少数精鋭でものづくりをするスタートアップメーカーにとって、事業立ち上げ時の資金調達や資金繰りは大きな不安要素。そんななか、インターネット時代ならではの事業の立ち上げで注目されているクラウドファンディングの活用で、議論が割れた。

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<事業立ち上げの課題 クラウドファンディングの活用で白熱>

事前の資金調達で隠れた才能が開花

 スタートアップメーカーと既存の大手メーカーの大きな違いは、ものづくりでインターネットをフル活用しているか否かだろう。とりわけ、事業立ち上げ時のクラウドファンディングの活用は象徴的で、存在感が増している。座談会のテーマにも挙がり、その活用で議論は二分した。
 
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シリウスの亀井隆平代表取締役社長

 まず、肯定的な意見には、事前に製品や事業計画を明らかにして資金を募ることで、立ち上げ時の資金繰りが楽になるメリットがある。個人で銀行から融資を引き出すのは至難の業で時間もかかる。クラウドファンディングの活用で国内外から広く浅く賛同を得て、資金調達の見通しが立ってからものづくりに着手できる安心感は大きい。今後も多くの隠れた才能やアイデアがクラウドファンディングを通して開花するだろう。

 さらに面白いのが、事前の製品デザインやスペックの公開で、既存メーカーのものづくりとは真逆のプロセスが生む副次的な効果だ。

 「メーカーの場合、発表時までスペック情報は一切明らかにしない。ぎりぎりまでスペックや性能を追求する事情がある。しかしクラウドファンディングは事前に情報を明らかにするので、テストマーケティングしながらモノづくりができる」。

 FacebookやTwitterなどのSNSによる情報拡散で、製品が誕生する前に販促や営業ができるのだ。例えば、開発側が思いもよらなかった業務用ニーズが得られるなど、意外な発見があったという。

 あるいは、ガジェット好きのマニア層だけではなく、年配客や女性など幅広い層の顧客を事前に獲得できたり、自ら海外に飛んで商談に行かなくても、小売りの目に止まれば先方からオーダーが入るケースもある。

デザインの事前開示はワクワク感がなくなる

 逆にクラウドファンディングはできるだけ使いたくないという意見も挙がった。「コンシューマ向け製品では特に、『何が出てくるのか』という期待感の演出が自社製品のブランディング戦略で重要になる。事前に公開すると、そのワクワク感がなくなってしまう」。

 クラウドファンディングを活用しない場合、最初はECの直販サイトに製品を買い取ってもらう契約を結ぶ。そこで得たキャッシュをまわしてく。
 
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UPQの中澤優子CEO代表取締役

 製品をリリースする際にも、すべてのラインアップを一気に投入しない。単価が安くて小さな製品から順次投入し、最後に単価の高い大型製品をリリースする。時間のズレを利用してキャッシュを回しながら、ものづくりができるのも、小ロットから製造できる新しい時代ならではだ。

 「ユーザーの購買行動は大量買いから、所有自体の満足に変化している。ブランディングを大切にする点からも事前の情報公開は少なくしたい」。クラウドファンディングひとつを取り上げても議論が白熱するほど、ものづくりの最前線では新しいモデルや手法が次々と生まれている。このスピード感こそが、スタートアップメーカーの生命線だ。

<販売パートナーと売り場の可能性と課題「製造は得意でも営業が苦手」を克服>

 「スタートアップメーカーはものづくりは得意でも売り方は下手だ」という。リアルとネットを問わず販売パートナーとの関係構築は避けて通れない。後続のベンチャーを生むためにも、製品を売り切るためのノウハウが重要になってくる。

販売パートナーが必要 段階ごとにチャネル選択

 スタートアップメーカーは、世の中にない製品を出すことに喜びや、やりがいを感じる。発想や着想があっても大手メーカーの組織の中で具現化できないことにストレスを感じて、飛び出してきた事業者が多いからだ。
 
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ネインの山本健太郎代表取締役兼CEO

 しかし、「世の中に存在しない製品だからこそ顧客に伝わりづらく販売しにくい」というジレンマもある。製品の開発に込めたストーリーを顧客に伝えてもらう販売パートナーの存在は欠かせない。ただし、リアル店舗やECサイト、テレビ通販など、事業者が採用するチャネルはブランドのステージによって違いが生まれるようだ。

 「価値を伝えるためにリアルやウェブで顧客の反応を見ながら、手探りの状態が続いている」と座談会で語られた言葉は、スタートアップメーカーの多くに共通する悩みだ。

 「認知度が低く、ブランドが育っていないこともあり、家電量販店の売り場を確保するだけでは売れない。経営資源が限られるので、販売応援スタッフを投入することも難しい。説明型製品なので、まずはテレビ通販やカタログ販売、インターネットによる情報発信ツールを使って話題づくりから着手する必要がある」。リアル店舗で取り扱ってもらいたい思いはあるものの、一足飛びではなくステップを踏むことが大切だという。

開発者の究極の使命は営業せずに売れる製品づくり

 一方で、リアル店舗の側から「扱わせてほしい」と言わせるような強力な製品やラインアップを揃えることも重要という意見も出た。「企画や開発がやるべきことは、営業がいなくても製品写真1枚で売れる製品をつくること。この信念は、大手メーカーにいたときと変わらない。問題は、どんぐりの背比べにならないプロダクトをいかに出すか」。

 家電量販店との商談では素直に実情を語って理解してもらうことも大切。「ベンチャーなので売り場のスペースは限られるし、人材を投入できない。実情を素直に話すと応援してくれる家電量販店も少なくなかった」。話題の製品を店舗に置いて得られる集客効果と、何もせずに量販店が投じる広告宣伝費を天秤に掛ければ、必ずしもスタートアップメーカーに不利になる条件ばかりではない。

 10年前とは違いインターネットの利便性が向上して、ユーザーと開発者の距離が近くなったことも追い風になる。売り場と製造の距離が近づき、リレーションが取りやすい環境にある。

 座談会に集まった3人とも元家電メーカーの社員だったこともあり、家電量販店との距離感を意識しつつ、メーカーと小売りのお互いがWin-Winになる新しい関係づくりに挑戦している。

 「つくるのは得意だけど、売ることが苦手なスタートアップメーカーは多い。在庫の山が残るようでは、後続のベンチャーが生まれなくなってしまう。売り方のノウハウの共有が重要だ」。販促やマーケティング面でのパートナー同士の連携が今後の展開のカギになっている。(BCN・細田 立圭志)
 
開催日:2017年2月27日
場所:BCN 会議室
参加メーカー:UPQ、シリウス、ネイン(50音順)
▼今注目のスタートアップ3社が議論
https://www.bcnretail.com/market/detail/20170324_42473.html
 
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年4月号から転載