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レース会場にPCブース? サードウェーブ、三つのブランドに込めた想い

 自作PC黎明期から業界をリードし続けてきた『PC専門店 ドスパラ』を運営、さらに、あらゆるPCを開発するサードウェーブ。「DOS/Vパラダイス」から始まり約35年間、PCのある便利で幸せな生活を提案し続けてきた。節目にあたる今年は、新たな時代に向けて組織を再編。ブランドとサービスを再構築することで、一層、存在感を増している。なかでも目立つのは、大胆に刷新されたブランド戦略。ときにはカーレース場にブースを出すこともあるという。この施策はユーザーにとってどのようなメリットがあるのか。同社製品・マーケティング統括本部執行役員の佐藤和仁副統括本部長に話を聞いた。
 

製品・マーケティング統括本部執行役員の佐藤和仁副統括本部長

コミュニティやユーザーに寄り添う道具を目指す

──今年は転換期になりましたね。特にブランドの印象が大きく変わったように見えます。現在、展開しているブランドとそのコンセプトについて聞かせてください。

佐藤副統括本部長(以下、敬称略)  過去さまざまなブランドがありましたが、現在展開しているブランドは三種類あります。「THIRDWAVE(サードウェーブ)」「raytrek(レイトレック)」「GALLERIA(ガレリア)」です。

 「THIRDWAVE」に関しては会社名としての意味とブランドとしての意味という、二つの側面を持つことになります。ブランドのポイントとしては“出過ぎない”、ということですね。何気なくそこにあって、道具として使っていて信頼できて、かつハイバリューだとユーザーの皆様に感じてもらえるような製品をつくっていきます。

 「raytrek」は、写真加工や音楽編集(DTM)、動画編集、漫画、イラストなどを手がけるクリエイターが、創作活動のための道具として「すぐ使える」と言うものをイメージしています。

 「GALLERIA」はゲーミングPCのブランドです。「ゲームをプレイされる方の相棒」として、ユーザーに寄り添っていく製品を目指しています。「PCでゲームがやりたい」といえば「GALLERIA」と、イメージされるようなブランドが目標です。

──それぞれのブランドで想定するユーザーが細かく具体的ですね。

佐藤 当社が他社と大きく違う点は、マーケットをマスで捉えるのではなく、「個々のユーザーのニーズってなんだろう?」「ある一つのものを好きな人たちが集まるグループにはどんな場があるんだろう?」 と考えるところから始まる、ということだと思います。BTOや自作で培ってきたノウハウの延長かもしれません。

──ユーザーはPC購入後のサポートも重視します。サードウェーブではどのような体制で対応しているのでしょうか。

佐藤 現在、神奈川県にある綾瀬本社工場を中心にサポートを行っております。直近では、電話オペレーションの体制を拡大し、より細かく対応できるようになりました。例えば、ゲームは様々なタイトルがあり、電話では細かな挙動が分からないこともあります。そうした場合は実際に綾瀬の本社工場で検証して、折り返しお答えするというケースもあります。また、PCをお預かりしてチェックすることもあります。メンバーも選りすぐりです。安心して選んでいただけるよう、購入後のサポートには力を入れています。

出過ぎない、これで十分という製品「THIRDWAVE」

──ではまず、「THIRDWAVE」は具体的にどのようなコンセプトがあるのでしょうか。

佐藤 社会的にデジタル化が進むなか、PCはすでに多くのご家庭で利用されていると思います。ただ、テレワークや教育といった活用だけでなく、最近は他の用途でもPCが活躍するシーンは増えています。そのようななか、もう一台購入しようとした際に、「十数万円も出せない」と躊躇する気持ちがあると思います。

 そういったときに、「数万円でもしっかり使えるものが欲しい」というニーズにお応えするのがTHIRDWAVEブランドです。データの読込や保存に使用する記憶媒体はHDDではなく、近年トレンドになっているSSDを採用しており動きもかなりクイックです。しっかり使えるけれども値段は抑えていく、使っていくうちに良さが分かってくる、そういう方向で考えました。それが我々の考える“出過ぎない”ということです。
 
“出過ぎない”精神はPCの背面にロゴを配さないなどの気配りからも垣間見える。
このおかげでテレビやYouTube動画の中でもスポンサーを気にせず使うことができる

──なぜ価格を抑えることができるのでしょうか。

佐藤 ドスパラ(直販)の店舗と通販をメインの販売チャネルにしているので、中間マージンが少ないからです。価格と性能のバランスを重視しているので、スペックを抑えてリーズナブルにするようなことはしていません。あくまで、ニーズにあわせてスペックを決め、価格を設定しています。

──「もう一台欲しい」というときにも最適なマシンというお話でしたが、スペックは十分にファーストマシンとして使えるように見えます。

佐藤 元々価格性能比が高いというのもありますが、セカンドマシンを探した時に、「安いから性能も妥協する」といったことをなるべく避けるように、どのスペックを調整すべきか吟味しています。もちろん、ファーストマシンに値する製品も取り揃えていますが、それはニーズにあわせて選びやすい環境を作るための工夫の一つです。

 選びやすいという意味では、最近は法人需要も考えております。在宅勤務を推奨する流れから、従業員へ一人1台在宅用のPCを用意して家で仕事をして貰うケースが考えられます。そういった場面では、THIRDWAVEブランドのPCのような、手頃な値段で安定して使えるPCが活躍するでしょう。

 リモートワークのニーズに合わせて、新製品のノートPC「F-14IC」にはキーボードに角度をつける「リフトアップヒンジ」や、「USB-Type C」の電源を採用しています。本体は小型でも画面はなるべく大きくするなどの工夫も凝らし、ビジネスシーンでも使える製品に仕上げました。コストパフォーマンスも意識したイチオシのモデルです。

──専用の電源ケーブルが必要なPCだと、在宅勤務とオフィス勤務が入り混じるスケジュールのとき、会社に電源ケーブルを忘れてしまうと予定が狂います。汎用性が高い USB-Type Cの電源は柔軟に対応できるので、助かる人も多いかもしれませんね。

クリエイターの創作ニーズに寄り添う「raytrek」

──続いて、「raytrek」はどのようなブランドなのでしょうか。

佐藤 PCはあくまで道具であるべきです。しかし、今まで漫画やイラスト、写真、動画編集など、クリエイターの方がPCで創作活動をするには、自分の用途に合わせてパーツや周辺機器を選ぶなど、自分のしたいことを実現するために最適なマシンを“つくる”必要がありました。購入してすぐ使えるというものではなかったのです。

 そこで、もっと多くの方に快適な環境で創作活動をしてもらうには、どうすればいいのか考えました。行きついたのは、PCの方からユーザーに寄り添っていくこと。つまり、ユーザーのカスタム前提ではなく、最初から製品として作り込んでいくことが必要だ、という結論です。それがraytrekの位置づけです。今後もさまざまな創作活動のニーズに合致するPCを作っていきたいと考えております。

 今回の新製品「RT08WT」では8インチタブレット型でペンが付属し、好評なワコム製デジタイザを採用しました。価格は4万9800円(税別)に収めました。ワコム製品はクリエイターの方にも定評があり、タッチ感、ペン先の動きのなめらかさなど、しっかりと使えるものになっています。「しっかり」というのは、画面とペンだけではなく、ボディについても言えることで、中のフレームにはマグネシウム合金を使用しております。レーシングカーのホイールにも使われている素材で、軽くて強度が高い。あらゆる使い方に対応するでしょう。
 
新製品「RT08WT」

──クリエイターが創作活動をスタートしやすい環境を整えているわけですね。新しい才能を発掘するきっかけにもなりそうです。

佐藤 今まではデジタルに関する知識とアート、両方を理解していないと捜索活動でPCを使いこなせなかったわけですが、すぐに使える状態にしたPCをお届けすることで、アートとして表現したいこと、クリエイトしたいことが簡単に、すぐに実現できる環境をつくっていきます。

ゲーマーのスキルに合わせたパートナーとして

──ではゲーミングPCブランド「GALLERIA」のコンセプトについて伺います。

佐藤 GALLERIAは従来、筐体はブラック一色だったのですが、今回筐体にブルーを入れ、イメージカラーも変えました。これまでeスポーツは暗い中でPCを操作してプレイするという、少し暗いイメージがあったかもしれません。ブランドの刷新に伴って、もう少しスポーツらしい健全さと明るさを打ち出したい、ということで印象を大きく変えました。

 製品のカテゴリも分かりづらいという意見があったので、上位機種のU(Ultimate)シリーズを頂点に据え、シンプルな4段階に見直しました。スペックの上下ではなく、自分のプレイしたいゲームやスキルに合わせて、どのランクで戦いたいかで選ぶというカテゴリ分けになっています。デスクトップは最高スペックでガンガン動かす、という製品。一方のノートは価格をやや抑えて気軽に使える、というのがコンセプトです。
 
黒いボディに青いLEDが光るGALLERIAの新デザイン

──黒を基調としたゲーミングPCは、男性が使っている印象があります。

佐藤 最近は女性のゲーミングPCユーザーも増えています。たしかに、昔は男性が多いというイメージでしたが、女性はこれからさらに増えてくると予想しております。当社が共催する『全国高校eスポーツ選手権』にも女性の選手がたくさん参戦しておりまして、ロケットリーグには女子高からの参加がありました。

コミュニティからニーズをキャッチ

──ブランドを刷新して、品質などで大きく変わったところはありますか?

佐藤 我々の考える品質というのは“既存の良いパーツを組めばいい”、ということではありません。組んだ後、“お客様のところに届いた段階でいい品質のものは何なのか?” ということまで突き詰めます。電源やメモリーのセレクト、パーツのメーカーと連携した品質チェックなど、お客様に届けるまでをトータルした品質です。

 そのために何かできることはないのか、常に洗い出しをしています。例えば、PCを運搬する際に、グラフィックボードの重さによりコネクタを痛める可能性がある場合は、ホールドする器具「リジッドカードサポート」を取り付けるなど対策しました。さまざまな試験をした結果の一つで、今後グラフィックボードが大型化した場合を想定した施策です。すでに、GeForce RTX 3090/3080/3070系を搭載したPCには標準装備しています。
 
長く使用できるよう先を見据えた施策を打っていると語る佐藤副統括本部長

──製造業と小売業にまたがった業態ならではの施策ですね。

 そうですね、当社では製造業に重きをおき、小売業も手がけていますから、綾瀬本社工場では、先ほど述べたような新しいことを考えながら開発しています。

──ユーザーの声を反映するスピードも早い、ということでしょうか。

佐藤 コールセンターに寄せられる意見だけでなく、ドスパラのTwitterなどでもレスポンスを小まめにチェックし、開発に活かしております。SNSでは潜在的な意見も垣間見えるので、今後の製品開発のヒントになるでしょう。

──Twitterと言えば、今年の8月辺りに一人のユーザーの方が特定のスペックの製品について「これ買っておけば間違いない」と呟き、バズったことがありましたね。

佐藤 ありましたね。そのときは瞬く間に品切れになってしまい、お待たせしてしまったことは申し訳なかったと反省しています。一方で、お客様がどのようなスペックの製品をどのような価格で求めているのかについて、大変良いリサーチになりました。 

──サードウェーブはTwitterに力を入れているように見えますが、どのような声が集まっているのでしょうか。

佐藤 例えばゲームをプレイしていて発生した不具合や、使い方に関する悩みなどです。そうした部分はこまめに拾って検討しております。

 ご意見をいただくことも多々ありますが、大切なことは、それを解決に導くための答えを見出すこと。声をもとに、実際に新製品を開発して、お客様の潜在的なニーズにミートするかどうか。お客様から「これだよ!これが欲しかった!」と言っていただける製品を開発し続けることで、選ばれるブランドになっていくと考えています。

──SNSの展開にも表れていますが、コミュニティを後押しする姿をよく見かけます。

佐藤 ニーズにミートしていくためには、コミュニティを重視した訴求が大切だと考えています。われわれのPCというのはマスではなく、個々のユーザーの方のニーズに寄り添っていくことが大切だという考えに基づいて提供しています。

 例えば、これは一つのトライ事例ですが、 raytrekのメンバーが富士スピードウェイのスーパーGTの最終戦にブースを出しました。

──なぜサーキットにraytrekのブースを?

佐藤 そこにはレーシングカーやレーサーの写真を撮る方が大勢来ています。人数としては1000人もいないかもしれませんが、なかには写真を加工するPCを探している方もいらっしゃいます。現場で、写真をPCで編集する方がどれくらいいるか調べたところ、3割ほどが当てはまりました。そこで、「ここにニーズがあるのだな」と分かったわけです。

 今まで訴求できていなかったお客様に、「PCでこんな便利なことができる」と知っていただく。そういう機会を見つけ出してわれわれのPCの使いやすさや、使い方をアピールしていくことが大切だと考えています。

インタビュー(了)
 
サーキットにPCの展示ブースを出した際には反響があったという

知らない間に“サードウェーブ”ユーザーに

 PCでやりたいことが一つでもあれば、サードウェーブの製品群のなかから、ジャストな製品をスムーズに見つけることができるだろう。なぜなら、さまざまなコミュニティを応援することで得た細かな知見が、惜しみなく生かされているからだ。コミュニティメンバーは後押しされればされるほど自身のニーズにヒットするPCが現れるので、驚くはず。いつの間にか、ふと寄り添ってくるような印象を持つかもしれない。

 佐藤和仁副統括本部長は、そんなブランド戦略を“出過ぎない”と表現した。出るのではなく、自然と選ばれるブランドを目指している。「気がついたら、サードウェーブのPCを使っていた」といった具合だ。そんな安心と信頼を得るのは容易ではないが、一歩ずつコミュニティに歩み寄り、寄り添って歩くことができるサードウェーブなら、いつかたどりつけるかもしれない。佐藤副統括本部長の言葉には、そんな力を感じた。