シャープのAIoT戦略、家電量販店を「中抜き」する理由とは

オピニオン

2018/06/23 13:00

 シャープが7月30日に発売する、AI(人工知能)にIoTを加えたAIoTプラットフォームを活用した猫用システムトイレの「ペットケアモニター」は、単にペット市場に新規参入するだけではない、新たなビジネスモデルの挑戦がうかがえる。

ペット市場の新規参入製品となった「ペットケアモニター」

 ポイントは、この製品(ハード)が家電量販店などの既存チャネルで販売しない点だ。サービスとセットにし、動物病院や7月末に新規オープンするシャープの直販サイト「COCORO STORE」を通じて販売される。いわば既存流通を中抜きし、メーカー直販で顧客とダイレクトにつながることを目指したサービスといえるだろう。

 シャープでAIoT事業を統括する長谷川祥典専務執行役員は「ハードとサービスがセットの製品なので、(顧客に)説明したり、納得して購入していただく必要があるため、ペットショップや家電量販店では販売しない」と語る。
 
シャープの長谷川祥典専務執行役員 スマートホームグループ長兼IoT事業本部長

売上高は小さいが利益率の高いサービス事業

 「ペットケアモニター」は、システムトイレの底面に搭載した重量や温度センサで、猫の尿の量や回数、体重、周辺の温度を計測し、Wi-FiBluetoothを通じてクラウドで記録・解析。独自のAIを使った「異変検知アルゴリズム」により、異変が生じたときは飼い主のスマートフォンに通知する。もちろん、飼い主はスマホで日常的に記録データを確認することも可能だ。

 そのため、本体価格の2万4800円(税抜)とは別に、サービス利用料として月額300円がかかるほか、専用のチップ(2.5L、600円)やシート(20枚、800円)などのオプション品も「COCORO STORE」で購入する必要がある。
 
専用オプションも「COCORO STORE」で購入

 これまでのテレビや冷蔵庫のような単品販売ではなく、サービスとのセット販売にこだわる理由については、「売上高の規模はハードの方が大きく、サービスは小さい。しかし、サービスは利益率が高い上、(メーカーにとって)顧客接点が維持できるというメリットがある」(長谷川専務)と語る。

 国内のペットビジネス市場は約1兆4000億円といわれており、シャープは20年度にペット事業の売り上げで100億円を目指す。また、国内には犬や猫などのペットが1845万匹おり、15歳未満の子どもの1571万人よりも多い。「ペット事業のAIoTは空白市場で、早く手掛けることでプラットフォーマーのような存在になりたい」と長谷川専務は意気込む。

東芝のPC事業買収もAIoTとリンク

 AIoT製品による直販志向の高まりは、「ペットケアモニター」が初めてではない。会員登録が必要なモバイル型ロボット電話の「RoBoHoN(ロボホン)」も同じだ。ロボホンの機能を使うには、月額1058円(税込)~2678円の「ココロプラン」に加入する必要がある。逆に、ココロプランに加入しなければ、ロボホンの機能は利用できない。
 
モバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」

 東芝のPC事業の買収も、狙いは同じようだ。ノートPC「dynabook」にAIoTや顧客との接点のインターネットサービス「COCORO+(ココロプラス)」を搭載することで、ダイレクトにつながる顧客層の拡大を狙う。

 現在、AIoTはプラズマクラスターエアコンオーブンレンジ「ヘルシオ」、液晶テレビ「AQUOS」、ロボホンなど個々に分離しているが、これらを「COCORO STORE」に統合する計画も進んでいる。

 シャープのAIoT戦略は、液晶テレビなどハードの単品販売で経営危機に陥るほどの苦汁をなめたコモディティ化を防ぐための試金石になりそうだ。(BCN・細田 立圭志)