【日高彰の業界を斬る・34】11月1日、株式市場では通信事業者の銘柄が大幅安となっていた。NTTドコモの終値は前日からの約15%下げ、今年の最安値を更新する2426円となった。報道によれば、同社が1998年に上場して以来最大の下落率だという。他社も揃って売られ、KDDIは約16%安、ソフトバンクグループは8.2%安という波乱の値動きだった。この前日にドコモが、来年度に2~4割の値下げを伴う新料金プランを投入すると発表したことで、各社通信事業の収益低下が懸念されたためだ。

来春の値下げ発表で大幅下落したNTTドコモ株

 この夏の菅官房長官の「(携帯電話料金を)4割程度下げる余地はある」発言以来、料金高止まりに対する批判が強まっている大手携帯キャリア3社に、株式市場からも冷や水が浴びせられた格好だ。「もうけすぎ」という見方も根強い携帯キャリアに関して、この値動きを見て溜飲を下げる向きも一部ではあるようだが、実は通信株の低迷は国民にとってあまり幸せなことではない。

 ここ数年来アベノミクスで、公的年金の株式での運用や、日本銀行の上場投資信託購入などが積極的に行われている。このため、株式市場には公的マネーが大量に投入されているが、そこで買われる銘柄として、金融や自動車などと並んで金額が大きいのが通信だと言われる。投資に携わっている人でなければ、日常生活の中で株価を意識する場面は少ないかもしれないが、実質的な国民の資産の少なくない部分がリスクにさらされている以上、実際の企業業績以上に株価が下振れすることは、できるだけ起きてほしくない事態だ。

「分離プラン」は今回が初めてではない

 さて、その株安の引き金となったドコモの新たな料金プランは、具体的な中身は明らかになっていないものの、いわゆる「分離プラン」の本格導入だとみられている。

 ここでの「分離」とは、「通信料金と端末代の分離」を指している。携帯キャリアは通信サービスとスマートフォンなどの携帯端末をセットで販売しており、長期の通信契約を結んだユーザーに限り、実質的な“端末値引き”として作用する割引料金を提供している。端末を分割払いで買うと、端末代が月々の通信料金と合わせて引き落とされるので、自分が通信料金と端末代をそれぞれいくら払っているのか、よく理解していない消費者も多いようだ。

 視点を変えれば、端末代を通信料金とミックスして、それを24回払いなどの小分けにすることで、高額な端末をより多くの人に売りつけているという形にも見える。長年の間所得が上がっていないと言われる日本で、iPhoneのような世界でも最高額クラスのスマートフォンが圧倒的なシェアを確保しているのも、このようなわかりにくい料金体系が主流となっているからだ。10万円もするiPhoneの代金は何らかの形でユーザーが負担しているので、朝三暮四なのだが。

 当然のことながら、キャリアが端末値引きの原資としているのは月々の通信料金だ。高級スマートフォンを買わせるために全契約者から高い通信料金を徴収するのは、よく考えてみればおかしな話だ。そこで、端末値引きをやめる代わり、本来の通信料金を下げるというのが、「通信料金と端末代の分離」の考え方だ。通信料金を2~4割下げられる根拠は、このような分離プランの導入によるものらしい。

 ただ、既にKDDIとソフトバンクは分離プランを販売の主軸に据えており、ドコモも低価格機種限定で実質的な分離プランである「docomo with」を提供している。携帯電話市場全体で分離プランが主流になると、高額な端末の販売は低調になっていくことが予想されるが、その分、キャリア各社は販売代理店に支払う販売奨励金も絞っていくことになるだろう。キャリアの売上規模は下がると考えられるが、利益面ではそれほどの影響はないのではないか。むしろ、利益率では改善の可能性すらある。

 ただ、ユーザーにとってみれば、前述の通り通信料金が下がる分、端末代は上がるので、もしiPhoneのようなハイエンド機を2年ごとに買い換え続ける場合、総支出額はあまり変わらないと考えられる。菅官房長官の「携帯代を4割下げられる」発言は消費者から支持されてもいたようだが、当初の期待ほどのインパクトにはならないだろう。

 また、通信料金と端末代の分離という考え方自体、ガラケー時代に一度導入されていたものだ。今になって同じような議論が再燃するのは、結局のところ、形式的に通信契約と端末販売が分離されたところで、消費者に理解されなければ、値下げが実感されることはないということだ。

 来春以降、政府が4割値下げの成果をアピールする場面があるかもしれないが、料金の内訳を小細工しただけなのか、それとも消費者にとって本当にメリットのあるわかりやすいプラン体系になったのか、注意深く見る必要があるだろう。(BCN・日高 彰)