富士通のパソコン事業が富士通クライアントコンピューティングに分社化されてから1年あまりが経過した。“XPサポート終了特需”の反動減が収まったいま、富士通ブランドのパソコンはどのような成長戦略を描くのか。齋藤邦彰社長に聞いた。

写真/瀬之口 寿一

「物語」が伝わればパソコンはまだまだ売れる
 
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富士通クライアントコンピューティングの齋藤邦彰代表取締役社長

富士通にとってパソコンはコモディティではない

―― 「パソコンはコモディティ化が進んだマーケット」と言われるようになって久しいですが、現在のパソコン事業をどのように捉えておられますか。

齋藤 コモディティ化が、お客様から見て「どのメーカーの製品も同じようなもので違いは価格だけ」という状態を指すとすれば、パソコン市場に対する当社の認識はむしろ正反対です。パソコンのビジネスは、汎用の構成要素を組み合わせた製品を大量に供給するという形態から、お客様のご要望に合わせてカスタマイズしていく方向へシフトが進んでいると考えています。

―― ユーザーの要望、に応えた実例としてはどのような製品が挙げられるのでしょうか。

齋藤 今年、13.3型ノートパソコンとしては世界最軽量となる質量約761グラム(注)の新製品を発売しました。ここでは、「モビリティ」を製品開発のキーワードのひとつとしています。すなわち、カタログ上のグラム数を小さくすることを目指したのではなく、「もっといろいろな場所でパソコンを使いたい」というご要望に応えるのが目的となっています。軽いだけのパソコンでは、場所を選ばず使っていただくことはできません。薄型軽量であると同時に、頑丈な設計とし、バッテリ駆動時間やセキュリティ機能も強化することで、故障・電池切れ・情報漏えいといった課題を解決し、持ち歩き時にも本当に安心できる製品に仕上げています。いわば、これまでさまざまな機種でお伝えしてきた「持ち歩きの不安を解消する物語」の完結編が、この新製品なのです。
 
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世界最軽量の約761g(注)を実現しながら、厳しい堅牢性試験もクリアしたFMV「LIFEBOOK UH75/B1」。「Windows Hello」に対応した指紋センサーを搭載しセキュリティも高めた

注:FMVU75B1B(ピクトブラック)の平均値。平均値のため各製品で異なる場合があります。

 また、液晶一体型デスクトップパソコンの新製品では、ディスプレイの4辺を狭額フレームにしました。部屋の中で決まった場所に置いて使うものだからこそ、見たい映像以外が占める空間を最小限にしましょうというご提案です。単に省スペース化を図っただけでなく、スピーカーの音質なども妥協しておらず、コンテンツを楽しむ心地よさを追求しています。

―― パソコン市場全体の平均値に比べると、富士通は高価格帯の製品が中心のように見えます。それでも長年大きな台数シェアを維持しているのは、価格とスペックありきではなく、ユーザーに提案できる「物語」があるからということでしょうか。

齋藤 私たちがパソコン事業で収益を上げられているのは、お客様の望まれる製品を「物語」とともにお届けできたことの反映だと考えています。価格対性能比がよければ売れるという時代はとうに過ぎ、いまの日本のお客様は上質な製品を好まれます。現在パソコン市場では、多くの製品が海外ベンダーへの生産委託によってつくられていますが、富士通ではパソコンの開発を行う当社に加え、生産を担う工場もグループ内に擁しており、設計から生産、サポートまで国内で完結できる体制を構築しています。小ロット・多品種に特化し、お客さまが望む仕様の製品を、ベストなタイミングでお届けできるのが私たちの強みです。
 
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4辺狭額フレーム化によって、生活空間の中に写真や映像が浮かんでいるようなたたずまいを
演出するFMV「ESPRIMO FH77/B1」

販売現場とともに創る日本ユーザーのための価値

齋藤 ただし、一番の基礎になるのはモノづくりの力ですが、パソコンの買い替えサイクルは長期化しており、ハードウェア単体の提案で成長するのは難しいとも考えています。これからは「モノ」だけをご提供するのではなく、お客様がパソコンを何のために使うのかをしっかりとらえ、その目的に最適化することがより重要になります。例えば、当社では2012年から個人向けクラウドサービス「My Cloud」を提供しています。
 
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デジカメやスマートフォンから取り込んだ写真・動画を、
日付や人物ごとに自動的に整理する「My Cloud プレイ」

 当初は、デジカメやスマートフォンで撮った写真の整理に苦労されている方に向けて、パソコンが自動で整理し、さらにクラウドと連携してバックアップしたり、手軽にアルバムが作れる、などの問題解決策をご提案するものでしたが、いまではエンターテインメントや暮らしのサポートなどにも内容を拡充しています。

 匠(たくみ)の技に支えられたモノづくりに、プラスアルファの価値としてソフトウェアやサービスを加え、より多くの人に、より多くの場所やシーンでパソコンを利用していただく。これが私たちの成長戦略です。特に、サービスに関しては一層の充実を図っていきますので、ぜひご期待ください。

―― コモディティたり得ない部分での提案を強化するとなると、その価値をエンドユーザーに伝える販売店との関係もますます重要になりますね。
 
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販売店との関係関係もますます重要と語る齋藤社長

齋藤 パソコンは依然として、家電市場の販売金額のうち大きな割合を占めています。いかに収益性を高めていくかは、販売店様と私たちの共通の課題であり、販売店様とのコミュニケーションを大事にしていきたいと考えています。販売店様との価値共創では、過去にエポックメイキングな事例があります。いま、15型以上のノートパソコンは他社を含め多くの製品がテンキーを搭載していますが、実はあれを始めたのは富士通なんです。しかも、これは家電量販店様からいただいたアイデアでした。画面の縦横比が4:3からワイドに変わるとき、ノートパソコンが横長になる分、キーボードの横にできるスペースを活用する方法はないのか、と。私たちには、そのような販売の現場からいただいたお声も、いち早く自社で形にできる体制があります。

―― 規模のビジネスと言われることの多いパソコン事業ですが、独自の価値を提案する余地はまだまだありそうですね。

齋藤 もちろん、リーズナブルなお値段を実現することも重要ですが、それ以外の部分で本当に望まれている製品を実現できるのは、自分たちの開発・設計部隊をもち、自分たちの工場をもっている、私たちのようなメーカーだけではないでしょうか。これを強みとしてパソコン事業を成長させていきたいし、同時に、今後も日本のお客様の期待に応えていくことが当社の使命であると考えています。
 
■プロフィール
齋藤邦彰
 1981年、早稲田大学理工学部卒業後、富士通入社。1992年より「FMV」シリーズの開発に携わる。2009年5月にパーソナルビジネス本部長、10年4月に執行役員、12年4月にユビキタスビジネス戦略本部長(兼務)、14年4月に執行役員常務に就任。16年2月1日の富士通クライアントコンピューティング設立にあわせ同社代表取締役社長に就任(現任)。

※『BCN RETAIL REVIEW』2017年4月号から転載