年末商戦の目玉商品になりそうな「格安4Kテレビ」をめぐり、メーカーと流通が激しくバトル。製造委託先の中国工場の品質が向上していることで、白物、クロモノ問わずに製造ラインの奪い合いが発生している。部材費、人件費の高騰もあり「格安」の維持は楽観視できない。


<POINT>
(1)流通各社の「格安4Kテレビ」が話題
(2)中国工場の品質向上でラインがひっ迫
(3)部材、人件費の高騰が悩み

「ヤマダ・船井連合」迎え撃つドン・キホーテとノジマ

 家電量販最大手のヤマダ電機が北米のテレビ市場で高いシェアを誇る船井電機と独占販売契約を結び、4Kテレビ5シリーズを発売したのは6月2日のこと。「船井電機と独占契約を結ぶことで競合店が扱えないことで、急激な価格下落を避けることができる」と、桑野光正社長兼代表執行役員COOは高粗利が期待できる4KテレビのPB商品化に成功したことを今年1月のBCNの取材に答えている。ヤマダウェブコムにおける49型・4100シリーズの価格は、11月16日現在で税別12万9800円だ。
 

「格安4Kテレビ」の火をつけたドン・キホーテ

 流通とメーカーがタッグを組んだ「ヤマダ・船井連合」の4Kテレビが発売されてからわずか13日後の6月15日、ディスカウントストア最大手のドン・キホーテが50型の格安4Kテレビ「ULTRAHD TV 4Kテレビ」を発売。

 初回生産分3000台はわずか1週間で完売した。税別5万4800円、税込み6万円を切る圧倒的に安い価格が受け、7月14日に予約を再開するも、追加した1400台も即日に受付終了となった。10月3日発売の第2弾の「50V型ULTRAHD TV 4K液晶テレビ(LE-5060TS4K)」も、初回ロット分は完売したという。
 

本社があるドン・キホーテ中目黒本店

 流通の格安4Kテレビはノジマにも波及した。11月上旬発売予定だった「ELSONIC(エルソニック)」というPBで55型「ECS-TU55R」(税別6万9800円)、49型「ECS-TU49R」(5万3800円)が、10月7日の予約開始が数日で受付終了した。その後も「12月末以降入荷予定分」としていたものが、既に完売している。

12月末以降入荷予定分も「完売御礼」のノジマオンライン

 あるメーカーでは、格安4Kテレビへの新規参入を計画している。格安かどうかはわからないが、発売がずれ込んでいるアイワからも4Kテレビが登場する予定で、発表当時から市況が変わり、価格を意識せざるを得ない状況になっている。年末商戦に突入する前から盛り上がりをみせる「格安4Kテレビ」だが、不安材料もある。

アイリスのエアコンがない! メーカーと流通が奪い合い

 そのひとつが、中国のテレビ工場の生産品質が向上したことによるメーカーと流通の製造ラインの奪い合いだ。テレビのPBを企画・販売する家電小売の役員は「実際に現地の工場を見に行ったが、想像とは違い清潔な環境にびっくりした。半導体工場のクリーンルームのように、透明なパネル越しからしか確認できず、逆に裏で何かしているのではないかと疑ってしまうほど、最新鋭の製造装置を導入している様子を見て安心した」と語る。

 その一方で、委託する企業数が増えた結果、製造ラインの確保が難しくなり、生産計画が当初よりも遅れたという。「格安4Kテレビの登場による値付けの迷いもあるが、それ以上に委託する中国メーカーの選択肢が限られ、ある家電メーカーと製造ラインの取り合いになった」と流通とメーカーによる争奪戦を赤裸々に語る。「当社が先に確保できたからよかったが、逆の場合、発売は大幅に遅れる可能性があった」と振り返る。

 中国の製造ラインがひっ迫している状況は、テレビに限らず白物家電でも同じだ。今夏、エアコン市場に新規参入したアイリスオーヤマの製品が、家電量販店の売り場には潤沢に供給されず、品薄が続く事態が発生した。家電事業部の石垣達也統括事業部長は、9月の事業方針発表会では詳細を語らずに「十分に勉強させていただいた」と述べるにとどめたが、家電流通への周辺取材では「あらかじめ確保していた中国の製造委託先が、あるメーカーからのオーダーを優先してしまい商戦期に間に合わなかったようだ」と、メーカーと流通による製造ラインの奪い合いはテレビ同様にエアコンでも起きていた。

 白物家電のPB商品に力を入れる家電卸トップも「自社で企画したPBの製造を委託している工場の品質が向上し、大手家電メーカーも使うようになってバッティングすることは珍しくない」と裏付ける。

 扇風機のPB商品を開発・製造する別の家電卸の担当者は「委託する中国メーカーが5社程度に集約されてきて、どこも同じようなPB商品になる」と頭を抱える。プライベートブランドにとって、差別化できなければ命取りになる。

 それ以外にも「部材と人件費の高騰で、来年は今年と同じ価格がつけられなくなりそうだ」と、製造原価の高騰が価格に反映されて「格安」が打ち出せなくなることを懸念する。状況が刻一刻と変化するなか、製造ラインの争奪戦に敗れ、発売タイミングが遅れて赤字になる事態だけは避けたい。「4Kテレビ」の「格安」の実現は、メーカーや流通にとって楽観できない状況にある。(BCN・細田 立圭志)