニー銀行の保有有価証券の評価損や対面営業ができずに新規契約の獲得ができないソニー生命などが影響を受けた。
 

稼ぎ頭の半導体も予断を許さない

 ソニーの稼ぎ頭としてけん引してきたCMOSイメージセンサーなど半導体事業の「イメージング&セインシング・ソリューション(I&SS)」は、通期で営業利益2356億円を稼いだのに対して、新型コロナの影響は84億円減にとどまる。一見すると影響は小さいが、予断は許さない。

 十時専務CFOは「旺盛な需要で大判化や多眼化による高付加価値製品へのシフトや、製品ミックスの改善で期初予想をはるかに上回った。国内生産は通常通り操業しており、第4四半期の影響も比較的軽微だった。しかし、スマホ市場の減速を勘案すると、顧客のサプライチェーン上の在庫が膨らんでいる可能性がある」とし、スマホ市場の動向を注視していくという。

 I&SSの中長期的な事業戦略に変更はなく、「投資計画の8割はすでに意思決定済みのもので、残りの実行判断をできる限り延期する」ことで、需給の変動に対応していくという。
 

ライブ、劇場公開の延期・中止が「音楽」「映画」を直撃

 音楽分野は10億円減という試算。イベントやライブの延期や中止、テレビ広告やレストラン、バーなどで楽曲を使用する機会が減少したのに加え、外出制限に伴うCDなどの販売減少が響く。アーティストのレコーディングや音楽ビデオの制作が困難なことから新曲のリリースにも遅れが生じているという。
 

 映画分野は15億円増のプラスと見ているが、これは感染拡大前に劇場公開が間に合ったタイトルのデジタル販売が好調だったため。一方で、テレビ番組制作の影響による納入の遅延だけでなく、世界的な映画館の閉鎖によって「製作が完了している作品のリリースもできない状況だ」という。

 今後についても「映画は劇場公開が重要で、悪影響が一段落しても人々が戻ってくるのに時間がかかるかもしれない。新たな作品の公開方法をクリエータと一緒に探っていく必要がある」と語るなど、新型コロナの影響で映画の楽しみ方が変わる可能性を示唆した。
 

3月以降にゲームの会員数が急増

 外出制限でプラス要因なったのは「ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)」の28億円増だ。PS4の販売は足元の需要に在庫で対応できており堅調だ。また、「プレイステーションネットワーク(PSN)のプレイ時間がクリスマスシーズンの1.5倍になった」など、ゲームソフトウェアのダウンロード販売やネットワーク会員数が3月以降から大幅に伸びているという。

 年末にリリース予定のPS5のスケジュールについては、「海外渡航の制限で一部の検証作業に制約が出ているが対応策は講じており、年末の発売に向けて遅延なく準備を進めている」とアピールした。
 

 ゲームや音楽、映画の今後については「少なくとも在宅時間が増えて外出時間は減る。ネットワークやリモートに変わっていくだろう。PSNなどの大きなオンラインコミュニティをさらに強化するなど伸びしろはある。5Gを使った映像コンテンツもフィジカルではなくオンラインが広がるだろう」と語った。

 新型コロナは、ある特定の国や地域に影響を及ぼす自然災害などとは異なり、グローバル規模で人の移動が制限されることによる需要の消失が企業経営に急ブレーキをかけている。ゲーム、音楽、映画などエンタテインメント事業を多く抱えるソニーが、この難局にどう立ち向かっていくのか。吉田憲一郎社長が5月19日に発表する予定の中期経営計画の内容に注目が集まる。(BCN・細田 立圭志)