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国内ECは完全撤退? 大原孝治ドンキホーテHD社長がドンキ流デジタル戦略を語る

 流通企業が苦戦する昨今にあって、ドン・キホーテ1号店の開店から29期連続で増収増益を達成しているドンキホーテホールディングス(ドンキホーテHD)。斬新な業態開発や話題性の高いプライベートブランドの開発など成功体験が取り上げられることの多い同社だが、2018年5月31日にひっそりとEC撤退という大きな決断を下していた。Amazon.co.jp(Amazon)をはじめECの影響力が高まるなかで、なぜ実店舗一本で勝負していくという選択をしたのか。大原孝治社長は、BCNの独占取材で「われわれはAmazonの対極をいく」と独自のデジタル戦略を語った。

取材・文/大蔵 大輔
写真/中田 浩資

「われわれはAmazonの対極をいく」と独自のデジタル戦略を語る大原孝治社長

EC以外のデジタル戦略でリアルを極める

―― 現在、ドン・キホーテ(ドンキ)のECサイトは日本国外在住者に向けたグローバルショッピングサイトのみとなっています。国内に向けたECからは撤退したという認識でよいのでしょうか。

大原 5月31日をもって、国内ECはほぼ撤退しました。EC市場で大きなシェアを占めるAmazonと同じ土俵で戦うのは愚の骨頂です。われわれに対してECのニーズはないと判断しました。私自身も、Amazonを利用してしまいます。Amazonは、それだけの便利なシステムを作り出しました。だから、Amazonという企業があのポジションにいることは正しいわけです。
 
ドン・キホーテのグローバルショッピングサイト。海外発送専用で日本国内への販売は行っていない

―― では、そのAmazonにはどのように対抗していくのですか。

大原 対抗していくという意識はありません。最近よく紹介しているたとえ話なのですが、音楽でいうとAmazonはストリーミング配信、ドンキはライブ会場と考えています。ストリーミング配信は便利で多くの人が利用していますが、それでライブを楽しむ人が減っているわけではない。むしろ、ストリーミング配信が広がるほど、臨場感を求めてライブはより盛り上がっています。

 われわれが目指すのは、Amazonの対極です。ライブ会場として、お客さまに楽しんでいただくためのエンターテインメント性を高めていきます。そのために、スマートフォン(スマホ)を活用したデジタルコンテンツもどんどん生み出していく予定です。EC=デジタル戦略と思われがちですが、決してそのようなことはありません。ドンキの場合は、EC以外のデジタル戦略でリアルを極めようと考えています。

―― スマホを活用した取り組みにはどのようなものがあるのですか。

大原 11月22日にオープンした「MEGAドン・キホーテ港山下総本店」で試験導入している取り組みに、「デジタルパーキング」というものがあります。これは、スマホにドンキの電子マネーアプリ「majica」をインストールして車両登録いただくと利用できるサービスで、駐車場の入庫時・出庫時にゲートが個人を認識して自動でオープンします。従来のような駐車券は不要です。

 また、同店では「デジタルレーン」というセルフレジシステムも試験導入しています。最終的には、お客様がカスタマイズしたアバターがレジで接客するようなものを開発したいと思っています。
 
ドンキのデジタル戦略の現状を説明する大原孝治社長

―― ECを意識した取り組みで、2017年2月に「MEGAドン・キホーテ大森山王店」で最短58分以内の配達サービス「majica Premium Now」をスタートしましたが、そちらも終了したのですか。

大原 今年3月で終了しました。ダメだったら、即撤退です。配送車はテスラだったんですよ。トランクを開けるとQRコードがあって、それを読み込むと商品や旅行が当たるキャンペーンなど、いろいろと仕掛けをしていたのですが、なかなか気づいていただけませんでした(笑)

 テスラである意義を他の役員に説明するのはとても苦労しました。なんでテスラじゃないといけなんだ、と。理屈じゃないんですけどね、こういうのは。Instagramにはたくさんアップしていただいていたので、良かったら探してみてください。
 
終了から半年以上が経過しているが、Instagramで「#マジカプレミアムナウ」検索すると、ドンペンラッピングのド派手なテスラの写真が多数ヒットした

デジタル戦略の先に見据える「ポストアップル」という野望

―― 今年8月の決算説明会で、デジタルとアナログを融合したスーパーハイブリッド店舗を年内にオープンすると発表されました。進捗はいかがですか。

大原 年内にこだわらず、粛々と進めているところです。先ほどデジタルパーキングやデジタルレーンをご紹介しましたが、それぞれの完成度を高め、組み上げていった先にデジタル戦略を踏襲した店舗ができ上がります。ご存知の通り、ソフトウェアのアップデートは非常に早く、実行の段階ですでに時代遅れというケースは少なくありません。その中でも、生き残っていくサービスというものを選んでいかなくてはいけません。

 デジタル活用という点では便利なソリューションだけでなく、お客さまがドンキを楽しむためのスマホゲームなども考えています。店舗を1000歩歩くと100ポイントもらえるとか、特定の売り場の前に行くとポイントがもらえるとか、そんなイメージです。くだらないと思われるかもしれませんが、エンタテインメントですから、それが大事なんです。

―― 流通企業各社は、無人店舗のような店舗の効率化を目的としたデジタル戦略に注力しています。ドンキのデジタル戦略には、非効率を追求するような仕掛けもありますね。

大原 われわれが目指しているのは、非効率の極致ですから。しかし、これがものすごいリソースを生み出すかもしれない。スマホにアプリをダウンロードしてもらって、課金の代わりにmajicaポイントを使えるようにすれば、アップルにようなプラットフォーマーにもなれるわけです。もちろんアップルのように世界規模で、というのは難しいですが、ドンキを利用していただいているお客様にとってのポストアップルにはなれるかもしれません。