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目指すのは専門店の深化、ドスパラ西尾社長が語る既存顧客の囲い込み戦略

インタビュー

2017/05/26 15:00

 VRを中心にゲーミング関連のトピックが目白押しだった2016年。17年もブームは継続しているが、どこまで需要が膨らむのか、期待と不安が入り混じる見方をする小売店は少なくない。先行きを知るために、業界関係者が注視するのがPC専門店ドスパラの動向だ。分社以降、「物」ではなく「人」にフォーカスしたと西尾伸雄社長は語る。専門店として果たすべき役割はどのように変化しているのか――。

取材・文/大蔵 大輔、写真/大星 直輝


西尾伸雄社長

■既存顧客が楽しむ場を提供 目指すのは専門店の“深化”

物売りだけじゃない パワーユーザーの需要を深堀り

―― ドスパラ分社化、そして社長就任から今年で5年目になります。どのようなことを意識して舵取りをしてきたのですか。

西尾 現在の持株会社であるサードウェーブは、もともと製造・小売り・システム開発部門が統合されていました。分社は各部署で意思決定を早くするためです。ドスパラとして小売りに特化することで、PCを売るだけでなく、お客様がやりたいことにまで深く掘り下げて、サービスや情報提供の場を用意できるようになりました。現場も近いです。決裁権をもっている幹部がフロントのスタッフと接点をもつ機会も増えたので、モチベーション向上にもつながっているように思います。

―― 17年上半期は「Windows Vista」サポート終了の影響もあり、PC市場が持ち直していますが、一時的な回復との見方もあります。危機感はありますか。
西尾 危機感は特にありません。「PCがこの世からなくなる」と言われていた時期もありましたが、もうそれから随分経ちます。情報収集の手段としてPCを利用していたユーザーはモバイルにシフトしているかもしれませんが、コンテンツを制作するユーザーは依然としてPCを必要としています。

―― 専門店としてどのように差異化を図っていますか。

西尾 パワーユーザーの求めるニーズを確実に提供することにこだわっています。16年からVRデバイスの販売を開始しましたが、発売前にはバックオフィスを含めて全従業員に体験させました。お客様と直に接するフロントはもちろん、フロントとコミュニケーションをとるバックオフィスのスタッフも共通見解をもっていなくてはいけないからです。幸いドスパラには新しいモノ好きのスタッフが多いので、お客様にいかにVRの魅力を伝えるか日々活発に議論しています。

体験の場が広がるVR 普及のポイントは?

―― 16年はゲーミングが大きな注目を集めました。今後、市場はどのように変化していくのでしょうか。

西尾 市場が徐々に盛り上がってきているという手応えはあります。店頭でお客様と会話していても「e-Sports」という単語をよく耳にするようになりました。また、国内でゲーミングの大会が開催される頻度が増えています。

 22年にはアジア競技大会で「e-Sports」が正式種目に採用されるので、それに向けてますます活性化していくはずです。ユーザーが楽しめる機会が増えていけば、ますます層は厚くなるでしょう。ドスパラとしても大会を主催したりサポートしたり、お客様が楽しむ場をより多く提供したいと考えています。
 

ゲーミング市場の成長を肌で実感しているという。ユーザーが楽しめる場の提供でさらなる拡大を狙う

―― 昨年はVR元年でもありました。

西尾 ドスパラでは「VRパラダイス」というVR体験コーナーを全国22店舗で展開していますが、イオンやTSUTAYAなど、より一般の方が集まる場所でも体験できる場は増えています。VRに対する期待は幅広い層に拡大しており、ゲームだけでなく「Google Earth」を活用した旅行体験のような新しい楽しみ方も登場してきました。ゆくゆくはスポーツ観戦などにも波及していくことが期待されています。

―― スマートフォンを活用したライトなVR体験も普及のポイントになってくるのでしょうか。

西尾 それはなかなか難しいと思います。弊社でも簡易的なVRデバイスを販売していますが、繰り返し何度も使用したくなる類のアイテムではありません。どっぷりとハマるにはやはり本格的かつ高価なVRデバイスが必要で、一般の方にはまだまだハードルが高い。ですから、所有を促すのではなく、先ほど述べたような商業施設での体験を通じて楽しんでいただく、という方向性が合っていると考えています。

 一方、われわれのお客様であるパワーユーザーでは事情が異なり、「使いこなしたい」「楽しみたい」という要望が強いので、所有を前提にした深い知識をお伝えできるよう努力しています。

 現在、注目しているのは、VR周辺デバイスです。規格が合えば既存のデバイスであってもVRトラッカーになりえます。まだ市場には出回っていませんが、種類が増えれば、それだけ用途がディープになっていきます。PCゲームのためのさまざまなゲーミングデバイスがあるように、VRのためのデバイスが増えれば、市場拡大の後押しになるはずです。


・<会員制度がハブ オムニチャネル戦略は?>に続く

 
■プロフィール

西尾伸雄(にしお のぶお)
1981年生まれ。日本工学院専門学校卒業後、2002年サードウェーブ入社。ドスパラ店長、店舗SVを歴任。2012年、分社化により株式会社ドスパラ設立。同年8月DLS事業課課長、2014年同部次長就任。2014年11月ドスパラ代表取締役社長就任(現任)

・【動画】トップに聞く『会社の夢』― ドスパラの西尾伸雄社長
 
 
◇取材を終えて

 ドスパラ秋葉原本店の「VRパラダイス」で「HTC Vive」を体験した。非会員は10分、モバイル会員は30分、じっくり没頭できる。「ひとまず体験ではなく、購入前に吟味するユーザーが多い」とのことで、専任スタッフが導入に必要な機材や注意点まで細かに教えてくれた。レクチャー終了後、VRから派生して注目ソフトやデジタルトレンドの話題で意気投合。販売員と顧客の関係がいつの間にやら、同志的関係に。ドスパラが描くストーリーにまんまとハマっていた。

※『BCN RETAIL REVIEW』2017年6月号から転載