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敵と味方が入り乱れる社会でも変えない五つの「OBCの原点」――第248回(上)

和田成史

和田成史

オービックビジネスコンサルタント 代表取締役社長

構成・文/細田立圭志
撮影/松嶋優子
2019.11.7/OBC本社にて

週刊BCN 2019年12月9日付 vol.1804掲載

 「勘定奉行におまかせあれ」。歌舞伎役者の威勢のいい声にのって製品ブランドが紹介されるOBC(オービックビジネスコンサルタント)のCMは息の長さでも有名で、ご存知の読者も多いだろう。ビジネス環境が大きく変革する中、いくつかの危機を乗り越えてきたという和田さん。来年で創業40年。時代の変化に“しなやか”に対応しながらも、一方でOBCの原点は決してぶれない。気がつけばお互いの会話は熱を帯びていた。(本紙主幹・奥田喜久男)

2019.11.7/OBC本社にて

「七つの宝物」を引き出す経営は「人づくり」の段階に

奥田 1980年12月10日の創業から来年で40年。どのような物差しで分類するかにもよりますが、今、会社は何世代目にありますか。

和田 3世代目です。テクノロジーの視点で分けると最初はDOS、次がWindows、今はクラウドへの道のりです。人づくりの観点から見ると、創業してすぐは中途採用が多かったのですが、7、8年後からはずっと新卒採用。そして今は、幹部や後継者を育成するステージに入っています。人はそれぞれ七つの宝物のうちのいくつかを持っていて、適材適所に人をどう育てるかが大事です。

奥田 ほう。七つとは。

和田 先頭を走る人、金庫番、心を打ち明けられる人、アイデアや発想を生み出す人、みんなから慕われる人などです。

奥田 五つ? 残り二つは。

和田 信頼の厚い人と、将来が読める勘のいい人です(笑)

奥田 そのうち和田さんはいくつ備えていますか。

和田 一つか二つではないでしょうか。

奥田 七つを超えるように思いますが(笑)

和田 確かに創業から7、8年は自分ができないこともしましたから、そのときは鍛えられましたね。人づくりで言えば、売り上げとか開発などの専門分野にフォーカスを当てるのではなく、その人が自分の強みを発揮できる分野で活躍でき、「自分に任せてください」と言えるような人をつくっていきたいですね。

奥田 技術や開発の世代を積み上げた後に、人づくりの世代ですね。そのほか、経営者としてどのような手立てを講じていますか。

和田 会社のデザインにはずっとこだわってきました。五つのコア・コンピタンスへのこだわりです。一つは基幹業務、二つめは中堅・中小企業、三つめはマイクロソフト、四つめはパートナー、そして最後がブランド戦略です。これらは創業から今まで40年間ずっと変わっていません。

奥田 未来になっても……。

和田 変えません。危機は何度かありました。例えば2000年のITバブルがはじけたときや、最近ではアマゾンがデータセンター事業で急速にシェアを高めたときに、マイクロソフトにフォーカスしていていいのかという時期がありました。しかし、みんながアマゾンに移ったときに、マイクロソフトとぶれずに付き合ってきて、今は良かったです。

奥田 五つの根っこには、何があるのでしょうか。

和田 OBCの原点。ぶれない五つとは何かをずっと考え続けながら会社をデザインしてきました。

奥田 よく最初に40年も続く五つのコア・コンピタンスが描けましたね。

和田 ずっとそうですね。基幹業務以外は手を出さなかったし、パートナーとバッティングする直販もしなかった。会計・給与に特化して中堅・中小以外はやりませんでした。プロダクトを開発するSEはいるけど、お客様のところで設計する受託のSEはいません。じっと我慢して焦らず。やりたいことでも、いかにやらないかが重要だと思います。

レイヤー社会で奉行シリーズはどう変わるか

奥田 OSからクラウド、中途から新卒、人が増えて産業が急激に伸びたら教育。上場されたのでもう次がなくなってしまいました。次の世代に何を託しますか。

和田 今は階層社会からレイヤー社会に構造が大きく変わる激動の時代ですから難しいですね。これまで省庁やメーカーのモノづくりなど、垂直統合のヒエラルキーが出来上がっていました。上からの指示系統が確立されていて、担当者は自分の領域以外の仕事をしなくても事業が成り立ちました。AIにも従来の機械学習と深層学習があり、前者は定石がすべてデザインできている階層社会に似ていますが、深層学習は定石のないレイヤーの世界で戦っています。例えるなら、パンを食べるときに、さまざまな生地やトッピング、ジャムを選ぶことができる――何通りもの組み合わせの中からチョイスできるのがレイヤー社会の特徴です。

奥田 なるほど。

和田 奉行シリーズも勘定奉行と給与奉行があり、それぞれの中にいろんな区分がありますが、すべて縦の階層でつながっていました。これまで会計ソフトを販売した後に申告ソフトを勧めていましたが、ある方がこう言ってくるのです。「申告は自分でつくったから、会計だけOBCのソフトでつなげてくれ」と。「いやいや、うちも申告ソフトを出してるんだけど」となりますが、レイヤー社会ではそうはいきません。「うちのも売るけど、OBCさんの会計ソフトも売りますよ。仲良くやりましょうよ」という関係です。

奥田 縦から横への変化ですね。

和田 APIでつなげるだけでどこにでも広がっていくのです。会計、給与、申告、勤怠などを並べると200項目くらいになるでしょうか。すべて横になると、同じ給与でもAPIで連携できるのです。

奥田 会計における細かい分類は何のグループ分けになるんですか。機能ですか。

和田 ファンクション、役割です。縦から横に役割が変わっていくのです。トヨタ自動車が部品メーカーを系列化したけど、これからの部品メーカーは日産にもGMにも部品が売れるようになり、垣根が外れて世界がマーケットになる。OBCも構造そのものをレイヤー型に変えていかなければなりません。

奥田 レイヤー社会に見出しをつけるとしたら、何になるんでしょう。

和田 役割分担社会とかファンクショナル組織でしょうか。組織論では縦を形態、横をファンクショナルで表現します。

奥田 PCの部品もすでにレイヤーですよね。

和田 アプリやソフトウェアも同じです。今度はその動きが部品から産業全体に及んでいくでしょう。AIが機械学習から深層学習に移行している動きと同じです。将棋の世界も一緒ですね。

奥田 レイヤー社会の変化を受け入れるとなると、従前の製品も当然、変化に迫られますよね。

和田 大前提が変わってしまうわけですからね。敵なのか味方なのか、分からなくなる時代への突入です。(つづく)
 

創業時から伴走しているパター

 創業間もないころ銀座で購入したゴルフのパターは、今でも現役で活躍。パターに関してはプロも驚くほどの腕前とか。何度かほかのパターを使ったりしたが、結局、このパターに戻ってくる。後半の対談テーマの柱になる、テクノロジーだけではない大切なことを教えてくれる道具だ。ちなみに、最近のベストスコアは82。ゴルフは健康のためだけでなく、いろんな学びを得るために続けている。原点の継承である。
 

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第248回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

Profile

和田成史

(わだ しげふみ)
 1952年8月30日生まれ。75年3月、立教大学経済学部卒業。76年10月、大原簿記学校会計士課勤務。79年12月同校を退職。80年3月に公認会計士登録、6月に税理士登録。同年12月、オービックビジネスコンサルタント(OBC)を設立、代表取締役社長に就任。