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消費増税まで1年、場当たり的な緩和策に振り回される小売店

オピニオン

2018/10/28 17:00

【日高彰の業界を斬る・33】 10月15日の臨時閣議で、安倍晋三首相は予定通り来年10月1日から消費税を10%に増税する方針をあらためて強調した。閣議での発言は首相官邸ウェブサイトにも掲載されており、これまで2度延期された「税率10%」を今度こそ実施するという決意表明にみえる。しかし、消費税の増税はすでに法律で決められていることであり、今になって閣議でこれを議論するのは不自然でもある。

首相官邸ウェブサイトに掲載された「消費税率引上げとそれに伴う対応について」

 首相発言を掲載したページの見出しに注目すると「消費税率引上げとそれに伴う対応について」となっている。つまり、政府としてこのタイミングで新たに強調したいのは、「それに伴う対応」の部分と言えるだろう。そこに含まれていたのが、増税が中小規模の店舗に与える影響を緩和するための「中小小売業に対するポイント還元」だ。

 ポイント還元の具体的な仕組みはまさに今検討の最中のようで、報道される内容も毎日のようにころころと変わっているが、基本的には中小規模の店舗において、キャッシュレス決済で買い物をした消費者に対し、増税分に相当する2%をポイントとして付与するというもののようだ。中小店なら“実質8%”の税率で買い物ができるので、増税の影響を打ち消せるというもののようだ。

 ただ、これではクレジットカードを持てない/持たない消費者や、スマートフォンになじみのない高齢者などがカバーされないという批判がある。報道されているところによると、政府は追加の緩和策として、額面以上の買い物ができる「プレミアム商品券」を、所得の低い人を対象に発行することを検討しているという。額面に対するプレミアム分は、国が税金から支出して負担するようだ。

本当に店のためになるのか

 いずれも中小店舗を救うための施策とされているが、これらの取り組みで最も割を食うのは、店や現場の従業員ではないだろうか。

 緩和策で直接的に得をするのは消費者で、小売店ではない。もちろん、中小店舗に限った優遇により、消費者を大手の店舗から中小店舗へと誘導する間接的な効果はあると考えられるが、これまで現金対応のみだった店舗がポイント還元対象に入るには、カード会社との契約や決済端末の導入といった手間とコストが必要だ。

 プレミアム商品券も受け取った店には現金化の手間がかかるし、過去に全国や各地域で実施されてきた商品券政策は、そもそもその経済効果自体が疑問視されている。何より、キャッシュレス決済では現金の取り扱いコストが削減し、課税所得の捕捉率が上がるため、それを後押しする大義名分はある。さまざまな意見はあるにしろ、キャッシュレスを推進する意義をきちんと説明し、政策としてそれを支援するのであれば、その動き自体はおかしなことではなく、キャッシュレス化で浮いた社会コストを原資にして国民に還元を行うのも流れとしてはわかりやすい。ただ、批判が出たから「やっぱり商品券もやります」では、そもそも大義が崩れてしまう。

 増税にもキャッシュレス推進にもそれぞれの目的があるはずだが、目的とその実現の手段を整理しないまま、泥縄式に新たな施策が追加されているようにみえる。小規模の小売店には、必ずしも大手のように会計業務を専門とする従業員がいるわけではない。これらの施策が、ただでさえ複雑怪奇な軽減税率制度と同時に実施されれば、小売りの現場は緩和の効果を実感するどころか、膨大な事務処理に翻弄されるだけに終わるのではないか。

 国民生活のセーフティネットと称して提案されるこの手の緩和策では、軽減税率や対象を限定したポイント還元のように、現場で働く人に「例外処理」を強いるものが多い。この夏に降ってわいたサマータイム導入案も、同種のものと言えるだろう。それを実施したら確実に事務手続きやシステム対応で大きなコストが発生するのに、検討段階においては、なぜかそれらが限りなくゼロに近いものとして見積もられているように思える。

 ポイント還元や商品券は、来年春から夏にかけて控える統一地方選・参院選に向けた、人気取り政策ではないかという批判もある(ここ最近の、携帯電話料金引き下げを求める“口先介入”にも同様の指摘がある)。政府・与党はそれを否定すると思うが、そうでないならば、本来これらの緩和策は増税の議論とあわせてもっとも具体的に検討されるべき内容だった。つぎはぎの緩和策ではなく、現場が無理なく導入できる形で増税のロードマップを示してほしい。(BCN・日高 彰)