国内大手家電メーカーは今、岐路に立っている。かつてのように革新的な製品を生み出すことができず、海外メーカーに押されているカテゴリも多い。既存の「ものづくり」が抱える問題とは何だろうか。そして、スタートアップの優位点とは?かつて大手家電メーカーに在籍していた3人の回答には共通点が多かった。キーワードに挙がったのが、「スペック」と「スピード」の二つの“S”だ。

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<既存の「ものづくり」が抱える問題>

大手メーカーを縛る 競合とのスペック勝負


 「よい意味でライバルゼロ」、座談会の登壇者から出た言葉の背景には、競合同士のスペック争いで疲弊する大手家電メーカーの現状がある。「前モデルや競合と差異化しなければいけない」という前提があるので、開発サイクルのたびに満たす必要があるスペックの基準が上がってしまう。

 「ハイスペックであり、多機能を搭載し、デザイン性にこだわり、価格を抑える」。大手メーカー時代の苦労話が出たが、その考え方は今も変わっていないかもしれない。
 
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ネインの山本健太郎 代表取締役 兼 CEO

 それなら競争から降りてしまえばよいのではないか。疑問をぶつけてみると、話はそう単純でないという。「一度でも競争から降りたら、二度と戻れない。1サイクルでも遅れをとってしまったら業界の基準となるスペックを実現できなくなる」。競争の放棄は、これまで培った資産を一度捨てることとイコールだ。事業が立ち行かなくなる可能性も十分に考えられるため、簡単に判断を下せない。

 しかし、0.1mmや1g単位での小さい争いが、販売現場や消費者の購買欲と乖離しているのも事実。大手メーカーは、長年構築してきた競争環境と市場ニーズの差が開くジレンマに陥っている。
 
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シリウスの亀井隆平 代表取締役社長

 そして、スタートアップの成功例が増えているのは、そんなスペック争いと無縁でいられるという立場も影響しているようだ。「スペックを削れば、誰でも“ものづくり”できる環境が整ってきた。スペックを切り捨てれば、価格やデザインで思い切って勝負することもできる」。競合がいないゆえ、販売現場と消費者に真正面から向き合えるのは、既存メーカーに対する最大の優位点といえる。

企画即、開発も可能 「70点でも組める」強み

 もう一点、大手に対して優位性があるのはスピードだ。大手では、企画から開発までに時間を要するが、スタートアップは企画即、開発の判断を下すことができる。インターネットで、人・資金・資材を簡単に調達できるようになり、個人が一からものをつくるハードルが下がった。
 
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UPQの中澤優子CEO代表取締役

 開発環境も同様で、工場の最低ロット数の基準が少なくなったことで、スタートアップでも限られた資金で使用可能になった。大手だけの特権であった潤沢な開発環境は、いまや個人にも開かれている。

 また、有用な特許技術が大手に持ち込まれてもたらい回しになっている例が挙がった。「個人が持ち込んでも、採用に至るケースは少ない。実現しても時間がかかりすぎる」。こうした受け皿としてもスタートアップは機能している。座談会では「70点でも組める」という表現で語られたが、完璧を要求されない分、スピード感のある開発が可能なのだ。(BCN・大蔵 大輔)
 
開催日:2017年2月27日
場所:BCN 会議室
参加メーカー:UPQ、シリウス、ネイン(50音順)
▼今注目のスタートアップ3社が議論
https://www.bcnretail.com/market/detail/20170324_42473.html
 
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年4月号から転載