「一番こだわったのは書き心地」。社長はそう言い切った。デジタル時代の手書きメモとも言える「QUADERNO(クアデルノ)」は、これまでの製品とはひと味もふた味も違う道具としての魅力がある。開発した富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の齋藤邦彰社長CEOに、そのこだわりを聞いた。

QUADERNO(クアデルノ)開発で一番こだわったのは書き心地と話す
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の齋藤邦彰社長CEO

 専用のペンを使い、白黒の画面に書き込む電子メモ、クアデルノ。細部に至るまで、さまざまな工夫が施されている。まずペン先だ。「先が減っていくんですよ。私も毎日使っていますが、1カ月に1回程度はペン先を交換しています」と齋藤社長。

 画面も少しざらざらしている。減っていくペン先とのコンビネーションで、極めて紙とペンに近い書き心地を実現しているわけだ。本体の薄さ、軽さ、バッテリの持ちも傑出。A5サイズバージョンでは、薄さ5.9mm、重さ251g。一度の充電でおよそ3週間も使用可能だ。11GBもの広大なスペースに大量のドキュメントを保持できる上、それぞれに書き込むこともできる。

 「人と紙とは長いつきあい。人間は書くと頭が働き内容を覚えますし、書くことで考えていることが引き出されていきます。ただ、大量の紙の資料を持ち歩くのは大変。膨大なメモや手帳を鞄に入れておくこともできません。そこで、書くという行為とデジタルを結びつけ、限りなく紙とペンの使用感に近づけて現代の文房具として開発したのがクアデルノなんです」。齋藤社長は書くことの効用をデジタルの利便性を結びつけたと話す。

 電子メモの利点は他にもある。セキュリティだ。「紙のメモ」なら金庫にでも入れなければ情報は漏れ放題だが、電子メモなら、パスワードでロックすることが容易。FeLiCaでロック解除することもでき、使い勝手はいい。
 
手書きするという行為が頭を活性化し考えていることを引き出すと話す
齋藤社長

 スマートフォンやPCとWi-Fi接続することもでき、ドキュメントを簡単にやりとりすることはできるが、ウェブサイトを閲覧するような機能はない。ファイル形式はPDFのみで、Kindleなどの電子書籍を閲覧することすらできない。

 「最初はブラウザ機能も考えていましたが、iPadなどのタブレット端末との違いがなくなってしまう。バッテリの持ちも犠牲にしなければなりません。それならいっそ余計なモノをそぎ落とそうということで、紙の電子化に特化しました」(齋藤社長)。電子機器というより文具。家電量販店の文具コーナーで販売することをイメージしてつくったという。

 システム手帳の「リフィル」に相当する無料のひな形もある。スケジュールに始まり、ToDoリスト、ミーティングシート、大学ノート、方眼紙などの定番リフィルに加え五線譜、原稿用紙、記録ノート、ドットなど、多数のフォーマットが提供されている。

 手帳の代替も狙ってるというクアデルノだが、まだ二つ折りには対応していない。「折って内ポケットに入れて持ち歩ければいいかもしれませんが、開発するとしてもまだ数年はかかりそう。バッテリの問題でカラー化もまだ難しいですが、課題として考えている」と齋藤社長は話す。A5サイズが税込みで5万700円、A4サイズで7万1090円と、まだ決して安くない価格だが、量産効果が出ればもっと安くなることも期待できそうだ。
 

 紙に書くという行為の素早さ、確実性、安心感は何にも代え難いものがある。しかし、去年の手帳の片隅に書きとめたアイディアをすぐに見つけることができるだろうか。通勤時にふと思いつき、何百ページもある会議資料に書き込みを入れて、朝イチの会議に備えるなんてことができるだろうか。紙にペンで書という利点を維持しながら、デジタルの力を借りて膨大なデータを薄く軽く持ち歩ける。そんな「文具」を探しているなら、クアデルノは試してみる価値があるだろう。(BCN・道越一郎)