• ホーム
  • トレンド
  • 街の会計コンサルから、毎月大会を開く「eスポーツ企業」が生まれたワケ

街の会計コンサルから、毎月大会を開く「eスポーツ企業」が生まれたワケ

インタビュー

2021/03/21 12:35

──継続的に続けていくという点で、運営費などの関係から収益は欠かせない要素かと思います。GROWZも含めたRe.road全体で、どのような収益構造になっているのでしょうか?

金井 打ち明けますと、少し“赤”です。ですから「立っていられるかどうか」というところなのですが、まずはしっかりした意志を持って事業構築していく段階で、気迫を持って頑張っております。頑張っている高校生がいる、それが我々の活動の原動力ですから。

 そして当初、ふたりでやって来た会社ですが、一年半経ってから2人社員を雇用することができました。1人はぷよぷよの達人です。もう1人がウイニングイレブンを得意とし、何度も協力してもらう中で「自分はeスポーツで食っていきたい」と本人から話がありまして、今はヒアリングや調査などを担当してもらっています。この一年半でその人件費をきちんとまかなえる体制になったところです。
 

──継続のめどが立つというのは大きなことですね。

金井 そうですね。街作りという意味では雇用を拡げるという点も重要なことです。eスポーツが好きな若い人に対して、大好きなeスポーツの仕事でこの松本の街に雇用の場を作ることができたわけです。これは会社組織にした目的として本当に大きな成果です。引き続き雇用を拡大できるように頑張りたいと思います。サードウェーブやJHSEF(ジェセフ  全国高等学校eスポーツ連盟)、関係する皆様のありがたいご支援を支えに頑張っていきたいと思います。

──今、大会への応募は何人ぐらいになっていますか?

金井 私たちの大会は、32~64人ほどの規模で開催しております。大人数を集めて大会の時間を長くしてしまうのではなく、配信することを踏まえてゲームの盛り上がりが冷めないまま進めるためですね。雰囲気に応じて強いプレーヤーの動きにフォーカスするような形にしたいと思っています。100人以上の規模ですと、午前中から延々と対戦をやっていくような形になってしまいます。人数が多ければ良いか、ということでもないと思っています。

 参加者1000人以上クラスのような大きな大会は、大きな組織でぜひ開催していただきたいです、全国高校eスポーツ選手権(主催:JHSEF・毎日新聞社 共催:サードウェーブ)とか。一方、私たちは気軽に参加できる高校生だけの大会ですので、力(りき)むことなく、フランクな感じで出場していだだきたい。優勝賞金ではなく、大会を通じて考えること、感じることを持って帰っていただければ幸いです。

──高校への取材を通して、高校生が実力をはかる機会が少ない、実力が拮抗している人と戦う機会がない、というお声は結構あります。そういう部分では小まめに開かれる大会というのは、かなり助けになっているはずです。

金井 そうですね。eスポーツの部活をしている高校生は何をもって実力を測れば良いのか、腕を上げれば良いのか明確には分からない、という悩みがあるようです。ですので、長野県内だけでなく、全国のeスポーツに取り組んでいる学校や生徒たちにアプローチしています。こういう大会があるので、良かったら参加して下さい、ということを知っていただきたいですね。高校単位で出来るようなゲームタイトルも増えてくれば大会をやりたいですし。「こういうタイトルで大会をやってもらえませんか?」というお問い合わせもかなりいただいています。

──特定のタイトルで活躍の場が欲しいという声ですね。

金井 多くの高校生に喜んでもらえる大会にしたいと思っていますが、健全な大会である・・というのが大前提です。例えば、APEXは若い人に人気がありますが、対象年齢があるんですよね。17歳です。16歳の高校生もいるので、配慮する必要があります。

──キリギリですよね?

金井 そうなんですよね。私たちとしても、大会はきちんとしたものにしていきたいわけです。高校生に何かを伝えたいなら、自分たちもきちんと運営していかなければなりません。プレーするにあたって条件があるものは、その条件を満たしている人しか出場させられません。

 ゲームにも法律のほか、さまざまなコンプライアンスがあります。そこは、きちんと指導していくような形にしたいと思っているのです。

──地元に根差して活動をされていて、地元のメディアとも連携しているとなれば、行政からも何か反響がきているのでしょうか。

 今のところようやくeスポーツという言葉が浸透し始めて、振り向いてくれるようになってきた感じです。熱い想いで部活をしている高校生がいる。そういう高校生の想いを後押しするのが、大人であり企業だと思っています。そういうのを組み立てていけば、絶対に行政は動いてくれると信じています。ただ、そこから支援がくるかというと、まだそこまでは至っていません。毎月地方のテレビのスポットCMで大会の様子を流しているので、多くの人にeスポーツの大会は認知されてきていますし、メディアでも毎月載せていただいているので知れ渡ってきているのは事実です。

──今後の展望としてはどのような形ですか。

金井 高校生同士でもっと早く簡単に試合ができるような仕組みを考えています。現状、1カ月1回の大会では回数として少ないですし、スピードも遅いと考えています。高校同士の対戦マッチングというのでしょうか。つながりを作り、毎週試合をすればどんどんみんな強くなっていきますし、やりがいも増して部活も活発になっていくのではないかと思うのです。本人達がものすごく頑張っているということが社会的なアクションとしてまわりの人に伝わり、見出してあげられるようなことがあれば良いなと思いますね。

 毎週大会をやりつつ、月1回GROWZを開催して、年に1回全国eスポーツ選手権のような大会に出場する。そんな形になったら素晴らしいことだな、と。

──ゲームタイトルの選定の基準はどのようになっていますか。

金井 選定基準としては非常に単純で、高校生が多くプレーしているゲームタイトルということで選んでいます。まだ10タイトル(2021年3月時点)しか開催したことはないのですが、eスポーツ(ゲームタイトル)は幅広いです。まだまだ取り上げていないタイトルで頑張っている高校生もいることですし、いろいろなゲームタイトルを取り上げて応援していきます。
 
2月までにRe.roadが開催した大会タイトル

──高校生によるeスポーツを応援するなかで、先生方からの反響もあるかと思います。

金井 賛否両論あるな、と感じるところはあります。傾向として私立系、通信制、工業系の高校で多くの部活動が始まっています。いち早く導入していただいている学校では、多様性の尊重という点で実情を認識されています。

 青年会議所という街作り団体での経験から思うのですが、eスポーツに限らず傾向として見えるのが、行政は多くの人が動けば絶対に振り向いてくれます。重要なポイントをしっかりおさえて、学校で導入する論理と人の動きが重なるという環境が大切です。行政の後押しも重なることで高校の導入が一気に加速するというような流れがくると信じています。そのためには、単純にeスポーツをする機会を作るだけでなく、周辺に加価値をつけることが重要だと考えます。

──周辺の付加価値というと、2月からeスポーツ英会話を事業として開始されましたね。

金井 eスポーツを通して英語を学ぶというのは、すごく良いと思ったのです。ゲームの中には英語がたくさん出てきますし、外国人とプレーしている高校生もたくさんいます。eスポーツ英会話、現在、この取り組みを鳥取県のeスポーツ協会の代表の方と展開し始めました。利用されているのは、小学生のお子さんが多いですね。元々は高校生をターゲットにしていたのですが、小学生のお子さんをお持ちの親御さんに響いています。

──小学生の親御さんですか。どのような背景があるのでしょう。

金井 これは私の仮説なのですが、中学校や高校で英語というと親御さんもお子さんも受験を意識してしまうので、試験勉強が中心になります。その点、小学生だと親御さんも「まだのびのびとやらせてあげたい」という精神的余裕があり、好きなことを通じて英語が身についたら一石二鳥という考えがあるのだと思います。多くの申し込みを頂いています。現状は対象エリアを長野県内に絞っていますが、地元のフリーペーパーなどで特集をしていただくなどすると、かなり反響がありますね。

──どんな仕組みやスタイルで英語を勉強されるのですか?

金井 ゲームタイトルは「フォートナイト」です。3人で1チームになって頂いて、そこに外国人の講師が1人つきます。1人で申し込んでも、きちんとチームをコーディネートしますよ。外国人の先生と会話しながらゲームをプレーする。その間、話して良いのはもちろん“英語だけ”です。分からないところは先生が教えてくれます。これで1コマ50分のレッスンを、週に10回ほど実施します。受講生に反応を伺うと「3カ月ほどで結構話せるようになりそうだ」とおっしゃる人もいますね。

──そんな早いペースで話せるようになるのでしょうか?

金井 最初はお互いの自己紹介から始まって、基本的な会話のレクチャーがあります。そしてフォートナイトはみんな一緒に動かないと成立しないゲームですから、どこにいくか、何をするかなど、どんどん会話する必要があります。

──勝つためには英語を覚えるしかない、と。

金井 まさにそうですね。集中力も必要ですし、興奮してアドレナリンも分泌されます。そんな状況で、英会話の勉強したことありますか(笑)


──それはひょっとすると、学校の英語の授業より実戦的な内容ではないですか?

金井 そうですね。語学は座学だけでは通用しませんから。しゃべれる、というところを意識して運営しております。授業だと“英語”という感じになりますが、ゲームだともっと感覚的に使えるようになる必要があります。敵がいるか確認するために耳を澄ませていなければいけないですし、その上英語での会話ですから、すごく体力を使います。人為的ではありますが、ある意味、極限の環境では英語の修得も早いのかなと思います。

──ほかに今後の事業として考えていらっしゃることはありますか?

金井 私たちが過去開催した大会のゲームは10タイトル。プラットフォームもPCや家庭用ゲーム機、開催した場所もさまざまです。そういう意味で1年半の間であらゆるケースのノウハウを蓄積してきました。一方、大会を開催・運営できる会社はたくさんあるのですが、タイトルや開催する場に制約があるところが多いようなのです。そこで、当社が過去に開催した大会の情報を見た専門学校などから、「教えて欲しい」というお声をいただいています。学校の中にはプロを目指すカリキュラムを構築したい、というニーズもあります。

 そこで、私たちの技術的な側面をお伝えしていきたいと思っています。音響や映像、大会の様子を配信する周辺技術は、そのままイベントの技術になっているわけです。応用すれば、eスポーツ以外のイベントの開催もできます。将来、多くの学生さんがeスポーツの周辺でプロとして活躍していただければ、という想いがありますので、お問い合わせには積極的にお応えしていきたいと思っています。これをサービスとして体制を整えていきます。

──高校eスポーツの普及にも努めていらっしゃるとか。

 そうですね。サードウェーブさんやJHSEFさんにお声がけいただきまして高校のeスポーツ普及支援の活動をしています。「高校eスポーツ部支援プログラム」には共感しておりまして、モデルケースを長野県とその周辺に増やしていき、全国に響かせていくと素晴らしいモノが生まれるに違いないと夢を見ております。

 具体的には、こちらからお願いする形で山梨県と新潟県を担当させていただきました。実際に足を運んで高校をお尋ねしまして、先生にお会いして部活などへの支援プログラム導入に向けたお話しをさせていただいています。

──eスポーツの未来にどのような夢を描いていらっしゃいますか?

 eスポーツはグローバルな分野ですから、さまざまな人とつながれますし、多様な人と出会えるという性質があります。例えば、政治的に壁や対立のあるような国との間でも、企業の現場や個人同士のつながりの中では隔たりなく交流しています。そういう人同士、そういう企業同士で交流を深めていけば、国家間の壁を克服したり、対立を解決していけるのではないかと信じています。その国家の印象がいくら悪くても、そこにいる全ての人や企業が険悪な関係ではないわけです。

 ゲームでは知らないうちに海外の方と一緒に戦っている場面もあるわけですから、eスポーツは壁や対立と無関係なところで民間同士の交流を深めるには非常に適していると思います。“世界平和”などというとすごく大げさですが、大きな可能性を感じます。eスポーツを通じて目指す世界平和。あり得なくは、ないはずです。

前へ

  • 1
  • 2