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人形町の人気蕎麦屋、コロナで客数9割減も“解雇”せずに済んだわけ

経営戦略

2020/07/17 19:30

 新型コロナウイルス感染症の影響で、飲食店経営者は苦境に立たされている。東京・人形町で蕎麦屋「双庵」を経営する田代周平店長もその一人だ。4月の来店客数は前年比で9割減。売り上げも著しく減少した。店舗によっては、客数減少による人余り解消と経費削減のため、従業員の解雇も見据えなければならない状況だ。普段は2~3人のスタッフと運営している双庵も例に漏れないかと思いきや、“解雇”とは無縁だという。その理由に迫る。

東京都中央区日本橋人形町にある蕎麦屋「双庵」

飲食店が置かれた厳しい現状

 ジェーシービー(JCB)が公開している国内消費動向指数によると、外食消費は3月前半から4月後半にかけて70%近くまで落ち込み、6月前半になってもまだ回復し切っていない。飛沫や接触で感染するとされている新型コロナウイルス対策を前提とした「新しい生活様式」によって、自宅での飲食が定着すれば、市場自体が縮小する恐れもある。飲食店経営者にとっては、大きな悩みだ。

 双庵も4月、売り上げ・来店客数ともに大きく落ち込んだ。その後、緊急事態宣言に伴う臨時休業を経て、6月は前年比5割程度まで回復。来店客に手指の消毒を促したり、スタッフにマスク着用を義務付けたりと感染対策は徹底しているが、「そもそも外を歩いている人が少ない」(田代店長)と、来客数がどこまで戻ってくるかについては不安視している。
 
「双庵」の田代周平店長

 社員やアルバイトを雇っている店舗では、来店客が少なければ人員も適切に調整する必要がある。また、減少した売り上げを補填するため、経費を削減しなければならない。雇用調整助成金などの制度はあるが、これらの要因が重なると“解雇”を選択せざるを得ない状況も考えられる。実行すれば、社員やアルバイトの生活が厳しくなるのは想像に難くない。経営者は、葛藤を抱えることになるだろう。

コロナ禍でも「解雇」が選択肢にない理由

 一方、双庵ではこうした雇用の問題に悩まされることはないという。なぜなら、田代店長以外、スタッフの約9割が単発バイトサービスで募った人員だからだ。田代店長は、「そもそも、解雇の対象になる人がいない。休業の際も、頻繁に頼んでいるスタッフに事情を説明することはあったが、サービスを使わなければいいだけ。社員などがいる店舗に比べると、コロナ禍のような不測の事態では固定費を抑えられる」と説明する。

 双庵で利用している単発バイトサービス「ジョブクイッカー」は、リクルートジョブズが提供するサービス。「面接はないが、登録者が記入した履歴や職務経験を参考に雇う人を選べるので、ある程度は安心して利用できる」と、田代店長は使い心地を語る。月初にシフトを組む際も単発バイトありきで考えるという。人員が足りない日の2日前に応募をかければ最速1~2分で応募がくるため、事前にシフトが埋まらなくても「問題ない」そうだ。

 スタッフの募集をかけた際は、応募がきてもすぐには反応せず、「なるべく自己紹介に空欄がない人を吟味して選ぶ」とのこと。ただ、突然、働けないという人が出た場合は、前日夜までに募集をかけ、翌日朝に集まった応募の中から急いで決めることもあるという。スタッフ手配のほとんどをジョブクイッカーに依存しているので、もはや欠かせない存在だ。

 社員やアルバイトを継続して雇うことは、技術向上によって顧客満足度アップが期待できるという点などで大切なことだ。しかし、たとえコロナ禍が終息したとしても、いつまた似たような状況になるかは未知数。今後は、部分的に単発バイトサービスを活用するなど、さまざまな場面に柔軟に対応できる体制整備が店舗運営で重要な要素になるかもしれない。