ソニーの「エレクトロニクス」の復活は本物か

経営戦略

2018/02/05 12:50

 1997年度以来、20年ぶりの最高益を見通せるまでに復活したソニー。課題だったエレクトロニクス事業の復活は本物か。


 昨年6月に本格参入したソニーの4K有機ELテレビ「A1」シリーズの販売現場での評判は上々だ。「定番商品に指定して販売に注力している」という家電量販本部の声や、「クリアな高音の聴きとりやすさは比較展示でもわかりやすく、40歳以上のお客さまが購入していく」という関西の家電量販店店長の声などが聞かれる。同じ店長から聞いた面白い反応としては「スピーカーのネットが表に出てないので、女性のお客さまが掃除のしやすさで満足している」というのもある。

 スピーカーとして扱いが難しいガラス素材の有機ELディスプレーを振動させて、画面から音を出す「アコースティック サーフェス」技術が、ユーザー評価に直結している。実は差異化技術は、16年2月に発売したランタンのように光るグラスサウンドスピーカー「LSPX-S1」で培われたノウハウが生かされている。
 

グラスサウンドスピーカー「LSPX-S1」


  全国の主要家電量販店・ネットショップの実売データを集計した「BCNランキング」の販売台数シェアの推移からも、ソニーの有機ELテレビの好調さが読み取れる。6月の発売開始すぐに、それまで1位だったLGエレクトロニクスを抜き、50%を超すシェアトップに躍り出た。その後、パナソニックが11月に単独首位に立つが、12月にソニーが再び首位を奪還。1月から12月の年間販売台数シェアでNo.1の座を仕留めた。18年1月の直近でも38.1%で首位だ。

 2月2日の社長交代会見で平井一夫社長兼CEOは「最大の課題だったコンシューマエレクトロニクス事業が安定した収益をあげられる事業構造に転換できたことは感慨深い。創業のDNAである、規模を追わず違いを追う姿勢をブレずに取り組んでこれた」とソニーのエレキの復活を印象付けた。
 

平井一夫社長兼CEOは、ソニーのエレキの復活を印象付けた

 ただ、有機ELテレビは立ち上がったばかりの市場で、テレビ全体に占める構成比は2%程度。普及に向けた戦いは始まったばかりだ。また、18年3月期通期のエレクトロニクス事業の見通しは売上高1兆2000億円に対して、営業利益は800億円。売上高営業利益率は6.6%で、ゲームの9.3%やデジタルカメラの11.1%、半導体の18.2%など、ほかの事業に比べて低い。

 もっとも、シャープが台湾の鴻海精密工業に買収されたり、東芝のテレビ事業が中国のハイセンスに譲渡されたりするなど、他社がテレビ事業の赤字からの脱却を海外企業に求めたのに対し、ソニーは自前で収益をあげられる体質に戻したことを踏まえれば、営業利益率の低さの指摘は少し厳しいのかもしれない。

 だが4K液晶テレビでは、流通のプライベートブランドによる「格安4Kテレビ」の登場で、早くもコモディティ化に向けた価格下落の圧力がかかっている。「A1」シリーズのような高付加価値による差異化技術で価格を維持できるかが、ソニーのエレクトロニクス事業の本当の復活のバロメーターになるだろう。(BCN・細田 立圭志)