【日高彰の業界を斬る・16】 既報の通り東芝は6月5日、同社のPC事業子会社・東芝クライアントソリューション(TCS)をシャープに売却することを発表した。手続き完了予定は10月1日。売却後もTCS株の2割を持ち続けるが、東芝本体の連結から外れ、事業の主体はシャープ側へ移る。ブランドは継続するものの、東芝の事業としては、1980年代より続けてきたPCから撤退となる。

PC事業を手放す東芝(本社・東芝ビルディング)

 売却を発表する東芝の報道資料には、TCS単体の業績が記載されていたが、内容は深刻なものだった。近年、東芝のPC事業が赤字だったことは伝えられていたが、今年3月末で締まった2017年度決算では、ついに純資産の枠に「▲(マイナス)」が付けられた。会社のもつ資産をすべて売却しても負債を返せない、債務超過の状態にまで追い込まれていたのだ。
 
東芝クライアントソリューションの業績数値

 もちろん、この時点でTCSは東芝の一部門であり、経営資源はグループ全体の戦略の下で配分されるものなので、単体の数字だけで業績を評価するのはフェアではないかもしれないが、前年度比で売上高は減少、赤字幅は拡大しており、東芝のPC事業が非常に難しい状態になっていたことは間違いない。

 奇しくもこの週、PC業界では対称的な明るい話題も相次いだ。

 4日には、VAIOが台湾や香港など5つの国・地域でPCの販売を開始することを発表。VAIOとしては新たな市場への進出だが、ソニー時代からの連続で考えると、各地域での「VAIO」ブランドPCの復活とも言える動きだ。
 
VAIOは海外販売地域を拡大する

 続く7日には、パナソニックがレッツノートの新機種「LV7」シリーズを発表。同社のPC事業を統括する坂元寛明モバイルソリューションズ事業部長は、発表会の席上で昨年度の出荷台数が約42万台と、過去最高を記録したことを明らかにした。
 
モバイルノート市場での優位性をアピールするパナソニック

 ここ1~2年PC市場で、大きな牽引力となっているのが「働き方改革」の機運の高まりだ。場所にとらわれず効率的に仕事ができるよう、モバイルノートPCを導入する企業が増えている。コンシューマー向けのPC市場は現在も縮小傾向が続いているが、ビジネス向けの需要増で、昨年度は台数増を達成しているメーカーも多い。

 VAIO、パナソニックは、東芝に比べると全体の販売台数は小さいものの、モバイルノートに特化した商品展開を行っており、この戦略が今の市場にマッチしている。東芝も企業用のノートPCには強みがあるが、ビジネス向けの伸び以上にコンシューマーが落ち込んだ。

 また、東芝がエネルギーや社会インフラに重点を置く中、PC事業はテレビや白物家電と同様、グループ内で相対的に“傍流”の位置付けとなったことで、新鮮さを感じさせられる商品を投入するのが難しくなっていたように見える。東芝のPC事業はここ数年、15型の据え置き型ノートPCと12~13型のモバイルノートという売れ筋のゾーンに集中する戦略をとっていた。2-in-1モバイルの「Vシリーズ」などの意欲作はあるものの、総じて革新性よりも手堅さをとるラインアップとなっており、台数は出ても価格競争にもち込まれやすい構造になっていた。「カローラ」のようなたくさん売れるモデルがあっても、それだけでは収益性を高めていくのは難しい。

 東芝よりもさらに多くのPCを売ってきたNECと富士通は、いずれもPC事業をレノボ傘下とすることで生き残りを図った。国内電機メーカー内では傍流の事業も、レノボでは本流中の本流であり、スケールメリットが活きる。一方、東芝・ダイナブックの行き先はシャープだ。親会社の鴻海(ホンハイ)精密工業がPC生産を手がけているとはいえ、シャープは東芝と同じく一度PCから撤退している。シャープの戴正呉社長は再建に自信をみせているということだが、他社が比較的堅調に推移した昨年度も振るわなかった東芝PCを、復活に導くのは容易なことではない。

 ただ、PC=パーソナルコンピュータという商品カテゴリをより俯瞰した目でみると、シャープが東芝PCを今手に入れたことが、絶好のタイミングとなる可能性もある。(続く)(BCN・日高 彰)