PC市場が縮小しても、ウイルスバスターはなぜ売れるのか

 過去10年のPCの国内販売市場を振り返ると、2012年をピークに縮小に転じているが、PCとのセット購入率が高いセキュリティソフト「ウイルスバスター」は、販売本数も売上高も伸び続けている。トレンドマイクロのコンシューマ営業を統括する宍倉豊執行役員に、その秘密を聞いた。


トレンドマイクロのウイルスバスター

 全国の主要家電量販店とネットショップの実売データを集計した「BCNランキング」の年間販売台数で、シェアトップの企業を表彰する「BCN AWARD」のセキュリティソフト部門を、トレンドマイクロは10年連続で受賞。直近の「BCN AWARD 2018」(17年1月~12月)のシェアは39.2%と、4割に迫る勢いだ。
 

トレンドマイクロ 執行役員コンシューマ営業本部の宍倉豊本部長

 ドレンドマイクロの17年12月期の連結決算では、売上高1488億円(前年比12.8%増)のうち、日本地域は591億円(同5.3%増)で約4割を占める。世界のほかの地域よりも成熟した日本市場は、伸び率こそ低いものの、コンシューマ事業のほとんどを占めるウイルスバスターの販売は堅調に推移して売上高も微増となった。

 まず、「BCNランキング」で過去10年の国内PC販売台数の推移をみていこう。07年の販売台数を「100」とした指数でみると、17年はデスクトップが「38.2」と6割減、ノートPCは「85.6」と15%減と大幅に落ち込んでいることがわかる。とくに12年はWindows 8の販売不振、その後は14年4月の消費増税とWindows XPのサポート終了が市場の縮小に拍車をかけた。しかし、なぜウイルスバスターは売れているのか。
 

 「ユーザーのPCの使用年数は、以前の3年から、今では6~7年に伸びた。PCの買い替えサイクルの影響を受けやすいウイルスバスターは、そうなる以前から対策を打ってきた」と宍倉本部長は振り返る。まず最初は、05年に実施した単価アップ作戦だ。それまで1年ごとに更新料を徴収していたが、3年版をリリース。更新期間の延長で販売本数は減ったが、5500円前後だった単価は、オンラインの直販価格で1万2780円(税込)へと2倍以上に引き上げることに成功した。「単価アップは、家電量販店などの流通からも支持されて歓迎された」(宍倉本部長)。

モノの単品販売にサービスを加えた

 続いて08年に打った新たな施策は、製品の単品販売ではなく、サポートを絡めた新しい製品の開発だった。PCに接続する周辺機器は、それまでのUSBメモリやデジタルカメラ程度だったのに対し、Wi-Fiルータが家庭に普及しだしたことで、家庭内にネットワーク家電が増えていった。

 こうしたデジタル家電の接続や設定などのサポートをセットにした「ウイルスバスター クラウド + デジタルライフサポート プレミアム」(1万8580円)を08年に発売したのだ。それまで赤色だった製品パッケージを白色に変えたことから、通称「白パケ」と呼ばれる。この製品のユーザー数は、今では1000万以上を数えるまで成長した。

 モノである製品と違って、サポートは目に見えないサービスであるため、最初は価格の高さから消費者の理解を得ることに苦労したが、積極的に「白パケ」の販売した家電量販店の協力もあって、徐々にユーザーに浸透していったという。

 それでも、14年の落ち込みは強烈だった。「消費増税とWindows XPのサポート切れは、PC販売台数が前年比で二ケタ以上の落ち込みとなり、PC向けだけでは前年実績をカバーできなくなった」。そこで次なる戦略はモバイル、つまりスマートフォンに対応した「ウイルスバスター モバイル」の発売だった。携帯電話の販売代理店など新しいチャネル開拓に奔走した苦労もあって、17年12月期の第4四半期の携帯販売代理店経由の売上高は、前年同期比で約2倍を遂げるまで成長したのだ。
 

16年12月に発売した「ウイルスバスター for HomeNetwork」

 トレンドマイクロが、PC市場の荒波にのみ込まれずに事業を拡大してきた背景には、したたかな事業戦略があった。市場の変化への対応力は、16年12月に発売した新商品「ウイルスバスター for HomeNetwork」にも反映されている。

 ウイルスなどの脅威からIoT時代のホームネットワークを守るために、Wi-FiルータにLANケーブルで接続するだけで機能するハード製品だ。ハードの単品売りから始まったウイルスバスターがサポートというソフト面の付加価値をつけて再び新しいハードを投入するという戦略で、すべてのモノがネットにつながるIoT時代のビジネスを各社が模索するなかで興味深い。(BCN・細田 立圭志)