沈みゆく一眼レフを「小さなボート」では救えない

 カメラ業界が久々に賑やかだ。新しいマウントをひっさげてフルサイズミラーレス一眼市場にメーカー各社が相次いで参入し始めた。ニコン、キヤノン、パナソニック、シグマ、ツアイスと、そうそうたる面々が新規格に大きく舵を切った。撮像素子の大きさが、現在主流のAPS-Cに比べ2倍以上も大きく高画質の写真が撮れるうえ、ボディーやレンズがコンパクトに収まるため人気が高まっているからだ。これまでソニーの独壇場だったが、この秋からニコンの「Z7」を皮切りにキヤノンの「EOS R」、パナソニックの「LUMIX S1/S1R」と来春にかけて次々と新規格のカメラが続々と店頭に登場する。縮小著しいカメラ市場にとって、起死回生の一打となるか注目が集まっているが、現実にはそう簡単な話ではない。

フルサイズミラーレス一眼(上、Nikon Z7/24-70mm F4)とフルサイズ一眼レフ
(Nikon D850/24-70mm F2.8)の比較。明らかにミラーレス一眼がコンパクトだ

 フルサイズミラーレス一眼は現在、デジカメ市場で唯一ホットな市場だ。例えば2018年9月、一眼レフは前年比で台数4割減、金額5割減と急速に縮小しているなか、フルサイズのミラーレスは台数前年比2.6倍、金額に至っては3倍増と絶好調。APS系のミラーレス一眼も台数で3割増、金額でも4割増と好調だが、フルサイズの勢いの前ではかすんでしまうほど。各社の参入が相次ぐのは、沈みゆく一眼レフという船からミラーレス一眼、しかも最も伸び率と価格が高いフルサイズミラーレス一眼という船に飛び移ろうとする動きに他ならない。しかし、それは「小さなボート」だ。
 
フルサイズミラーレス一眼に一番乗りで参入したのがニコン。
Z7はこの9月に発売した

 理由は「高い」からだ。レンズ交換型デジカメの税別平均単価は9万円弱。一方フルサイズミラーレス一眼の平均単価は25万円弱と、3倍近い価格の開きがある。そのため、フルサイズミラーレス一眼の販売台数は5%にも満たないニッチな市場だ。販売金額でも1割強に過ぎない。

 このきわめて狭い市場に各社が「突撃」しようとしている。確かに伸びてはいるものの、今後メインストリームになれる価格帯ではなく、待っているのは値下げの消耗戦だろう。伸び率は緩やかだが、3割を占めるAPS系の撮像素子を搭載するミラーレス一眼との合わせ技で、市場全体を活性化することが不可欠だ。
 
デジカメトップシェアのキャノンも続いてフルサイズミラーレス市場に参入。
EOS Rは10月に発売した
 
ライカのLマウントを採用し、パナソニックやシグマもフルサイズミラーレス一眼市場に参入する

 もちろん「スマホの画像に嫌気がさした消費者が新製品に触れて突然カメラの有意性に気づき、これまでの3倍の出費も厭わなくなる」というバラ色のシナリオもなくはない。しかし確率はきわめて低い。むしろ、10万円超えが当たり前になりつつあるスマホに押されて、カメラへの支出はますます縮小していく、というほうが現実的だ。カメラメーカー各社がようやくミラーレス一眼に本腰を入れ始めたことは、一写真ファンとしても大いに歓迎したい。しかし、極めて重要なのは二の矢三の矢だ。(BCN・道越一郎)


*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。