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好評だった「docomo with」を潰した総務省が通信料金高騰を引き起こす

オピニオン

2019/06/20 19:35

 今年5月に閣議決定した「改正電気通信事業法」の施行に向け、具体的なルールについて検討する会合が始まった。6月18日に総務省が開催した「モバイル市場の競争環境に関する研究会(第15回)/ICTサービス安心・安全研究会 消費者保護ルールの検証に関するWG(第13回)合同会合」の配布資料をもとに、新ルールの問題点と、新ルールの適用徹底化が引き起こす「通信料金高騰」の可能性を論じる。

制度整備の基本的考え方
(総務省「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)」より)

検討会は、5月に起きた「駆け込み」を真摯に受け止めるべき

 電気通信事業法の一部改正に伴い、「端末購入を条件とする通信料金の割引」に当たると総務省に名指しされ、格安SIM対抗を目指したドコモの料金プラン「docomo with」は2019年5月31日をもって新規受付を終了した。

 家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、今年5月におけるスマートフォン(スマホ)の販売動向は、「docomo with終了駆け込み需要」としかいいようのないキャリア別シェア、ランキング順位の変動があった(詳しくはこちら→https://www.bcnretail.com/market/detail/20190608_123347.html)。分割払いする端末代を割り引くのではなく、通信料金そのものを大幅に割り引くdocomo with回線の“お得さ”は、家族または1人で複数のドコモ回線を利用している場合にインパクトは大きく、受付終了が契約に拍車をかけたようだ。

今後は「解約違約金1000円」「端末代の割引上限2万円」がほぼ決定

 docomo withに乗り換えなかったドコモユーザー、他キャリアのユーザーは、これから初めて真剣にスマホの通信料金を下げたいと思ったとき、「ケータイからスマホに初めて移行する」「家族3人以上で同じキャリアを利用する」「スマホと固定回線(FTTH)を同じキャリア系列で揃える」といった条件を満たさない限り、決して今より料金が下がらないと気付くかもしれない。新旧料金プランのシミュレーション結果は、「家族3人以上」という条件付きの比較となっている。1回線では、残念ながら、そこまで安くならない。

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 総務省がまとめた「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)」によると、端末代金の値引きについて「通信契約の継続を条件とするものは一律禁止」とし、通信契約を伴わない値引きについても、「2年を目途に事実上根絶することとし、(経過措置として)当面、端末の値引き額の上限は税抜2万円」と定められた。
 
通信料金と端末代金の完全分離に関する措置
(総務省「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)」より)

 また、長期間に渡る契約/違約金などが高い契約/期間拘束なしの契約との料金の差額が大きい契約/利用者の意思に反した自動更新など、ユーザーからの不満が多い、さまざまな「縛り」は、全て「禁止」とする。これらの新ルールをもって、MVNOを含め、異なるキャリアへの乗り換えを活発にさせ、通信市場と端末市場の競争のさらなる促進を図るとしている。

 下取りによる割引も、端末代の値引きに相当する「利益の提供」に該当し、新ルールでは、上限2万円までに制限される。ドコモの「スマホおかえしプログラム」は、端末の返却などを条件に、端末代の36回の分割支払金の3分の1(12回分)がチャラになるお得な購入プログラムだが、一部のAndroidスマホでは、「利益の提供」の上限2万円に抵触しそうだと気になった。
 

 このほか、他キャリアへの乗り換えを阻む要因となっている、契約期間の拘束の是正に関する措置として、「契約期間の上限は2年間」「違約金の額の上限は税抜き1000円」「期間拘束の有無による料金差の上限は1カ月あたり税抜き170円」といった、細かいところまで見直され、それぞれ上限が定められる見通し。これまで浸透していた、「縛り」があるからこその長期継続契約者優遇が180度覆された感もある。
 
行き過ぎた期間拘束の是正に関する措置
(総務省「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)」より)

 もし、2年契約の契約解除料が現行の税別9500円から1000円に、大幅に引き下げられるなら、暇なときにスマホ本体を購入し、新たな回線を契約して、すぐに回線契約は解約して端末をフリマアプリ・インターネットオークションで販売するといった個人の転売がますます増える可能性がある。

 今年6月14日に「チケット不正転売禁止法」が施行され、一定の条件の満たすチケットに限り、不正転売が禁止されたが、スマホも同様に規制すると、国が目指す中古スマホ市場の拡大が実現しないため、そのまま反復継続の意思をもって行う転売を容認することになり、通信事業者は短期解約による損失分を通信料金に転嫁すると予想される。
 
もともとの狙い「通信料金引き下げ」は、
子育て世代を中心とした、家計の負担軽減策だった

 昨年11月の「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言(案)」を端に発した一連の見直しは、長期的にはむしろ通信料金の高騰を招くのではないだろうか。一体、何のための見直しかと、溜息しか出ない。(BCN・嵯峨野 芙美)


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