「本件に関する2019年3月期連結業績への影響は軽微です」――。シャープが6月5日に発表した、東芝のPC事業の買収に関するリリース末尾の「今後の見通し」に記載された短い一文をみて、軽いめまいを覚えたのは筆者だけではあるまい。

6月5日にシャープが買収した東芝のPC事業(写真は東芝・本社)

売上高の1割に満たない

 上場会社の適時開示には、売上高の1割以上の変動がある事案は業績に影響を及ぼすとして、情報を適時開示しなければならない「売上高基準」のルールが設けられている。つまり、東芝のPC事業は、シャープの売上高の1割に満たなかったというわけである。

 確かに、昨年度(18年3月期)のシャープの売上高が2兆4272億7100万円(前期比18.4%増)だったのに対し、買収対象となる東芝の100%子会社でPC事業を担う東芝クライアントソリューション(TCS)の売上高は1466億8100万円(同11.1%減)で、構成比にして6%。しかも、TCSは営業損失がマイナス83億7500万円(前期はマイナス17億6800万円)の赤字だ。

 90年代にはノートPCで世界シェアトップを獲得したり、昨年12月8日に73歳で他界した元社長の西田厚聡氏が、米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏と親交があったりして、2000年代にNAND型フラッシュメモリとともに業績をけん引したはずの「TOSHIBA」のノートPC「dynabook」が、そこまでの事業縮小を余儀なくされていたという事実を、あらためて突きつけた数字だ。

 直近のノートPCの国内販売台数シェア(月次)をみていこう。家電量販店・オンラインショップの実売データを集計した「BCNランキング」に基づき、チャートやビジュアルでわかりやすく最新の販売動向を示す「monoChart(モノチャート)」によると、18年5月は1位がNECの22.4%、2位が富士通の15.3%、3位が東芝の13%となっている。すぐ後ろには4位のレノボ・ジャパンが11.6%で迫り、さらに5位のASUSも10.6%と追撃する。
 

重荷だった液晶テレビが復活の象徴に

 シャープによると、「TOSHIBA」と「dynabook」のブランドは残すという。また、TCSの海外子会社の製造拠点を通じて、事業を継続していくというが、ここまで縮小した事業をどのように立て直すのだろうか。また、勝算はあるのだろうか。

 ひとつのヒントは、シャープが5月16日に大阪・堺工場にある本社で開催した懇談会の資料にある。17年3月期に60%だった海外売上比率は、わずか1年後の18年3月期に80%まで拡大。同期間の液晶テレビの販売台数は、500万台から1000万台と2倍に拡大したのだ。
 
海外販売の構成比が80%に拡大

1年で販売台数が500万台から1000万台に拡大

 18年3月期の業績は、08年3月期以来、10期ぶりに全四半期で親会社株主に帰属する四半期純利益の黒字化を達成。貢献したのは、こうした液晶テレビやパネル事業の復活にほかならない。

 16年8月に台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業がシャープを子会社し、戴正呉氏が社長に就任した直後の11月に、両社は拡販に着手。鴻海がもつグローバルの販売ネットワークを活用しながら、中国、欧州、スロバキア、台湾で販売を開始。東南アジアではラインアップを追加して現地生産も拡大させた。

 こうして一時は経営を揺るがした液晶テレビとパネル事業が、息を吹き返した。鴻海の買収と同時に東証2部に降格したシャープだったが、1年4か月後の17年12月に1部に復帰した。

 鴻海のグローバルな販売ネットワークを使った液晶テレビの成功モデルを、今回のPC事業に応用することは容易に想像される。昨年度のTCSのノートPC出荷台数は約142万台。「dynabook」の復活は、そう遠くないのかもしれない。(BCN・細田 立圭志)