今年6月に開催の事業戦略発表会「LINE CONFERENCE 2019」で、LINEの慎ジュンホ代表取締役CWO(Chief WOW Officer)は、新ビジョン「Life on LINE」を掲げ、LINEがAIカンパニーを目指すと宣言。現在のEC・インターネットの普及を例に挙げ、「5年後、10年後、IT企業はAIをやるかやらないで分かれる。当時ちゃんと準備した企業と、疎かにした企業の現在はまるで違う」と話し、いまAIにしっかり取り組まない企業は出遅れると訴えた。

LINEの慎ジュンホ代表取締役CWO

ネット対応は捨てても出遅れても踏みとどまれたが……

 店舗販売など、対消費者(toC)のビジネスにも関わらずECをやっていない、そもそも公式サイトがないといったレベルは、販売チャネル、顧客とのタッチポイントとして“インターネットを捨てている企業”となる。

 問題なのは、全国/一部地域で展開するリアル店舗チェーンが有名であり、ずっと売上高も伸びており潤沢な資金をもとにEC分野に進出したにも関わらず、オンラインショップ、オンライン予約などで存在感のない(ECチャネルの売上が相対的に少ない)企業。それらは、全て“インターネット対応に出遅れた企業”だ。

 真っ先に思いつく、ネット対応に出遅れた印象の強い企業といえば、不正利用事件が発生し、実質フル稼働3日、サービス開始からわずか2カ月で終了することになったバーコード決済サービス「7pay(セブンペイ)」をリリースしたセブン&アイ・ホールディングスだろう。満を持して投入した総合通販サイト「オムニ7」を、現時点でAmazon.co.jpや楽天市場に匹敵する規模と判断する人は、ほとんどいないはずだ。

 肝心の“ネット”も変質している。2011年以降、インターネットを操作するデバイスは、デスクトップPC、ノートPCからスマートフォン(スマホ)に移行した。文字入力や情報収集はPCの方が便利だが、スマホしか保有していない(PCはほとんど使わない)層に向け、スマホファーストのサービスが続々と登場している。
 
インターネット対応に出遅れた企業、インターネットだけに強い企業、
インターネットからリアルに進出した企業……さまざまな企業がスマホでつながっている

ネットからリアルへ 楽天、LINE、メルカリが目指す王道の一手

 ここ数年のIT関連の企業の動向をみると、リアルで成功した企業のオンライン進出・インターネット展開はなかなか難しい一方、逆のパターン、インターネットで成功した企業のオフライン(リアル)進出は成功しているケースが多い。

 総合ECモール「楽天市場」の運営企業だった楽天は、いまやクレジットカード・証券・銀行・保険・損保の一大金融グループを抱える総合企業。街のお店で楽天ポイントが「貯まる・使える」ようになった2014年10月からの積極的な加盟店開拓が転換点だった。

 LINE自身は否定すると思われるものの、金融サービスを中心に据える楽天を追いかけており、LINE CONFERENCE 2019で予告した通り、8月20日に初心者向けスマホ投資サービス「LINE証券」、8月29日にグループ会社のLINE Creditを通じて、信用スコアを活用した個人向け無担保ローンサービス「LINE Pocket Money」を開始した。
 
「LINE Pocket Money」はAndroid版のみ先行提供。同じタイミングで、同じく信用スコアを活用した
ドコモユーザー向けの無担保ローンサービス「新生銀行スマートマネーレンディング」もスタートした

国内の労働人口減少、企業間競争のスピードアップを見据えたAI活用を

 リアルとオフラインを連携するマーケティング施策は、「オムニチャネル戦略」と呼ばれる。前述したセブン&アイのオムニ7の由来だ。

 幸いなことに、自宅近辺にさまざまな店舗が揃った街に住む限り、インターネットを利用しなくても生活は成立するため、そうした都市生活者にはオムニチャネルは大きなお世話だ。しかし、これからの日本で起きる労働人口の減少は、「近所の店で買い物がほとんど間に合う街」を減らす結果になるだろう。
 
LINE・ソフトバンク・メルカリの最新の決算発表資料には、「AI」や「FinTech」の文字が躍る。
なかでもLINEは、AIアシスタント「Clova」や、その技術を生かした
AIソリューションサービス事業「LINE BRAIN」を開始するなど注力している

 人手を介さず過去のパターンや行動履歴などをもとに機械的に判別する仕組みを「AI」と定義すると、現時点では、その要件を満たさない“なんちゃってAI”が多くを占めているかもしれないが、企業・団体にとって、システムの自動化・省力化は共通する課題。従来同様、人力や古い慣習に頼り、AIに取り組まない企業は今度こそ淘汰されるだろう。IT企業からAI企業へ、次のステージに向けて、すでに競争は始まっているのではないだろうか。(BCN・嵯峨野 芙美)