ライカに訊く。スマホはカメラの敵か?

インタビュー

2018/10/07 12:00

 「スマホはカメラの敵ではない」。ライカカメラAG・写真ビジネスユニットのStefan Daniel グローバル ダイレクターは、はっきりとそう言った。ドイツ・ケルンで開催されたフォトキナ2018、ライカブースでのインタビューだ。そもそもデジカメ市場を急速に縮小させた「主犯」はスマートフォン。これは間違いない。しかし「少なくともライカのようなハイエンドカメラ市場にとってはスマホの拡大は追い風」だという。今や世界2位のスマホメーカー、ファーウェイ、さらに他のカメラメーカーと35mmフィルムカメラを発明した世界最強のカメラブランド、ライカが組む狙いはどこにあるのか。

カメラを構えたお得意のポーズをとる、ライカカメラAG・写真ビジネスユニットの
Stefan Daniel グローバル ダイレクター

 「もちろんライカにとって、ファーウェイからのライセンス料収入は大きな魅力だ。それ以上に、スマホのような小さなボディーで高品質のカメラを実現させるというノウハウが得られるメリットも大きい。さらに、ファーウェイはスマホの巨人。莫大なマーケティング費用でライカの名前を世の中に知らしめることもできる。この恩恵も大きい」(Daniel グローバル ダイレクター)

 ファーウェイがライカとの提携にこぎつけたのは2014年。その後、2年をかけて製品を練り上げ、16年にライカブランドを冠した初のスマホ「HUAWAEI P9」をリリースした。以降、「P10 Pro」などを経て、今年「P20 Pro」を発売。写真の完成度が一気に高まったと特に評判だ。「ファーウェイとの協業では、ライカからは画像のあり方や品質、いい写真とはどんなものであり、そこに何が必要かといったノウハウを提供する。一方で、ファーウェイからは、AIや画像認識のアルゴリズムといった最新のテクノロジーについて共有を受ける。ゆくゆくはハイエンドのカメラもスマホで得られた技術生かしていくことになるだろう」。Daniel グローバル ダイレクターはそう語った。
 
スマホの技術もライカのハイエンドカメラに生かしていくと話す、
Daniel グローバル ダイレクター

 今回のフォトキナで最も大きなニュースの一つは、ライカLマウントアライアンスの発表だった。パナソニックシグマフルサイズミラーレス一眼のフォーマットとしてライカLマウントを採用。3社がそれぞれレンズやボディーを市場に投入していく、というものだ。しかし、ファーウェイとライカの関係のように製品を共同で開発するわけではなく、あくまでもLマウントという規格を中心にしたつながりだ。「3社は独立した企業として商品戦略をお互い共有することはない。それぞれ個別・秘密裏に開発を進めていく。しかし今回、3社の間でLマウント委員会を発足させた。マウントの進化のためにそれぞれで規格のすりあわせを行うためのものだ。3社が双方に新たな技術を生かしながら、Lマウントを発展させていくことを目指している」(Daniel グローバル ダイレクター)。
 
フォトキナ2018開幕前日の9月25日、
ライカ、パナソニック、シグマによるLマウントアライアンスが発表された

 パナソニックとは13年から、シグマとは16年から、フルサイズミラーレスの協議を始め、Lマウントアライアンスが誕生した。「3社ともそれぞれ毛色が違い、背景も異なることに意味がある。まずは、ライカ、パナソニック、シグマの3社からのスタート。今後Lマウントアライアンスに参加したいという企業があれば、静止画系だけでなく動画系の企業からの要請でも排除することなく検討していきたい。ライセンス料に関しては、詳しく話せない」。気になるのはパナソニックとマイクロフォーサーズで組んでいるオリンパスの動向だ。しかし、現時点ではLマウントアライアンスへの参加は表明していない。

 もう一つフォトキナ2018で、ライカとの連携で地味ながらも注目を集めていたのがロシアのゼニットだ。ソ連時代にフィルムカメラの有名ブランドとして知る人ぞ知る存在。「2年前にデジタルで再参入したいとの相談があった。そこで、ライカのレンジファインダーカメラ『M240』をベースに『Zenit M』としてOEM提供することになった」。Daniel グローバル ダイレクターは、Zenit M登場の内幕を明かした。
 
ロシアの老舗フィルムカメラブランド、ゼニットが「Zenit M」で復活

 ライカの発想の起点は「いい写真の追求」。そこへ、小さなフォーマットのファーウェイ、Lマウントでパナソニック、シグマ、Mマウントでゼニットまでもが集まってきた。ライカの広がりはここにきて急だ。どんなフォーマットであれ姿勢にブレはない。研ぎ澄まされた審美眼そのものがライカの存在価値だ。彼らを越える企業は、いつ、どこに現れるのだろうか。(BCN・道越一郎)