家電量販市場の「新型コロナの一年」を振り返る(下)

 在宅勤務や巣ごもり、おうち時間などに伴う新しい需要が突如として発生したことで家電業界は潤った。しかし、依然として新型コロナの感染拡大が収まらない中、郊外と都市における需要の逆転現象はしばらく続きそうだ。既に都市の家電量販店では一部の店舗で閉店する動きが出始めた。この一年で様変わりした家電量販市場を振り返る。

2021年1月11日に閉店するビックカメラの「池袋東口カメラ館」

郊外店は増収増益、都市部の落ち込みが課題に

 前回紹介したように、新型コロナ禍でも家電業界は好調に推移し、こうした市場の動向は主要家電量販各社の2021年3月期中間決算(20年4~9月累計)の数字にも反映された。ケーズホールディングス(ケーズHD)は売上高4052億円(前年同期比7.5%増)、経常利益340億円(38.6%増)の増収・大幅増益となった。通期予想も売上高7650億円(8.0%増)、経常利益447億円(20.7%増)を見込む。前期に消費増税の駆け込みがあったことを考えると、テレワークや巣ごもりなどの新しい需要がいかに大きなインパクトを与えたかがわかる。
 
ケーズホールディングスとヤマダホールディングスの21年3月期中間決算

 10月1日に会社分割による持ち株会社体制に移行した業界最大手のヤマダホールディングス(ヤマダHD)も売上高8602億円(2.0%増)、経常利益490億円(75.2%増)と好調だった。通期も売上高1兆7190億円(6.7%増)、経常利益810億円(75.8%増)の大幅な増収増益を見込む。

 エディオンは売上高が3826億円(3.6%減)と減収になったものの、経常利益は166億円(39.9%増)と大幅な増益となった。通期では売上高7600億円(3.6%増)、経常利益240億円(79.6%増)の増収増益を予想する。
 
エディオンと上新電機の21年3月期中間決算

 上新電機も売上高2266億円(4.5%増)、経常利益72億円(17.1%増)と増収増益だった。商品別売り上げの中で特に好調だったのはテレビ(15.2%増)、PC(21.7%増)、ゲームや玩具(34.0%増)だ。任天堂のゲーム機Nintendo Switchとソフトの「あつまれ どうぶつの森」セットが大ヒットするなど、やはり家で過ごす時間が増したことでゲーム需要が大きく膨らんだ。

 ノジマはキャリアショップ事業の売り上げが前年同期比23.8%減と大きく落ち込んだが、郊外店の家電需要のおかげで売上高2407億円(10.7%減)にとどめた。販管費の見直しや不採算店舗の閉鎖、構造改革を進めたことで利益は大幅に改善した。

 これまで挙げてきた家電量販企業は、一部に都市型店舗を構えるが、売上高の大半を郊外の店舗で稼いでいる。感染者数は全国への広がりを見せているが、それでもプライベート空間に等しい車で買い物にいく郊外は、電車や地下鉄で買い物に行く都心部より感染リスクは少ない。店舗のフロアや通路も広いことから、郊外店のコロナによる影響は都市部よりも小さく、むしろ昼間の人口が増えた分が、そのまま売り上げの純増や大幅な利益の改善に直結した形といえる。

 一方で苦戦を強いられているのが都市部に店舗を構える家電量販店である。ヨドバシホールディングスは非上場のため業績内容は公表していないが、ビックカメラの20年8月期の連結決算をみると、グループ会社で郊外型のコジマの業績は好調であったものの、トータルでは落ち込んだ。コジマ単体の売上高は2882億円(前期比7.5%増)、経常利益は73億円(同3.0%増)の増収増益だったのに対し、ビックカメラ単体の売上高は4605億円(10.8%減)、経常利益は6億円(94.9%減)と減収減益になった。新型コロナの影響が、グループ内における郊外と都市部の違いで明暗を分けた。
 
ノジマの21年3月期中間決算とビックカメラの20年8月期連結決算

奇しくもカメラ系2社の社長が交代

 ビックカメラは8月27日、社長交代を発表。9月1日付でコジマの会長兼社長だった木村一義氏がビックカメラの社長に就任し、宮嶋宏幸社長は代表権のない取締役副会長に退いた。宮嶋社長が、15年の長期在任や、在任中として初となる2期連続の最終減益になる見通しを受けて退任を申し出たという。

 宮嶋氏は1984年にビックカメラの大学新卒の一期生として入社し、96年に取締役で池袋本店の店長を務めるなど、若いときから幹部に抜擢されてきた。2005年11月に社長に就任。この15年の間には、ソフマップやコジマを子会社化するなど業界再編のキーパーソンとなり、ビックカメラを業界2位の地位に引き上げた立役者であることは言うまでもない。

 またECであるビックカメラ.comの立ち上げや、有楽町店でドラッグ事業を展開したり、ユニクロとのコラボ店「ビックロ ビックカメラ新宿東口店」を開店するなど、新たな取り組みを次々と打ち出してきた。新型コロナでインバウンド需要が消えてしまい、テレワークの普及で都市部の人口流入が減るなど、自らではどうにもコントロールできない不運に遭ったとはいえ、結果責任を取った姿勢は、2期連続の減益どころか2期以上も連続赤字でトップに居座った経営者もある中、いさぎよいといえるだろう。

 奇しくも同じカメラ系家電量販店のライバルとして戦ってきたヨドバシカメラの創業者である藤沢昭和社長も、7月1日付で社長を退き、代表権のある会長に就任。長男で副社長の藤沢和則氏が新社長に就任して経営のバトンをつないだ。

 藤沢昭和会長は、1989年4月に日本で最初ともいわれるバーコードを使った「ポイントカード」システムを開発して発行したことでも知られる。いわば「ポイント還元」の第一人者である。60年の東京・渋谷に創業した藤沢写真商会からはじまり、20年3月期に売上高7046億円、従業員5000人にまで成長させた名経営者として業界内外からも評価されている。

ヤマダデンキの都市攻略の象徴店舗も閉鎖

 話を首都圏の店舗に戻すと、新型コロナの影響で、都市部店舗の撤退が始まっている。ヤマダデンキは10月4日、東京・新宿市場参戦の象徴だったLABI新宿東口館を閉店した。都市型店舗ブランドの「LABI」で閉店するのは、15年5月のLABI水戸に続く2店舗目となる。10年4月にオープンした同店は、翌年7月のアナログ放送停波に向けてテレビの買い替えで沸いた「地デジバブル」需要を取り込む役割を担った。
 
2020年10月4日に閉店したヤマダデンキのLABI新宿東口館

 ヨドバシカメラの本拠地である新宿は、同じカメラ系家電量販店のさくらやに加え、池袋に本社を構えるビックカメラが2000年代に入り、小田急ハルクやビックロ ビックカメラ新宿東口店など出店ラッシュで攻勢を強めるなど、「3カメ」による激戦が繰り広げられた地だ。そこに、郊外店が主力で業界最大手のヤマダ電機(当時)が殴り込んできた象徴的な店舗だった。

 同館のオーロラビジョンが映画やドラマのシーンで「新宿の顔」として定着したかのようにみえたが、10年の時を経て撤退することとなった。閉店の理由について同社は、買収したグループ会社で、お家騒動で世間を騒がせた大塚家具との自社競合を解消するためとしているが、新型コロナの影響も少なからずあったことが推測される。

 なお、大塚家具の買収や社長人事が報道で大きく扱われたのは、お家騒動の興味本位によるワイドショー的な関心からだろう。売上高約1兆6000億円のヤマダHDに対し、大塚家具の売上高は約350億円にすぎない。大塚家具の新宿の店が、LABI新宿東口館とカニバルほどのパワーがあったのかはいささか疑問が残る。そして業界からすれば、ヤマダデンキが売上高1176億円のヒノキヤグループをTOBでグループ化したことのほうが、よほど大きなニュースなのだ。

 さて、ビックカメラも21年1月11日を最終営業日に「池袋東口カメラ館」を閉店することを決断。カメラの専門知識の豊富な販売員を池袋本店に集約することで、サービスの品質を高めるという。木村社長は、コジマの社長時代に3年間で約80店舗を閉店し、筋肉質にしてから魅力的な売り場づくりなど攻めに転じてコジマの再建に尽力した。今回も、新型コロナ以前から不採算だった店舗にメスを入れて、ビックカメラの復活に取り組む。

 現在、新型コロナの第三波が襲う中、収束のメドは見えない。ワクチンが行き渡れば以前の状況に戻るのかどうかもわからない。ただ、来春から山手線などの終電時刻を繰り上げるJR東日本が「人々の働き方や行動様式が元に戻ることはない」との見方を示しているように、新型コロナがもたらした都市部と郊外の逆転現象はしばらく続きそうだ。

 都市部店舗の止血をいかに迅速に行い、EC事業などニューノーマルな生活と相性のよい事業を伸ばしていくかが課題になりそうだ。また、ヨドバシカメラやビックカメラがアウトドアやキャンプ用品の品ぞろえを拡充させたり、ヤマダデンキが住宅やリフォームに力を注いだりしているように、底堅い買い替え需要に支えられている家電販売をベースに、そこからどれだけ新しい事業領域を積み上げることができるかにかかっているといえるだろう。(BCN・細田 立圭志)