家電量販店の「新型コロナの一年」を振り返る(上)

経営戦略

2020/12/29 11:30

 新型コロナは家電量販店市場にも大きな影響をもたらした。ふたを開けてみれば、好調だったのだが、このような状況になることを事前に予想していた家電量販企業があったことは、あまり知られていない。家電量販市場のこの一年を上、下の2回で振り返る。

新型コロナ禍でも業績が好調だったケースホールディングス

空前のPC駆け込み需要から一転

 新型コロナウイルス感染症の対策で家電量販店が最初に影響を受けたのは、安倍晋三首相(当時)が2020年2月27日に発表した全国の小・中・高等学校の臨時休校要請だった。それを受け、各社で営業時間を短縮する動きが広がった。

 家電業界ではそれまで、1月14日のWindows 7のサポート終了に伴う空前のPCの駆け込み需要で沸いていた。全国の主要家電量販店・ネットショップからPOSデータを通じてスマートフォンや4Kテレビなどの販売台数・金額データを毎日収集・集計している「BCNランキング」によると、1月3週のPC(デスクトップとノートの合算)の販売台数は、前年同期比209.1%を記録した。その盛り上がりも一息つき、次の春商戦に向けて対策を練っていた矢先の政府による全国一斉休校の発表だった。
 
PCは1月3週に前年同期比209.1%を記録した

 しかし周知のとおり、事態はその程度では収まらず、第一波の到来で4月7日に緊急事態宣言が発令された。ビックカメラが12店舗(グループ24店舗)で1カ月の休業、ヨドバシカメラが16店舗で一時休業に追い込まれた。家電量販店は休業要請の対象業種ではなかったものの、自ら休業を決断せざるを得ず、全国展開する郊外の家電量販店でも時短営業を余儀なくされた。

コロナの変化を予想した、ケーズデンキの秀逸レポート

 5月の決算発表シーズンに入ったが、営業ができないという、かつて経験したことのない事態に襲われ、家電業界に限らず国内の多くの企業が2021年3月期の業績予想を「合理的な算定が困難なため未定」とした。そうした中、国内企業でいち早く現状の分析と予想を発表したのがケーズホールディングス(ケーズHD)だった。IRレポートには、新型コロナの影響やリスク、会社を取り巻く環境と対応がわかりやすく整理されていた。

 このレポートが秀逸だったのが、不透明な先行きのリスクに触れるとともに、必ずしもマイナス面だけではないことを当初から指摘していたことだ。家電製品は底堅い買い替え需要に支えられており、景気に比較的左右されにくい点や、家電製品が生活必需品であること、また都市部の外出自粛が強まると首都近郊の昼間の人口が増える点などが挙げられていた。

 例えば、夏の暑い部屋でエアコンなしで生活することはかえって危険だし、自粛生活で食品をストックする冷蔵庫のニーズはなくなったりはしない。むしろ、テレワーク需要でノートPCやウェブカメラ、Wi-Fiルータなど新しい需要が発生すると指摘した。確かに外出する機会が減り、理美容などの身だしなみ家電の需要は減るかもしれないが、家にいる時間が長くなることで、調理家電や洗濯機、健康機器のニーズは高まると予想したのだ。繰り返しになるが、このレポートは、各社が今年度の決算予想の算定が困難であるとしていた5月中旬に発表されたものであるところに価値がある。
 
ケーズホールディングスが5月中旬に発表したレポート

白物家電は過去2番目に高い水準

 その後の結果はケーズHDが予想した通り、新型コロナ禍でありながら家電業界は好調に推移した。日本電機工業会(JEMA)が11月中旬に発表した20年度上期の白物家電の国内出荷金額は、1兆3696億円(前年同期比99.2%)の微減となったが、これは19年9月に消費増税の駆け込み需要があった影響によるもの。ふたを開けてみれば、過去10年でもっとも高い出荷金額を記録した19年度上期に次ぐ2番目に高い水準だったのだ。

 例えば、梅雨明けからの猛暑でエアコンの出荷台数は統計が確認できる1972年度上期以降、過去最高の実績をたたき出したし、さらに5、6月から支給が本格化した特別定額給付金が、比較的高額な家電製品の販売を後押しした。

 BCNランキングによるデジタル家電の販売台数データにも、懸念されていたWindows 7サポート終了後の落ち込みは微塵も表れなかった。1月4週(20年1月20~26日)の販売台数を100としたノートPCの指数推移をみると、4月3週には1.5倍となる145.4を記録。緊急事態宣言の期間中に備えたテレワーク需要が突如として新規に勃発し、PCやPC周辺機器が売れた。
 
「BCNランキング」のノートPCの指数データ

 また、特別定額給付金などにより薄型テレビ(液晶と有機ELの合算)は、5月に台数ベースで前年同月比136.0%、金額で同143.0%、6月は台数で140.9%、金額で143.0%となった。9月と10月の乱れは前年の消費増税による影響だが、直近の11月も台数で125.3%、金額で141.5%と、東京五輪が延期になったにもかかわらずテレビの好調ぶりは年間を通じて持続した。
 
「BCNランキング」の薄型テレビのデータ

 このようにデジタル家電も白物家電も好調だった結果は、家電量販各社の21年3月期決算にも大きく反映された。詳細は次回に触れるが、好調だった決算が多かった家電量販企業がある一方で、都市部の多くの店舗を構える企業は苦戦した。新型コロナが同時にもたらした、郊外と都市における需要の逆転現象だ。

 新型コロナにより、それまでの都市部への一極集中が減り、郊外に人もお金も分散する動きがみられるようになった。まさにケーズHDのレポートが指摘していた「郊外の昼間人口の増加」が、半ば強制的に郊外と都市の明暗を分ける形になってしまったのだ(つづく)。(BCN・細田 立圭志)


*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計しているPOSデータベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。