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再び炎上した「通信の最適化」問題、必要なのは説明と選択肢

オピニオン

2018/05/13 12:00

【日高彰の業界を斬る・12】 ゴールデンウイーク前後、格安SIMユーザーの間で議論となったキーワードが“通信の最適化”だった。ケイ・オプティコムがMVNOとして提供するモバイル通信サービス「mineo(マイネオ)」で、画像等の品質を落としてデータ転送量を削減する処理が4月から行われていたが、これが契約者への事前の通知なく導入されたことから、ユーザーの反発を招いたのだ。

5月7日、mineoのスタッフブログに掲載された「お詫び」

 “通信の最適化”と称してデータを削減する処理は、同社に限らず複数の通信事業者が実施しているが、法的には危うい取り組みでないかという指摘がある。画像や動画等のコンテンツの品質を落としてデータ量を削減するには、通信事業者がユーザーの通信に介入し、通信内容を変更するする必要があるが、これは電気通信事業法上、事業者に課せられた「通信の秘密」を侵すことになりかねないからだ。

 通信事業者は、通信の最適化を行う旨をサービス約款に記載しており、これは「正当業務行為」にあたるため通信の秘密を侵害するものではないとしている。正当業務行為とは、形式的には犯罪となる行為のうち、業務として正当と認められるため違法性がないとされるもの。例えば、刃物で人を傷付けたら通常は傷害の罪にあたるが、医師が手術のため患者の身体にメスを入れるのは業務において避けられない行為であるため、犯罪が成立することはない。

 しかし、トラフィックに見合ったネットワーク設備をもってサービスを提供するのが本来の通信事業者の姿であり、通信の最適化の実施が常態化しているとすれば、それはもはや、どうしても避けられない正当業務行為とは言えないのではないか。

 このような指摘があることを想定してか、NTTドコモとKDDIでは、希望するユーザーは申請により通信の最適化を解除することができる。MVNOでも、BIGLOBEは接続の設定(APN)を変更することで、通信の最適化が行われないネットワークを利用できるようになっている。過去に最適化の導入で“炎上”したソフトバンクは、現在は実施していない。

安易な最適化の前にやるべきことがある

 法的な原則論を横においても、スマートフォンのブラウザ画面に表示された画像が、本来意図された品質かどうかをユーザー側で確認できないことは、不便さや、ある種の不快感を伴う。

 mineoはこれまでユーザーミーティングなどで積極的な情報発信を行ってきた。ユーザーファーストのイメージが強い事業者だけに、アナウンスなしで通信の最適化が導入されていた事実が明るみになったことは「契約者に黙ってコンテンツを劣化させていた」という失望につながったようだ。それだけmineoへの期待が高かったことの裏返しでもある。
 
MMD研究所が3月に発表した格安SIMの満足度調査で、mineoは1位だった

 格安SIM市場の競争が激化し、各社とも厳しい事業運営を強いられている中、通信の最適化によって、なんとかネットワークの運用効率を上げたいという事業者の考えは理解できなくもない。しかし、そうだとしても、ユーザーから最適化の実施に関して個別的な同意を得ることが必要なのではないか。

 ユーザーが気付かないところで、いつの間にか通信を“最適化”することは、今後も炎上の火種になりかねない。法的議論は今後も継続すると考えられるが、それ以前に事業者側でも、「契約者の意思で最適化の有効/無効を変更できる」「最適化の対象となるコンテンツや時間帯が明記されている」「今、最適化が行われているのかを会員ページなどで確認できる」「最適化のありなしでサービス体系を分離する」といった工夫は導入できるのではないか。

 今回の騒動を受けて、mineoでは「ユーザーからの要望に応じて通信の最適化の解除を行う仕組みについては、技術的な検討を行っている」(ケイ・オプティコム広報)という。ユーザーに十分な選択肢が与えられることを期待したい。(BCN・日高 彰)