• ホーム
  • トレンド
  • <2018年どうなる家電量販店・上>「エディオン蔦屋家電」が示す「コト消費」の浸透

<2018年どうなる家電量販店・上>「エディオン蔦屋家電」が示す「コト消費」の浸透

オピニオン

2017/12/27 15:00

 3回に分け、2017年の家電量販店の動向を振り返りつつ、18年の家電流通について占っていきたい。まずは、今春、広島駅南口にオープンした「エディオン蔦屋家電」が象徴した「コト消費」の浸透についてだ。


エディオンとカルチュア・コンビニエンス・クラブのノウハウを融合した「エディオン蔦屋家電」

 17年の家電流通を振り返ると、少子高齢化やインターネット通販の台頭で、店舗そのものの存在意義があらためて問い直された1年だった。家電量販店がこれまで得意としてきた、仕入れボリュームのスケールメリットを生かした安売りのビジネスモデルは通用しなくなりつつある。低価格を売りにした「モノ売り」だけでは、リアル店舗の集客が難しい。

 そこで、体験や体感をきっかけに顧客の来店を促す「コト消費」が叫ばれている。4月14日にオープンした「エディオン蔦屋家電」は、家電と書籍の展示販売を融合した「コト消費」を軸にして、従来型の家電量販店の売り場とは異なるコンセプトの店として注目を集めた。「蔦屋書店」や「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との協業で開発した新形態の店舗だ。

 両社はもともと、CCCが15年5月に東京・世田谷でオープンした「二子玉川 蔦屋家電」を企画した際、家電流通に精通していなかったCCCが、家電製品の展示・販売を含めてエディオンに協力を求めたことから関係が築かれた。

 エディオンの久保允誉会長兼社長は店舗コンセプトについて「これまで小売業は坪あたりの売上高など、いかにコスト効率を高めるかを追い求めてきたが、この店の考え方はむしろ『効率よりも非効率』。“目的買い”ではなく、お客さまがこの店自体に魅力を感じて足を運びたくなるような、心地よく過ごせる空間づくりに力を入れた」と説明した。
 

エディオンの久保允誉会長兼社長

 チラシを大量にまいて特売商品を前面にアピールするのではなく、店内で時間を過ごすこと自体を目的とする。例えば通常は、坪あたりの効率を優先するために冷蔵庫は隙間なく並べて、扉に所狭しとPOPを飾る。しかし「エディオン蔦屋家電」では冷蔵庫の鏡面デザインやキッチンのインテリアとの調和をチェックしたり、堪能してもらうことを優先するため、扉にPOPは貼らない。冷蔵庫の間にあえて空間を設けることで、1台の存在を引き立てながらじっくりと吟味できるようにしている。
 

冷蔵庫の扉にPOPを貼らず、デザインを吟味する

 坪効率を求めずに余裕あるレイアウトの売り場を顧客が回遊する時間を増やす。コーナーのテーマに沿った本や雑誌を豊富に並べて閲覧できるなど居心地のいい空間を演出することで、顧客の来店頻度が高まり、結果的に固定客になることを目指す。だが、単に顧客の店舗での滞在時間を長くすることだけが「コト消費」の狙いではない。

 「二子玉川 蔦屋家電」の企画から運営に携わったCCCの武井総司家電企画事業部部長はBCNのインタビューに「本や雑誌には趣味や嗜好が表れやすく、海外の生活風景を見ながら『こんな家電があればいいな』といった情報を得る。日本にないと思ったときに、蔦屋家電に行けばある」と、店舗コンセプトの本質を解説する。つまり、本や雑誌のコンテンツそのものがライフスタイルのサンプルとなり、それを提示しながら、家電製品の購入に結びつけるのだ。

 書籍や雑誌コーナーを並列で展示する売り場の現場ではよく、「売り場を編集する」という言葉が使われる。まさに本や雑誌づくりのように、特集や核となるテーマを設定し、そのコンセプトに合致する商品を編集しながら展示するというわけだ。店側が売りたい商品を顧客の目線の高さのゴールデンゾーンに並べるという、効率を追求した従来のチェーンストア理論にもとづく売り場とは異なる。売り場やコーナーが醸し出すテーマ設定こそが重要になる。
 

「美容・健康」というテーマで雑誌や本と一緒に家電製品を「編集」する「エディオン蔦屋家電」の売り場づくり

 また、6373万人(7月末時点)のTポイント会員のビッグデータを活用して、嗜好や購入パターン、ライフスタイルを売り場に反映できる強みもあわせもつ。エディオンの会員カードに、Tポイント会員の情報が加わることで、家電量販店だけではなくコンビニや飲食店、ソフトレンタルなど、顧客の異業種での購買パターンや嗜好、趣味などが把握できる。個人を特定できないが、ビッグデータの分析結果を反映した売り場づくりができる点はエディオンにとっても大きな魅力だろう。

 ただ、こうした「コト消費」の売り場は、従来店舗のオペレーションの変更を余儀なくされるため、現場レベルの判断では導入できず、経営トップの決断が欠かせない。また、一時的に販売効率が落ちるため売上高が下がったり、それに伴う従業員の評価基準も変わるなど、効果が表れるまでの「辛抱」も必要になってくる。18年はまさに、家電量販店でも導入が進んだ「コト消費」の効果が問われる年になるだろう。(BCN・細田 立圭志)