死に体のデジカメ市場を救うのは「小さなカメラ」だ

オピニオン

2019/07/28 19:00

 レンズ交換型カメラが大きく変わるのではと大いに期待した。昨年、ニコンとキヤノンが相次いでフルサイズミラーレス市場に参入したときだ。少し遅れてパナソニックも加わり、話題性も高く大いに盛り上がった。しかし、蓋を開けてみると期待したほどの変化は生まれていない。


 とにかくレンズやボディが大きくて重い。一眼レフからミラーレスに移行することで、せっかく劇的な小型化チャンスを得たにもかかわらず、多少の小型化どまり。

 重さを比較すると一番の売れ筋のソニーα7 IIIが600g台の半ば、ニコンのZもキヤノンのEOS Rも同じような重量。唯一キヤノンのEOS RPが500gを切り健闘している程度で、それでもまだ重い。価格も高い。6月の平均単価は23万円を超え、フルサイズ一眼レフの平均単価を追い抜いてしまっている。

 売り上げも伸びていない。2018年1月の販売台数を100とした指数で、レンズ交換型カメラ全体の動きを見ると、この6月が75.7。うち一番シュリンクしているのがフルサイズ未満の一眼レフだが、フルサイズ以上の一眼レフも5.1から2.0に縮小している。

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 一方、フルサイズミラーレスは増えてはいるが、爆発的に伸びているわけではない。フルサイズの一眼レフとミラーレスを合わせた値は7.0から7.1にほんのわずか伸びただけ。フルサイズのカメラが一気に伸びるかと思われたが、ほぼ行って来いの状況だ。

 構成比こそ1割を超えたが、それは市場全体が縮小しているだけのこと。このままでは単なる打ち上げ花火に終わりかねない。数十万円もする重くて大きなカメラを受け入れる人は、ある一定の層に限られるからだ。

 
世界最小のフルサイズミラーレスカメラ「SIGMA fp」

 この閉塞状況に一石を投じたのがシグマだ。7月11日に発表した「SIGMA fp」には驚いた。パスポートより小さなサイズで370g。他社が重厚長大なカメラのレガシーを引きずる中、それをあざ笑うようにあっさりとした「小さい」というコンセプト。

 カメラというより映像・画像ユニットというたたずまいだ。ライカやパナソニックと共同開発したLマウント搭載のカメラで、当然ライカやパナソニックのLマウントレンズが使えるのもポイントが高い。

 既存市場のどのカメラにも当てはまらないシグマらしい、とんがった個性が爆発している。まだ価格も発売時期も不明だが、fpは新たなカメラの流れを決めるだけの十分な可能性を秘めている。

 アプローチは全く異なるが、キヤノンの新感覚コンパクトカメラ「IVY REC」も、スマートフォン(スマホ)も含めたこれからのカメラのあり方に影響を与えそうな新機軸だ。日本での発売は未定だが、春の見本市CP+で参考出品していたものだ。

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 米クラウドファンディングサイトのINDIEGOGOで米国内向けの発送限定で出資を募ったところ、すぐに限定520件の出資を集めた。デジカメにつきもののモニターがなく、カラビナ型の枠を覗いて気軽にパシャパシャと撮る。安くて手軽なカメラだ。

 防水で耐衝撃性を備え、スマホで撮るのをちゅうちょするような雨の場面や、ふとした日常のスナップ撮影に最高の機動力を発揮しそうだ。100ドル前後と価格も安い。このカメラも「小さい」ことがコンセプトの一つになっている。

 
米クラウドファンディングサイトのINDIEGOGOでテストマーケティングを展開しているキヤノンの
「IVY REC」。予定の520台はすぐにSOLD OUTに

 fpもIVY RECも共通項は「スマホではできないこと」の追求だ。それを小さな形に詰め込んだ。fpはスマホでは得られない圧倒的な高画質を小さなボディに凝縮。同時にスマホと違和感なく使い分けられることも目指しているようだ。IVY RECはスマホを使わなくてもきれいな写真を気軽に撮れることにポイントがある。

 いずれも従来の「コンパクトカメラ」とは一線を画す「コンパクトなカメラ」だ。縮小が続き危機的ともいえるカメラ市場を救うのは、こうした新しいコンセプトの「コンパクト『な』カメラ」に違いない。(BCN・道越一郎)