【ドイツ・ケルン発】リコーは9月25日、コンパクトカメラ「GR」シリーズの最新モデル「RICOH GR III」の開発を発表。9月26日からドイツ・ケルンで開催されているフォトキナ2018で参考出品した。来春のできるだけ早い時期に発売し、価格は1000ユーロ以下を目指す。

 フィルム時代から連綿と続くコンパクトカメラのブランドGR。小型で機動力がありながら画質の高い写真が撮れるカメラとして「スナップシューター」との異名を持ち、ファンも多い。しかし、現行モデル「GR II」発売の2015年7月から丸3年たっても新モデルの情報がなく、もうGRの後継モデルは出ないのではとも心配されていた。そこへようやくの開発発表だ。これまでのパターンでは2年で新製品が登場していただけに、なぜこれだけ遅れたのか。担当者に直撃した。
 
GRのキーパーソン3人衆。
左からSmart Vision事業本部カメラ事業部商品企画部の岩崎徹也 部長、
Smart Vision事業本部カメラ事業部商品企画部の野口智弘 副部長、
Smart Vision事業本部カメラ事業部商品企画部の荒井孝氏

 「今回はレンズ、センサー、画像エンジンとカメラの主要な要素の全てを刷新した。シリーズ初の試みだったため時間がかかった。GR開発の中止などが社内で議論されていたわけではない」と話すのは、ファンからミスターGRとも呼ばれている、Smart Vision事業本部カメラ事業部商品企画部の野口智弘 副部長。GR消滅の危機感は単なる杞憂だったようだ。「確かにこれまでは2年に1度のモデルチェンジだったが、別にそう決めていたわけではない。多くの要望に応えるためには、主要パーツ全てを新しく作り直す必要があった」と野口副部長は語る。

 「画素数は多ければいい、というものでもないが、より高い画質を目指して2424万画素のセンサーを採用。フォーカススピードの向上のために像面位相差とコントラストの両方を使ったハイブリッドAFを搭載した。これまでのGRは確かにピントのスピードが遅かった。被写体によって多少迷うこともあった。これで体感的にはだいぶストレスがなくなると思う。また、画素数を増やした結果、二つの副作用にも対応する必要があった。一つはデータ量が増えるため、それでもサクサク動く新しいエンジンを設計。もう一つは、手ブレに対してよりシビアになるため、手ブレ補正機能の搭載だ。レンズについても、これまで10cmまでしか寄れなかったものを6cmまで寄れるようにした」という。
 
ストロボが廃止されたぐらいで、見た目には大きな変化が見られないGR III。
しかし中身は総刷新されている

 GRユーザーには「カメラに手振れ補正などという軟弱な機能は必要ない。シャッターは息を殺して静かに押すものだ」と主張する昔気質のファンも多い。それでも手ブレ補正を入れたのはなぜか。「確かに、そういう方もいらっしゃる。とはいえ、今回の高画素数センサーでは、かなり手ブレに厳しい。高画質をしっかり体験していただくには手ブレ補正の導入は不可欠と判断した」と語るのは、Smart Vision事業本部カメラ事業部商品企画部の荒井孝氏。「幸い、ペンタックスで以前から使われている手ブレ補正機構、SR(Shake Reduction)を使うことができた。GRの小さなボディーに詰め込むためにずいぶん苦労したが、おかげでセンサーについたゴミを振るい落とす機能にも応用でき、これまでの懸案がもう一つ解決できた。補正効果は現在チューニングしている最中だ」とも明かした。

 GR IIの不満の一つはあまり寄れないことだった。APS-Cという大きなセンサーの宿命でもある。今回どうやって6cmまでの寄りを実現したのか。荒井氏は「GR IIIのレンズは4群6枚で、前モデルより1群1枚減らすことができた。その分軽くなり、フォーカススピードも上がった。さらに、レンズ部が薄くなることでレンズをより沈胴させることができるようになった。結果として6cmまで被写体に寄れるようになった」と話す。レンズ設計を行っているSmart Vision事業本部カメラ事業部商品企画部の岩崎徹也 部長は「小さく、枚数が少ないレンズで、高画質を実現する設計はとても難しい。机上の計算でうまくいったとしてもそれだけではない。大量生産の際もきちんと安定して性能が出るように追い込んでいくのが特に大変だ」と語る。「ほんのわずかな誤差も許されないのが小さなレンズの難しさ。それだけに、カメラの中で最も時間がかかる」ということも、開発に時間がかかった一つの要因のようだ。
 
GRの魅力は小さなボディーに凝縮された信頼感と速写性。新製品でますます磨きがかかった

 25日に発表されたGR IIIのスペックシートでは、感度の欄に「ISO100~未確定」と書かれている。「まだ、画質のチューニングはこれからという段階。最高感度はチューニングの結果で決めていく。当然GR IIの最高感度25600よりは上を目指すことになるが、やみくもにスペック上の感度だけを上げるようなことはしない」(荒井氏)という。野口副部長も「大体ISO12800あたりまでで、高画質が実現できれば使い勝手もいい。そのラインを狙って現在作りこんでいる」と話す。現在市販されているカメラの大部分は最高感度で撮影した画像はほとんど使い物にならないものばかりだが、GR IIIにはそのような心配はなさそうだ。

 ところで昨今のフルサイズブーム。ミラーレス一眼を中心に、にわかに広がりを見せているが、GRフルサイズという可能性はあるのだろうか。「確かにフルサイズコンパクトという製品は十分ありうると思う。しかし、それはもうGRではないかもしれない。仮にやるとしても別ブランドでの展開という可能性が高いだろう。GRブランドなら、逆にAPS-Cよりも小さなセンサーのモデルといことも考えられる。大型センサー搭載のカメラだけがいいカメラというわけではない、ということも提案してみたい」(野口副部長)。「ほかにもフルサイズの可能性は選択肢としてはあると思う。まだこれはやる、これはやらないと決めてはいない」(岩崎部長)。現在リコーは、ペンタックスブランドも含めミラーレス一眼は「ペンタックスQ-S1」のみ。センサーサイズが1/1.7とコンパクトカメラ並みのセンサー搭載のモデルで、大型センサー搭載のミラーレス一眼はない。今後、大型センサー搭載のミラーレス一眼登場も可能性はあるということだろう。
 
こじんまりとしたフォトキナ2018リコーブース。
GR IIIは片隅で、しかし燦然と存在を主張していた

 最後に縮小続くコンパクトカメラにおけるGRの位置付けについて、野口副部長に語ってもらった。「もともと、コンパクトカメラの縮小にほとんど影響を受けていないのがGR。ハイエンドコンパクトの市場は元気だ。富士フイルムもGRと似たカメラをリリースしたが、コンセプトも異なり、GRと直接競合することはないと思う。GRはプラスで持ってもらうカメラ。いわば、一眼レフユーザーが、28mmのレンズを一本増やす感覚だ。スマホの写真もかなり進化して、いい画が撮れるようになっていると感じる。しかし、撮るプロセスの楽しみはスマホでは味わえない。持つことで普段見ていないものを見てみようという気分にさせることができるのも、カメラだからこそ」。来春のGR IIIが楽しみだ。(BCN・道越一郎)