スマホとパソコン、オーディオと通信端末、そしてAI。従来のエレクトロニクス機器を分類していた境界線が徐々に形を変えている。このことを象徴する三つの製品が2019年に発売された。それぞれの特徴を振り返ってみたい。

新OSを得たiPadはノートPC最強のライバルに

アップルの第7世代「iPad」。iPadOSがマウスの接続にも対応したことでより
ノートPCライクな使い方ができるようになった

 最も安価なモデルが税別3万4800円から買えるアップル第7世代のiPadが、ノートPCの最大のライバルとして急成長を遂げた。全国の家電量販店やECショップのPOSデータを集計する「BCNランキング」からもその好調ぶりがうかがえる。アップルはメーカー別の販売台数シェアで6~7割を年間を通してキープ。シリーズ別の販売台数シェアランキングでも上位を独占した。

 2019年の秋にはiPadのために最適化された「iPadOS」が誕生した。複数アプリによるマルチタスク機能や純正「ファイル」アプリによるドキュメント管理がとても使いやすくなった。外部ストレージにも対応する。

 そして、アップル純正の「Smart Keyboard」やマウスが使えるようになり、ビジネスツールとしての機能性が飛躍的にアップ。Apple Pencilも使えるので、漫画やイラストを描く若いクリエイターの中にもiPadを選ぶユーザーが増えていると聞く。

 セルラー機能を搭載するiPadならば、SIMカードを装着すればWi-Fiにつながなくても常時様々なクラウドサービスが利用できる。モバイルルーターやスマホのテザリング機能も必要ない。iPadはいまや「スマホみたいに使えるノートPC」だ。

 2020年にはインターネットに常時接続できるモバイルPCが専業各社から続々と発売されそうだ。先日クアルコムがモバイル向けSoC「Snapdragon」シリーズの発表会を開催し、常時接続モバイルPC向けの新しいSoC「Snapdragon 8c/7c」をローンチした。中級・初級クラスのモバイルPCにも搭載できるコストメリットも提供するSoCだという。
 
クアルコムが常時接続モバイルPCのためにSnapdragonシリーズの「PC用SoC」を開発。
8cx/8c/7cの3本立てでラインナップを展開している

 iPadの独走を阻む常時接続モバイルPCの新製品が、マイクロソフトのSurfaceシリーズをはじめWindows OS陣ににも続々と生まれて競争が盛り上がることを期待したい。

ノイズキャンセリングなど多機能化するワイヤレスイヤホン

ソニーのアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載する完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM3」

 2019年の夏にソニーが完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM3」を発売した。本機はリスニング環境周辺の騒音だけを消して、静かに音楽リスニングが楽しめるアクティブ・ノイズキャンセリング(ANC)機能を搭載している。

 秋にはアップルがANC機能を搭載する「AirPods Pro」を発売したことから、ANC機能付き完全ワイヤレスイヤホンがいま注目されている。来年はヤマハやボーズの新製品も発売を控えている。北米で先行発売されたアマゾンの「Echo Buds」の日本上陸もあるだろう。

 完全ワイヤレスイヤホンの出来映えはワイヤレスオーディオ専用に開発されたSoCの機能と性能に直結している。アップルの「Apple H1」や、ファーウェイのイヤホン「FreeBuds 3」が搭載している「Kirin A1」のように、各社が独自にSoCを開発して自社系製品の差別化に利用する事例もあるが、多くのオーディオメーカーはクアルコムをはじめ、半導体メーカーが開発した高性能SoCを土台にして、独自に味付けを施したイヤホンを商品化している。

 音質やANC機能の性能を巡る競争はこれからも激化すると思うが、一方でクアルコムの「QCC51xxシリーズ」のように各種センサーをつないで高度に制御できるパフォーマンスを備えたSoCもある。たとえば、国内のヒアラブルデバイスのベンチャーであるネインは、クアルコムのSoCに心拍センサーをつないでユーザーの生体情報をトラッキングできる完全ワイヤレスイヤホンの開発を進めている。
 
クアルコムのワイヤレスオーディオ用SoCを搭載して、各種センサーやAIアシスタントへの対応を強化したワイヤレスイヤホンが2020年は特に増えそうだ。写真はネインが開発を進める心拍センサーを内蔵した完全ワイヤレスイヤホンのプロトタイプ

 今後ワイヤレスイヤホンは音楽を聴くためのオーディオ機器としての枠を超えて、高性能なSoCの力を借りながらユーザーの健康管理やコミュニケーションをサポートするスマートデバイスの境界線内に踏み込んでくるだろう。

生活に溶け込みだした音声操作&AIアシスタント

アマゾンの壁コンセントに直挿しできるスマートスピーカー「Echo Flex」

 2019年にはアマゾンからAIアシスタント「Alexa」を搭載するさまざまなEchoシリーズのスマートスピーカーが発売された。このEcho Flexはとりわけユニークな製品だ。

 スピーカーとしての音響性能はもう一息な感じもするが、壁コンセントに直挿しができるので、音声操作に対応するスマートデバイスを隠して設置できる。マイクの性能は十分なレベルを確保しているので、音声コマンドに機敏に応答を返してくれる。

 底面に配置されたUSB端子にナイトライトやモーションセンサーを搭載したオプションユニットを追加すれば、スマートスピーカー+αの機能が拡張できる点も優れている。筆者はEcho Flexを自宅の玄関に設置して足元灯として活用している。玄関の照明はフィリップスのHueシリーズを設置しているので、出かける時にいつもリビングのEcho Spotに向かって大声で叫ばなくても、近場にいるEcho Flexに話しかけて電気が消せるようになったことに満足している。
 
オプションのLEDライトを装着すると玄関の足元灯にもなる。明るさセンサーが内蔵されている

 Echoシリーズは発売以来、音楽を聴くための“スピーカー”として注目されてきたが、いまでは日常生活にちょっとした利便性を追加してくれるスマートデバイスとして様々な家電と結び付きながら、私たちの生活を少しずつ豊かにしている。

 リビングの照明器具や風呂場の鏡、子ども部屋の暖房器具などにAlexaがビルトインされて、次第に宅内の様々な場所にAIアシスタントと音声でコミュニケーションできる環境が広がってきた。家がまるごとAIアシスタント対応になる日も遠くなさそうだ。欧米に後れを取ってきたと言われる日本でも、いよいよ2020年にはスマートホームがブレイクするかもしれない。

 家電製品の境界線は、何でもこなせるハイパワーなSoCと、AI・5Gのテクノロジーによって徐々に形を変えている。新しく生まれた空間に、魅力的な製品やサービスを迅速に投入してくるブランドやメーカーには2020年も要注目だ。(フリーライター・山本敦)