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「キャッシュレス決済」導入きっかけに、家電量販で「DX」推進なるか

【家電量販のDX・下】 家電量販店のデジタルトランスフォーメーション(DX)の第一歩として、キャッシュレス決済の動向は外せない。家電流通の歴史を後から振り返っても、「2019年はキャッシュレス決済元年だった」となるに違いない。オリンピックイヤーの20年は家電需要の盛り上がりが期待されるが、販売の現場でAIやIoTによるデジタルテクノロジーを駆使することなく、人手不足の解消や売り上げの拡大、利益の増加は見込めないだろう。家電量販のキャッシュレス決済の「現在地」を確認する。

家電量販店でもスマートフォン決済の対応が広まった

スマホ決済が一気に広まり、ビックカメラは単月23%増

 家電量販店でキャッシュレス決済の導入の起爆剤になったのは、18年12月に実施したスマートフォン(スマホ)決済サービス「PayPay」の「100億円あげちゃうキャンペーン」だった。PayPayで支払うと20%相当のポイントが還元されるということと、ポイント発行総額の上限が緩かったことから、高単価商品の多い家電量販店に客が押し寄せた。

 当時はまだ、スマホ決済サービスの認知度が低かったこともあり、家電量販の中でもスマホ決済に敏感な都市部に店を多く抱えるビックカメラに顧客が殺到した。

 ビックカメラ単体の18年12月における売上高は、23.4%増(速報ベース)に急増。宮嶋宏幸社長は、19年10月に開催した決算説明会で「通常の値引率の低いApple製品やゲームの購入にお客様が殺到した」と説明し、普段はあまり値引きをしない商品に集中したことを明かした。一般ユーザーだけでなく、その差益で儲けようとする転売業者などのターゲットにもなったとされる。

 ビックカメラの18年12月における製品ジャンル別の売上伸び率をみると、PCを含む情報通信機器が32.9%増、ゲームを含むその他商品が26.9%増だった。テレビなどの音響映像商品(14.5%増)や白物家電などの家庭電化商品(19.2%増)も好調だったが、それをも大幅に上回る勢いだったことを示す。

 通期決算の月別売上推移を記した資料にも、PayPayのキャンペーンと消費増税の駆け込み需要の影響が克明に示されている。
 
ビックカメラの決算説明会資料を基にBCNで作成

 当時、ヤマダ電機やエディオン、上新電機などもPayPayに素早く対応はしていたが、キャンペーン原資の100億円がわずか10日間で底をついたことから、郊外店までキャンペーンの認知が広がる前に終了してしまった。

 「ビックカメラの一人勝ちだった」と、ちょうど18年12月から新4K8K衛星放送のスタートが重なったことで4Kチューナーが品薄になるほど売れた業界団体関係者は証言する。いずれにせよ、このキャンペーンがきっかけとなり家電量販各社のスマホ決済対応が一気に広がったのは明らかだった。

現金値引のケーズデンキもスマホ決済でポイント還元

 課題もあった。当初は、顧客がスマホでQRコードを読み取ってから金額を入力して店員と目視確認してから支払うという決済方法だった。これではPayPay以外のサービスに対応しようとすると、その数だけ売り場にQRコードを設置しなければならず、かえって現場オペレーションに支障をきたすことが想定された。

 そこで、各社は店舗レジのバーコード読み取り機で、POSと連動する方式を導入した。これによって、現金決済よりも会計処理の時間が短縮できるキャッシュレス決済本来の効果が期待できるようになった。

 この方式で一気に巻き返しを図ったのは、スマホ決済対応で出遅れていたケースホールディングスだ。19年3月7日に7種類のスマホ決済サービスに一斉対応することを発表。創業以来、現金値引を貫いていたケーズデンキでさえ、スマホ決済のポイント還元に抗えなかったことを象徴する出来事だった。

 LINE Pay、d払い、PayPay、楽天ペイ、Origami Pay、Alipay、WeChat Payなど、7種類のスマホ決済サービスがPOSレジ端末だけで対応できるようにした。その後も、au PAY、メルペイなどに対応していった。ケーズホールディングスの平本忠社長は、導入前の19年2月の決算説明会で「(中小小売店向けの)屋台方式ではなく、POSと連動させることが重要」と語っており、当初から計画的に同社の基幹システムと連携させることを狙っていた。
 
スマホ決済サービスの対応について語るケーズホールディングスの平本忠社長(19年2月4日の会見)

 この辺りは「がんばらない経営」を掲げて、仕事の無駄を排除して正しいことを無理せず行うことで結果的に効率的で生産性の高い店舗運営を真骨頂とするケーズデンキらしさをのぞかせた。端的に言えば、「急がば回れ」の戦略である。

「現金払いより顧客と店にメリット」

 その後も、続々とスマホ決済サービスが登場してくるが、対応するサービスの数に違いがあるものの、ビックカメラ、エディオン、ヤマダ電機、上新電機なども多くのサービスに対応した。特に精力的に取り組む業界最大手のヤマダ電機は、19年12月10日時点でJ-CoinPayにも対応し、ゆうちょPayを含む10種類のサービスに対応している。

 既存のクレジットカードなどのキャッシュレス決済を含めるとサービスが乱立状態だが、今では店舗のレジカウンターにスマホ決済用のバーコード読取端末と非接触化型のFelica端末、クレジットカード用端末の三つがあれば、キャッシュレス決済の事が足りる仕組みになっている。
 
スマホ決済用バーコード読取機とと非接触化型のFelica端末、クレジットカード用端末(ビックカメラ)

 ビックカメラなんば店は、インバウンド(訪日外国人)で賑わう店舗として知られる。クレジットカードのほか、WeChatペイやAlipay、NAVER Payなどに早くから対応していたこともあってか、同店のレジ周りには、目まいがしてしまうほど多くのキャッシュレス決済対応の一覧表が設置してある。
 
ビックカメラなんば店のキャッシュレス決済対応一覧

 実際に現場で働く山田洋樹店長代理に話を聞くと、「キャッシュレスだとお客様を待たせずに済むし、店舗側の作業効率も上がる」と語る。慣れると、現金払いよりもキャッシュレス決済の方が、顧客と店の双方にとってメリットがあるという。

 20年は東京五輪商戦が待ち構えており、大画面テレビの買い替えがさらに進むことが予想される。PCでは、1月14日のWindows 7のサポート終了もあり、 全国の主要家電量販店・ECショップのPOSデータを集計した「BCNランキング」によるPC販売台数が、10月に増税の駆け込み需要の反動減で前年同月比85.5%と落ち込んだが、11月に117.1%に急速に回復した。

 白物家電は、時短ニーズの高まりなどから、底堅い買い替え需要に支えられるだろう。こうした中、家電量販の現場では人手が足りなくても切り盛りしていかなければならない。20年は、さまざまな業界や業態にデジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せるだろうが、家電量販各社のDXも「キャッシュレス決済元年」をきっかけに弾みをつけたいところだ。(BCN・細田 立圭志)