2026.6.21 18:30
暮らしにプラスアンソロピックに襲いかかるミュトスの呪い――米政府が犯した究極の愚行[道越一郎のカットエッジ]
Anthropic(アンソロピック)は、AIの開発競争から脱落するかもしれない。さらに米国自体も、AI開発競争から放り出されてしまう可能性がある。6月12日、米政府はAnthropicに対し、国家安全保障上の指令である輸出管理指示を行った。同社のAIモデル「Claude Mythos(クロード・ミュトス)5」とその一般向けモデル「Claude Fable(クロード・フェーブル)5」について、米国籍を持たない者のアクセスを、社内・社外を問わず禁じるものだ。国籍によるリアルタイムのアクセス制限を行うことができないため、同社は両モデルについて全顧客への提供を停止した。指示はハワード・ラトニック商務長官名でAnthropicのダリオ・アモデイCEOに宛てた非公開の書簡で発出された。
Anthropic存立の危機だ。Mythosは存続できるか
米メディアBloombergが輸出管理指示の文書を入手し報じたところによると、両モデルは「軍事情報の最終用途または軍事情報の最終利用者への使用、あるいはそれらへの転用の容認できないリスクが存在する」という。これによって「世界中のすべての目的地およびすべての外国籍者に対する、両モデルの輸出、再輸出、または米国内でのみなし輸出、およびみなし再輸出移転には許可が必要である」とされた。今回の措置によって、少なくとも外国籍を持つ社員は自社の最新モデルであるMythosにアクセスできなくなった。既にAIモデルの開発そのものにもMythosが使われていた現状では緊急事態だ。AIモデルの開発は、1カ月、1週間単位で目まぐるしく変化している。わずか数カ月の空白であっても、極めて重大な遅れになってしまう。同社から競争力を奪い致命傷を与えかねない。同社のAI開発において、多くのキーマンが外国籍だからだ。
例えば共同創業者 兼 政策責任者でAIガバナンスと国際規制のリーダーでもあるジャック・クラーク氏は英国籍。共同創業者 兼 解釈可能性研究チームリーダーのクリス・オラー氏はカナダ国籍。アライメント・サイエンスチーム共同責任者で世界的なAI安全研究者ヤン・ライケ氏はドイツ国籍だ。パーソナリティー・アライメントチームの責任者でClaudeに魂と倫理を吹き込む指導者とも言われる、哲学者のアマンダ・アスケル氏も英国籍だ。AIの安全性をつかさどる中心人物が、その安全性を理由に最新モデルへのアクセスを禁じられる構造になってしまっている。彼らを抜きに米国人だけでAI開発を継続するのは事実上不可能だろう。
輸出管理指示を受けてAnthropicが発表した声明
Anthropicは声明で、今回の措置が技術的事実や透明性に基づかないものだと批判しつつ、早期復旧への決意を示した。同社は水面下で米政府に対し、即座にみなし輸出ライセンスの特例申請を行っていることだろう。米政府は申請を受け、特定の外国籍従業員に対する例外アクセス許可を速やかに与え、社内でのアクセスを許すべきだ。問題はその許可がいつ下りるか。通常、国家安全保障が絡む複雑な案件は、許可までに6カ月程度かかると言われている。半年後ではあまりにも遅すぎる。Mythosのプレビュー版が4月、ごく一部の組織に試験公開された際「極めて能力が高く、それゆえに安全保障上危険なAIモデルでもある。しかし中国のAIも6カ月もあれば追いつくだろう」との意見も聞かれた。他のAIモデルの一部を盗用する「蒸留」が前提だとしても、猛烈に米国を追いかけるZhipu AIのGLMやDeepSeek、アリババのQwenなど、中国勢の存在は決して無視できない。
政府による非公開の書簡一本で民間AIモデルの流通が強制停止されたのは前代未聞だ。影響はAnthropic1社にとどまらず、OpenAIやGoogle、xAIなどAIモデル開発にしのぎを削っている全ての米企業に及ぶ。「強力なAIを開発してしまうと米政府に止められる」となれば、AI開発のスピードはぐっと遅くなる。あるいは米政府が恣意的にAI開発を許可したり止めたりするような事態になれば、開発に携わる外国籍の天才たちは米国外に流出してしまうかもしれない。こうしたAI開発の「内紛」で、漁夫の利を得るのは中国勢だ。なりふり構わず猪突猛進する彼らが世界のAI覇権を握る可能性を高める。米政府のAnthropicに対する今回の措置は究極の愚行だ。(BCN・道越一郎)
米メディアBloombergが輸出管理指示の文書を入手し報じたところによると、両モデルは「軍事情報の最終用途または軍事情報の最終利用者への使用、あるいはそれらへの転用の容認できないリスクが存在する」という。これによって「世界中のすべての目的地およびすべての外国籍者に対する、両モデルの輸出、再輸出、または米国内でのみなし輸出、およびみなし再輸出移転には許可が必要である」とされた。今回の措置によって、少なくとも外国籍を持つ社員は自社の最新モデルであるMythosにアクセスできなくなった。既にAIモデルの開発そのものにもMythosが使われていた現状では緊急事態だ。AIモデルの開発は、1カ月、1週間単位で目まぐるしく変化している。わずか数カ月の空白であっても、極めて重大な遅れになってしまう。同社から競争力を奪い致命傷を与えかねない。同社のAI開発において、多くのキーマンが外国籍だからだ。
例えば共同創業者 兼 政策責任者でAIガバナンスと国際規制のリーダーでもあるジャック・クラーク氏は英国籍。共同創業者 兼 解釈可能性研究チームリーダーのクリス・オラー氏はカナダ国籍。アライメント・サイエンスチーム共同責任者で世界的なAI安全研究者ヤン・ライケ氏はドイツ国籍だ。パーソナリティー・アライメントチームの責任者でClaudeに魂と倫理を吹き込む指導者とも言われる、哲学者のアマンダ・アスケル氏も英国籍だ。AIの安全性をつかさどる中心人物が、その安全性を理由に最新モデルへのアクセスを禁じられる構造になってしまっている。彼らを抜きに米国人だけでAI開発を継続するのは事実上不可能だろう。
Anthropicは声明で、今回の措置が技術的事実や透明性に基づかないものだと批判しつつ、早期復旧への決意を示した。同社は水面下で米政府に対し、即座にみなし輸出ライセンスの特例申請を行っていることだろう。米政府は申請を受け、特定の外国籍従業員に対する例外アクセス許可を速やかに与え、社内でのアクセスを許すべきだ。問題はその許可がいつ下りるか。通常、国家安全保障が絡む複雑な案件は、許可までに6カ月程度かかると言われている。半年後ではあまりにも遅すぎる。Mythosのプレビュー版が4月、ごく一部の組織に試験公開された際「極めて能力が高く、それゆえに安全保障上危険なAIモデルでもある。しかし中国のAIも6カ月もあれば追いつくだろう」との意見も聞かれた。他のAIモデルの一部を盗用する「蒸留」が前提だとしても、猛烈に米国を追いかけるZhipu AIのGLMやDeepSeek、アリババのQwenなど、中国勢の存在は決して無視できない。
政府による非公開の書簡一本で民間AIモデルの流通が強制停止されたのは前代未聞だ。影響はAnthropic1社にとどまらず、OpenAIやGoogle、xAIなどAIモデル開発にしのぎを削っている全ての米企業に及ぶ。「強力なAIを開発してしまうと米政府に止められる」となれば、AI開発のスピードはぐっと遅くなる。あるいは米政府が恣意的にAI開発を許可したり止めたりするような事態になれば、開発に携わる外国籍の天才たちは米国外に流出してしまうかもしれない。こうしたAI開発の「内紛」で、漁夫の利を得るのは中国勢だ。なりふり構わず猪突猛進する彼らが世界のAI覇権を握る可能性を高める。米政府のAnthropicに対する今回の措置は究極の愚行だ。(BCN・道越一郎)
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