<KeyPerson>証券マンが家電量販業界に転じたわけ

インタビュー

2017/03/24 16:30

 2012年4月にビックカメラ顧問に就任するまでは、証券業界ひと筋で歩んできたコジマの木村一義会長兼社長。家電量販業界に転じたきっかけと、コジマの再生にあたり何をモットーとしてきたかを聞いた。

取材・文/日高 彰 写真/大星 直輝

・前半<生活スタイルで変わる 郊外型家電量販店の姿>から読む

―― 大手証券会社のトップまで務められて、その地位を退かれた後は悠々自適の生活を楽しむといった道もあったのではないかと思うのですが、なぜまったくの異業種である家電販売業界に転じられたのか、お聞かせいただけますか。

木村 私は田舎の貧乏育ちだったものですから、そもそも悠々自適なんて発想がありませんでした(笑)。やせ我慢というわけではないですけども、仕事をし続けたいと思っていました。しかも、それまでの証券・金融とは違う分野で、また一から勉強し直しながら仕事をしたかったのです。というのは、これまでの延長線上の業界だと、経験を元に仕事をしてしまえるので、努力をしなくなってしまう。そのようなことを考えていたとき、ビックカメラから声がかかったのです。
 

あえて異業種の家電量販に飛び込んだと話す木村一義会長兼社長

―― 当初はビックカメラの顧問という立場でこの業界に入られましたが、それからコジマの社長になられるまで、わずか1年半でした。

木村 最初は、ビックカメラグループのアドバイザーを、といったお話で顧問を引き受けたのですが、いざ入ってみたら間もなく、やっぱり顧問ではなくビックカメラとコジマの役員に就いてほしい、ということになりまして。私は小売業の経験があったわけではなかったので戸惑いもありましたが、証券業界にいたときから企業の合従連衡は数多く見てきました。かつて業界で売上首位だったコジマが苦戦しているのを目の当たりにして、この会社をなんとか再生したいと思ったとき、私のような外から来た者が引き受けたほうがうまくいく面もあるかもしれないと考え、コジマの社長に就かせていただくことにしました。
 

「コジマくらし応援便」など、地域密着型店舗ならではのサービスをさらに強化する

 というのは、企業の合従連衡においては、戦略や計画といったロジカルな部分で問題が起きることは実は少ないのです。むしろ、もっとアナログ的な部分で問題が起きることが多い。親会社/子会社ということではなく、グループとして一体感をもって強くなっていく――私たちで言えば、コジマとビックカメラという二つのブランドがグループ内にあることを、これからの強みにしていく、という方針をしっかり定着させることが必要だったのです。

―― コジマの社長に就任されて、まず何から手を付けられましたか。

木村 いきなり何か大きな改革をしようとは最初から考えていませんでした。私が言ったのは「凡事徹底」です。企業の再生でもっとも大事なのは、ロジカルな戦略よりも、社員の誇りと自信を取り戻すことだと考えています。しかも、“高い球を投げる”のではなく、できるだけ達成しやすい、小さなところから始めて、現場のモチベーションを高めることが重要です。そこで、商品の見つけやすさ、説明のわかりやすさ、清潔で気持ちのいい売り場といった、小売業としてあるべき姿をまずは追求しようと声をかけました。コジマならできるはずのことなので、これに反発する人はいないわけです。

・<ビックとコジマだからリストラもせずに済んだ>に続く