ニコンの動画がついに動く。新たに立ち上げたシネマカメラシリーズ「Z CINEMA」の初号機「ニコン ZR」を間もなくリリースする。9月10日に発表した。発売は10月24日。フルサイズセンサーを搭載する新製品は「RED・音・価格」と3つの大きな特徴を備える。
ニコン初のシネマカメラ「ニコン ZR」。
「Z CINEMA」シリーズの初号機だ。
レンズは、キットレンズの「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」
同社は昨年4月、業務用シネマカメラで定評のある、米・REDを買収、傘下に収めた。ZRはそのREDの名を冠した初のダブルネーム機。RはREDのRだ。ようやくREDとのシナジー効果が発揮される時が来た、といえるだろう。音にも大きな特徴がある。レンズ交換型カメラとして、本体のみでの「32bit float録音」に世界で初めて対応した。これにより音割れが生じにくくなった。そして価格だ。ニコンダイレクト価格(税込み、以下同)は、ボディーのみで29万9200円。「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」とのレンズキット価格が37万4000円。本格的なシネマカメラとしては破格の値付けだ。
モニター裏には、NikonとREDのロゴが並ぶ
REDの名を冠したシネマシリーズの第一弾、ZR。REDのRAW動画収録コーデック「R3D」をベースにした「R3D NE」を搭載する。6K 59.94p、4K 119.88pの12bit RAWでの内部収録が可能だ。両コーデックの違いは、R3Dがビット深度が16bitであるのに対し、R3D NEが12bitであることぐらい。RED機と同じ「ガンマ」「ガマット」で映像制作ができる。色域もRED機に準じており、柔軟なカラーグレーディングが可能。RED機で撮影した素材とZRで撮影した素材を混在させても、映像の一貫性を保ちやすい。一般ユーザーでも手の届く価格ながら、高価なREDの世界を堪能できる、というわけだ。ただR3D NEは、今のところREDの純正ソフト「RED Cine X Pro」でしか扱えない。現在、AdobeのPremiere ProとBlackmagic DesignのDaVinci Resolveでも対応すべく調整中だ。
シャッターボタンと同軸にあったニコン独特の電源スイッチは廃止され、
電動ズームレバーに変わった。電源スイッチは本体左のボタンに
音については、何といっても32bit float録音対応だ。いわゆる「音割れしない」収録方式。例えば、24bitなどのビット深度で収録された音源は、収録時に一定の音量を超えてしまうと「音割れ」が生じてしまう。一旦音割れが生じると、収録後にクリアな音質に戻すことはできない。しかし、32bit floatで収録された音源は、突然マイクの近くで巨大な太鼓が鳴り響き、盛大に音割れしてしまっても、収録後にレベルの再調整が可能。クリアな音を取り戻すことができる。失敗の少ない収録方式で、画像や映像のRAWファイルにも似ている。ただし、マイクの入力限界は別にあり、マイクの能力を越えた大きな音は割れてしまうため、過信は禁物だ。ZRでは、本体内蔵マイク、専用外付けデジタルマイク「ME-D10」、3.5mmマイクジャックからの入力すべてで32bit float収録に対応する。ただ、プロ向けのXLR規格の外付けマイクには今のところ対応していない。今後、XLRジャックの増設アクセサリーなどでの対応に期待したい。
外付けのデジタルショットガンマイク「ME-D10」。
もちろん、32bit float録音にも対応する
そして価格だ。ZRは、REDの要素をふんだんに取り入れ、32bit float収録にも対応する本格的シネマカメラ。それでいて、税込み30万円を切る価格設定は極めて挑戦的だ。フルサイズセンサーを搭載し、ZRのモデルと思しきソニーのシネマライン「FX3」のソニーストア価格は58万1900円。廉価版の「FX2」でも41万6900円だ。30万前後の価格であれば、29万7000円のFX30が相当する。しかしこちらのセンサーサイズはAPS-C。また、シネマラインではないが、32万8900円のVlog向けZV-E1や31万9000円(キヤノンオンラインショップ価格)のキヤノンのフルサイズミラーレス、EOS R6 Mark IIが同様の価格帯に相当する。ちなみに、ZR本体のデザインや全体の雰囲気は、このカテゴリーの先駆者ともいえる、ソニーのFXシリーズを彷彿とさせる。オプションの外付けマイク「ME-D10」も、ソニーの「ECM-B10」にそっくりだ。ニコンとしては、そう評されることは承知の上で、余計なプライドはかなぐり捨て、先人に倣ったということだろう。シネマ市場への並々ならぬ意欲を感じる。
「ME-D10」の接点部。「Z CINEMA」シリーズ向けに新たに開発した
デジタルアクセサリーシューに対応する
ZRのベースモデルは、機能と価格のバランスがいいと評されるZ6 III。モニターサイズを4インチと大型化し、外部モニターなしでもしっかり撮影できるようパワーアップした。ボディーにマグネシウム合金をふんだんに取り入れたことで、ファンレスながら高い熱耐性を実現。4K 60p動画でも、バッテリーが尽きる1時間35分までの連続撮影に耐える。USB給電時には、660GBのメモリーカードが満杯になる、2時間5分までの連続撮影が可能。つまり、ほぼ熱停止しないカメラ、と言える。記録メディアはCFexpressカード(Type B)、XQDカード、microSD系カードが使え、物理的なスロットは2つある。しかし、書き込みスピードなどの制約から、同時記録などのダブルスロット使用はできない。
もちろん、ZRのレンズマウントはニコンZマウントだ
実はニコンは、レンズ交換式デジタル一眼レフカメラに、世界で初めて動画撮影機能を搭載したメーカーでもある。08年発売のD90だ。レンズ交換式デジカメで動画を撮影する流れはここから始まった。ところが、先鞭をつけた初速の勢いを維持することはできず、動画に関しては後手、後手に回っていた感がある。しかし、RED・音・価格の3つの武器を得た今回のZRは、ゲームチェンジャーになれるポテンシャルを、大いに秘めたシネマカメラだといえるだろう。(BCN・道越一郎)
「Z CINEMA」シリーズの初号機だ。
レンズは、キットレンズの「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」
同社は昨年4月、業務用シネマカメラで定評のある、米・REDを買収、傘下に収めた。ZRはそのREDの名を冠した初のダブルネーム機。RはREDのRだ。ようやくREDとのシナジー効果が発揮される時が来た、といえるだろう。音にも大きな特徴がある。レンズ交換型カメラとして、本体のみでの「32bit float録音」に世界で初めて対応した。これにより音割れが生じにくくなった。そして価格だ。ニコンダイレクト価格(税込み、以下同)は、ボディーのみで29万9200円。「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」とのレンズキット価格が37万4000円。本格的なシネマカメラとしては破格の値付けだ。
REDの名を冠したシネマシリーズの第一弾、ZR。REDのRAW動画収録コーデック「R3D」をベースにした「R3D NE」を搭載する。6K 59.94p、4K 119.88pの12bit RAWでの内部収録が可能だ。両コーデックの違いは、R3Dがビット深度が16bitであるのに対し、R3D NEが12bitであることぐらい。RED機と同じ「ガンマ」「ガマット」で映像制作ができる。色域もRED機に準じており、柔軟なカラーグレーディングが可能。RED機で撮影した素材とZRで撮影した素材を混在させても、映像の一貫性を保ちやすい。一般ユーザーでも手の届く価格ながら、高価なREDの世界を堪能できる、というわけだ。ただR3D NEは、今のところREDの純正ソフト「RED Cine X Pro」でしか扱えない。現在、AdobeのPremiere ProとBlackmagic DesignのDaVinci Resolveでも対応すべく調整中だ。
電動ズームレバーに変わった。電源スイッチは本体左のボタンに
音については、何といっても32bit float録音対応だ。いわゆる「音割れしない」収録方式。例えば、24bitなどのビット深度で収録された音源は、収録時に一定の音量を超えてしまうと「音割れ」が生じてしまう。一旦音割れが生じると、収録後にクリアな音質に戻すことはできない。しかし、32bit floatで収録された音源は、突然マイクの近くで巨大な太鼓が鳴り響き、盛大に音割れしてしまっても、収録後にレベルの再調整が可能。クリアな音を取り戻すことができる。失敗の少ない収録方式で、画像や映像のRAWファイルにも似ている。ただし、マイクの入力限界は別にあり、マイクの能力を越えた大きな音は割れてしまうため、過信は禁物だ。ZRでは、本体内蔵マイク、専用外付けデジタルマイク「ME-D10」、3.5mmマイクジャックからの入力すべてで32bit float収録に対応する。ただ、プロ向けのXLR規格の外付けマイクには今のところ対応していない。今後、XLRジャックの増設アクセサリーなどでの対応に期待したい。
もちろん、32bit float録音にも対応する
そして価格だ。ZRは、REDの要素をふんだんに取り入れ、32bit float収録にも対応する本格的シネマカメラ。それでいて、税込み30万円を切る価格設定は極めて挑戦的だ。フルサイズセンサーを搭載し、ZRのモデルと思しきソニーのシネマライン「FX3」のソニーストア価格は58万1900円。廉価版の「FX2」でも41万6900円だ。30万前後の価格であれば、29万7000円のFX30が相当する。しかしこちらのセンサーサイズはAPS-C。また、シネマラインではないが、32万8900円のVlog向けZV-E1や31万9000円(キヤノンオンラインショップ価格)のキヤノンのフルサイズミラーレス、EOS R6 Mark IIが同様の価格帯に相当する。ちなみに、ZR本体のデザインや全体の雰囲気は、このカテゴリーの先駆者ともいえる、ソニーのFXシリーズを彷彿とさせる。オプションの外付けマイク「ME-D10」も、ソニーの「ECM-B10」にそっくりだ。ニコンとしては、そう評されることは承知の上で、余計なプライドはかなぐり捨て、先人に倣ったということだろう。シネマ市場への並々ならぬ意欲を感じる。
デジタルアクセサリーシューに対応する
ZRのベースモデルは、機能と価格のバランスがいいと評されるZ6 III。モニターサイズを4インチと大型化し、外部モニターなしでもしっかり撮影できるようパワーアップした。ボディーにマグネシウム合金をふんだんに取り入れたことで、ファンレスながら高い熱耐性を実現。4K 60p動画でも、バッテリーが尽きる1時間35分までの連続撮影に耐える。USB給電時には、660GBのメモリーカードが満杯になる、2時間5分までの連続撮影が可能。つまり、ほぼ熱停止しないカメラ、と言える。記録メディアはCFexpressカード(Type B)、XQDカード、microSD系カードが使え、物理的なスロットは2つある。しかし、書き込みスピードなどの制約から、同時記録などのダブルスロット使用はできない。
実はニコンは、レンズ交換式デジタル一眼レフカメラに、世界で初めて動画撮影機能を搭載したメーカーでもある。08年発売のD90だ。レンズ交換式デジカメで動画を撮影する流れはここから始まった。ところが、先鞭をつけた初速の勢いを維持することはできず、動画に関しては後手、後手に回っていた感がある。しかし、RED・音・価格の3つの武器を得た今回のZRは、ゲームチェンジャーになれるポテンシャルを、大いに秘めたシネマカメラだといえるだろう。(BCN・道越一郎)





