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<2017年の家電業界>「コト売り」の推進は長期的にはプラス、短期的にはマイナス 新たな評価軸を

オピニオン

2017/05/02 13:00

 【紙面連動企画】 製造・流通・販売を取り巻く環境も激変しつつある家電業界。「AI」や「IoT」など、プロダクトの進化には目を見張るものがあるが、配送や販売手法の転換は一筋縄ではいかず、業界全体で取り組むべき課題が堆積している。そこで、今回は定例の座談会とは趣向を変えて、17年度の気になるトピックをテーマに編集部員で議論を交わした。


■テーマ3・小売業の注目キーワード「コト売り」について

 モノを持たないシンプルでミニマムな暮らしや、中古やレンタルなどを活用して支出を抑える節約志向が強まるなか、小売業界は、従来の「モノ売り」からの脱却が求められている。今年2月から始まった新たな消費喚起策「プレミアムフライデー」には、この機に、体験をベースとした「コト消費」の取り組みを進め、海外の先進国に比べ、低い水準にとどまっている小売業の生産性を高める狙いもある。

持ち場で頑張る人を応援 「プレミアムフライデー」

 BCNの単独インタビューに応じた、経済産業省の住田孝之商務流通保安審議官は、ゆくゆくは「どうも月末の日本の金曜日は面白いらしいぞ」と、プレミアムフライデーの取り組みが海外でも話題になり、訪日観光客の増加までつなげたいと語っていた。

 しかし、「プレミアム」の意味をはき違え、一般消費者の手が届かない高額な料金設定の体験プランや、単なる安売りセールの域を出ない施策が目立ち、これから第3回、第4回と、毎月、続けていくことで、はたして「働き方改革」や「豊かな生活感の醸成」につながるのか、そもそも、「プレミアムフライデー」自体が定着するのか、半年後の状況がまったく見えないという意見が出ると、全員、納得してしまった。

 自分の持ち場で懸命に目標達成に取り組む、すべての働く人に対し、毎月、月末の金曜日くらいは早く帰宅し、ゆとりをもって過ごそう、という「プレミアムフライデー」のメッセージは、小売業に従事する人にも適用されてしかるべきもの。崇高な目的を掲げても、やはり消費喚起策の側面が強いと指摘する。
 

消費喚起策は効果を発揮する!?

リアル店舗は「コト売り」で集客

 「モノ売り」から「コト売り」への転換についても、接客時の状況や店舗取材などから判断すると、現場レベルには伝わっていないと言わざるを得ない。長期的には利益増につながるとしても、転換時に、一時的に売り上げが下がり、自身や店舗の評価が下がる恐れがあるからだ。だからこそ、現場レベルは、積極的ではないのではと推測する。
 

「体験・体感」をアピールする家電量販店新店舗
(左から、ビックカメラ名古屋JRゲートタワー店、エディオン蔦屋家電

 とはいえ、その店を贔屓にし、リピート購入する固定客へと引き上げるには、「コト売り」へのシフトが不可欠。来店者を増やし集客率を高めるという点でも重要だ。解決策は、店舗スタッフや店長などマネジメント層の評価の方法を、「コト売り」に沿った新しい基準に変えること。売り上げ以外の新たな指標を導入することで、より働きやすくなり、モチベーションがあがれば、生産性の向上につながる。

 消費者、とくに幼い子どものいるファミリーは、単なる買い物であっても、思い出に残るような経験・体験を求めている。そう一人が話すと、さまざまな各店舗の取り組みなどに、話題が広がった。「テーマ1」で触れた、多角化、専門店化、どちらの方向に向かうとしても、リアル店舗には、そこでしか体験できないサービスを求めたいとして、締めくくった。(BCN・嵯峨野 芙美)
 
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年5月号から転載