緊急事態宣言の解除に伴い、大手百貨店などの商業施設にも徐々に人が戻りつつある。しかし、感染拡大を警戒して、まだコロナ感染前の水準には達していないのが実情だ。回復のためには売り場にも“新しい生活様式”に適したモデルが求められてくる。東急ハンズはリテールテクノロジーを活用した取り組みで、新しい接客のあり方を模索している。

東急ハンズが渋谷スクランブルスクエア店でビデオ通話を介した遠隔コンシェルジュを展開している

 取り組みが行われているのは、昨年11月1日に開業した渋谷スクランブルスクエアに入居する「東急ハンズ渋谷スクランブルスクエア店」。オープン当初から接客におけるデジタル活用に注力することを公言しており、今回の仕掛けもコロナとは関係なく、以前から用意していたものだという。

 あらゆる分野の“目利き”が集まる東急ハンズには「コンシェルジュ」と呼ばれる、さまざまな分野の専門家がいる。通常であれば店頭に常駐しているのだが、今回は本社に待機させ、オンラインで店舗の顧客とつないだ。売り場の一角に配置されたブースには、アバターが表示されたタッチパネル、スピーカー、マイク、顧客を映し出すカメラ、そしておすすめ商品が並ぶ。
 
顧客とやりとりするインターフェースとおすすめ商品が並ぶ

 顧客がいくつかを選択するとAIが最適な商品をレコメンドする…というソリューションはよく見かけるが、東急ハンズのオンラインコンシェルジュは、つながっているのが“生身の人間”であることだ。画面にタッチするとオンライン上でコンシェルジュと即座につながり、顧客の属性やどんな商品を探しているかなど、店頭同様に相談することができる。
 
遠隔なのでコロナ禍で危惧されている飛沫の問題もクリアできる

 実際の利用シーンを見学して、驚いたのがアバターの表現力の豊かさだ。コンシェルジュ側にはセンサーが備えられており、画面の向こうの表情や手の動きなどを忠実に再現する。顧客もリアルの人間と会話しているという感覚が得られやすい。

 しかし、なぜアバターなのか。画面の向こうにいるのが人間であれば、そのままの姿を映し出してもよいはずだ。デジタル戦略部の本田浩一部長によると「アバターにすることでお客さまの心理的ハードルを下げている」とのこと。たしかにビデオ会議などは対面と比べて、緊張感が高まるという感覚をもっている人は多いだろう。表現力豊かなアバターは、接客の質と利用しやすさのうまい落としどころになっている。
 
表現力豊かなアバター。デジタルとアナログを融合することで顧客の満足度を高めている

 渋谷スクランブルスクエアのコンシェルジュは15日(月)までの展開となるが、今後のプランを聞いてみた。「今回は“ビューティー”のコンシェルジュを配置したが、東急ハンズにはさまざまな目利きがいる。例えば、シューケアやデジタルのコンシェルジュで実施することもできる。接客時のデータを分析して活用できるメリットもある」(本田部長)。

 まだ構想段階とのことだが期待したいのが、ECサイトへのオンラインコンシェルジュの実装だ。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛によってECサイトは急速に成長しているが、各サイトの差別化ポイントは“価格”に偏りがちだ。これが購入時にオンラインで店頭と同じようにプロに相談できれば、新たな道筋が生まれる。これまで培ってきた“人”という資産をオンラインに生かせる方法として、リアルに軸足を置く小売企業にとって大きなヒントになりそうだ。(BCN・大蔵大輔)