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技術者が語る「でかいレンズ」の「ワケ」──CP+2019 パネルディスカッション(前編)

 日本最大のカメラと写真・映像の見本市「CP+2019」が2月28日から4日間、横浜で開催された。初日の2月28日にはCP+の名物企画の一つ、上級エンジニアによるパネルディスカッション「ミラーレス新時代に向けて」が開催された。司会に日本カメラ財団の市川泰憲氏を迎え、オリンパス、キヤノン、シグマ、ソニー、タムロン、ニコン、パナソニック、富士フイルム、リコー(着席順)と、日本の主要カメラ・レンズメーカー9社から技術担当者が勢揃いした。今回は前編として、フルサイズミラーレスカメラ関連5社(キヤノン、ニコン、ソニー、パナソニック、シグマ)の発言内容をまとめた。

EOS Rシステムのレンズに開発リソースを集中、「面白いレンズ」も計画

<キヤノン ICB製品開発センター 海原昇二 所長>

──キヤノンのフルサイズミラーレスの特徴は。
海原 EOS Rシステムは、大口径のマウントとショートバックフォーカスを生かし、新たな映像表現や撮影領域を拡大できるのが特徴。これまで置けないところにレンズを配置できるようになり、設計の自由度が増したことで、新しい映像の世界を開拓していきたい。
──ミラーレス用のRFマウントレンズを一気に10本ラインアップした。一眼レフ用のEFレンズのラインアップを凌駕する勢いで開発が進んでいるようだ。
海原 昨年に4本発売し、今年はさらに6本発売する。現在、開発リソースをRFレンズにシフトしている。EFレンズに並ぶぐらいのラインアップを目指している。さらに、来年以降も、今までと違った面白いレンズも含めて開発を強化していく。
 
キヤノンのEOS Rシステムは昨年発売の4本(上段)に加え、今年6本がラインアップに加わる(下段)

──顔認識や瞳認識のによるAFの現状はどうなっているのか。
海原 顔認識と瞳認識は、画面に占める顔のサイズで切り替えるようにしている。バストアップから寄っていくと瞳認識、引いていくと顔認識になる。被写体認識の開発は進んでいて、今後小さな顔や瞳にも対応してピントが合うようにしたい。動物や乗り物などにも対応すべく開発を進めている。開発側としては、ファームウェアアップだけで進化させるようにしていきたいと考えている。
 
キヤノンのICB製品開発センター 海原昇二 所長

──産業用カメラに使うグローバルシャッター開発のニュースリリースが出ていた。これは今後EOSに載るようになるのか。
海原 EOS Rシステムに搭載するには、高画素数化、高感度化、AFとの両立など越えなければハードルは多い。実際の搭載はもう少し先になりそうだ。グローバルシャッターが搭載されれば、カメラにメカニカルシャッターは要らなくなる。カメラの形態がさらに大きく変わることになるだろう。
──これからのカメラ・レンズづくりについて。
海原 Rシステムの拡充を第一に進めたい。新しい形のカメラやシステムを並行して広めていきたい。

「でかいレンズ」には「ワケ」がある

<ニコン 光学本部 第二開発部 山崎聡 部長>

──ニコンのフルサイズミラーレス用Zマウントは、ソニーやキヤノンに比べて最もマウント径が大きくフランジバックが短い。なぜか。
山崎 新次元の光学性能を目指した。一番後ろのレンズをセンサーに近付けることで、特にワイド側レンズの性能向上に有利。さらにマント径を大きくすることで、センサーに届く光の屈折がより小さくなる。そのため、クリアな画像を得ることができる。
──Zシリーズの記憶媒体で、SDカードをやめてXQDカードだけに絞ったのはなぜか。
山崎 Zシステムは動画にも配慮している。4Kや8Kなど高い解像度と高いフレームレートにも耐えるよう、未来を見据えて選択した。
 
ニコンの目玉は、やはりフルサイズミラーレスZシリーズの展示

──ニコンのフルサイズミラーレスの特徴は。
山崎 新次元の光学性能による描写力の高さ。素直に入ってきた光線に対して素直に画像処理を行い、より良い画質を残していけるのが特徴。
──ミラーレスと言えば、小型軽量というイメージがあるが、レンズが大き過ぎるという声もある。
山崎 従来の一眼レフ用のFマウントとZマウントのレンズを比べると確かに大きい。しかし、例えば35mm F1.8のZマウントレンズでは、従来のレンズを一新させる性能を目指した。フォーカス群が二つ入っていて、それぞれ駆動する。あらゆる距離で有効な光学性能を出せるような新しい設計にチャレンジした結果だ。
──F0.95と、とても明るいレンズを開発中だが、キヤノンやライカがこれまで過去に出してきた。Zマウントの大口径マウントと短いフランジバックがどう画質に生きてくるのか。また、なぜマニュアルフォーカスなのか。
 
F値が0.95と極めて明るい大口径レンズ、NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct。
試せる試作品が展示されていた

山崎 F0.95を達成するため、机上の計算でマウント径は20mm程度あればいい。ただし、これは中心部だけの明るさの話。周辺部でも同じ明るさや解像度を維持したり、きれいなボケを出したり、点を点として表すには、より大きな口径と短いフランジバックが有効。F0.95の性能をしっかり出せるのがZマウントだ。マニュアルフォーカスなのは、被写界深度がとても浅いために手動でもピント合わせがやりやすいということもある。

──ニコンはファームェアのアップグレードで顔・瞳認証が加わるわけだが、なぜ発売当初からアナウンスしなかったのか。
山崎 結果的に最初からアナウンスできなかったことについては謝りたい。現在ファームウェアの調整をしているところだが、瞳認識については、複数の被写体から瞳を選択できるような仕様を検討している。今後も、機能拡充のファームアップを続けていく。
──使ってみるとZの操作体系が従来とずいぶん変わっていて使いにくいと思う部分がある。
山崎 確かにだいぶ変更している。どうボタンを減らすか、背面液晶ではどう操作するか、ボタンの再配置をどうするかなどについて試行錯誤した。深い階層にあってもよく使うメニューについては、カスタマイズして1カ所に集めることができる工夫も施した。ピンチやスワイプといったスマホ的なインターフェイスも採用している。
 
ニコンの光学本部 第二開発部 山崎聡 部長

──とは言え、ニコンに限らず最近のカメラはモードを探すのにとても時間がかかって苦労する。しゃべれば切り替わるようなインターフェイスも検討して欲しい。これからのカメラ・レンズづくりについては。
山崎 ニコンの企業理念は「信頼と創造」。ニコンはフルサイズミラーレスを初めてまだ1年目。チャレンジャーとして、よりよいカメラとサポート体制を構築していきたい。また一眼レフについてもご要望の変化に対応していきたい。

難易度が極めて高い動物の瞳AFにチャレンジする

<ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ デジタルイメージング本部 商品設計第1部門 中島健 副部門長>

──ソニーのフルサイズミラーレスの特徴は。
中島 ソニーが目指すのは「先進」。幸いにも他社より少しだけ早くフルサイズミラーレスを始めたことで、ラインアップは多い。しかし、これで「歴史がある」とは思っていない。絶えず前を見て先に進んで商品を開発していきたい。
──明るいレンズの開発が進んでいるようだが。
 
ソニーの新しい大口径レンズ「FE135mm F1.8 GM」。
背景を大きくぼかすポートレート撮影などで威力を発揮

中島 「できる」ということと「使いやすい形に収められるか」というのは別の問題。先日、135mmのF1.8のGマスターレンズを発表した。ミラーレスにふさわしい動作音や振動などの心地よさも考慮して設計した。フルサイズ用レンズは、これで31本になった。大口径高性能レンズは、すでに400mmF2.8や24mmのF1.4などラインアップを広げている。特に、400mmF2.8はスポーツカメラマンに評価が高い。
──瞳AFを動物でもできるようにするということだが。
中島 人間の顔のと瞳の関係はわかりやすいが、動物はバリエーションがとても広く、瞳の位置を認識する難易度がきわめて高い。これを限られた一瞬の時間で処理しなければならない。認識精度とレスポンスのバランスがとても重要。現在そのチューニングをしているところだ。
 
ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ デジタルイメージング本部 商品設計第1部門
中島健 副部門長

──このタイミングで、APS-Cのα6400を発売した理由は。
中島 この2年ほどフルサイズのラインアップ拡充に注力してきたが、お求めやすい価格設定の製品を増強するために発売した。センサー以外はα9の技術を投入しているので、十分にミラーレスの楽しさを感じてもらえると思う。
──これからのカメラ・レンズづくりについて。
中島 いい写真を撮るには、やはりカメラマンの腕が重要だと感じている。お客様やカメラマンに近付く、クリエータの方に近付くということをキーワードに開発を進めていきたい。

羽を広げた鳥の認識も可能にしたLUMIX Sシリーズ

<パナソニック アプライアンス社 イメージングネットワーク事業部 ソフト設計部 山下正幸 部長>

──ライカ、シグマとともにLマウントアライアンスを立ち上げたが。
山下 Lマウントは、3社のアライアンスによるクローズド規格。既存のLマウントの規格をより良くするために、3社で議論し協力していいものをつくり上げた。
──パナソニックのフルサイズミラーレスの特徴は。
山下 今回、S1R、S1という2モデルを発表した。いずれも、プロの皆さんに仕事や作品づくりで使っていただけるカメラに仕上げたつもりだ。S1Rはプロフォトグラファーの期待に添えるカメラ、S1は写真だけでなく動画撮影も行うハイブリッドクリエーター向けにつくった。
 
LUMIX Sシリーズをひっさげてパナソニックもフルサイズミラーレス市場に参入。
(LUMIX SI)

──マイクロフォーサーズから一気にフルサイズモデルを発売するのはなぜか。マイクロフォーサーズは続けるのか。
山下 プロやハイアマチュアでは、静止画も動画もマイクロフォーサーズを超えた高い表現力が求められていた。そこで、そのご要望に応えた。マイクロフォーサーズにも小型・軽量で機動力が高いという利点があるので、継続していく。
──Lマウントのレンズラインアップはどうか。
山下 お客様にいろんな特徴のあるレンズを使っていただきたい。パナソニックだけではなく、ライカ、シグマとそれぞれ特徴のあるレンズが揃っていて、いろんな使い方が提案できる。できるだけ多くのレンズをそろえていきたい。さらに、ボディと同じようにプロの方にも満足いただけるレンズを増やしていきたい。
──Sシリーズでは画像認識技術が活用されているということだが。
山下 人体検出に関しては、顔・瞳が認識できればそこを優先させる。それができない場合は、後頭部を検出してそこに合わせるアルゴリズムを採用している。動物については、犬、猫、鳥の認識を進めている。特に、鳥は種類が多く、羽の形状が大きく変わるので、苦労したが、S1、S1Rには導入している。
 
パナソニック アプライアンス社 イメージングネットワーク事業部 ソフト設計部
山下正幸 部長

──これからのカメラ・レンズづくりについて。
山下 Sシリーズの普及を目指す。いろんなご意見をうかがいながら、より使いやすく機能の進化を目指して開発していきたい。またマイクロフォーサーズについても、幅広いお客様に使っていただけるよう努力していきたい。

フォビオンセンサーのフルサイズ化に苦戦……でも頑張ります

<シグマ 商品企画部 大曽根康裕 部長>

──シグマは今回のCP+ではボディーの発表はなかった。Lマウントアライアンスの一員として、今後どんな展開になるのか。
大曽根 レンズは着々とラインアップを拡充させつつある。シグマの高級ラインアップアートシリーズがLマウントユーザーと解像の高さを共有できるというのはうれしいことだ。最近では、動画などに特化したものと光学特性に特化したものに分かれてきているが、ベストバランスを取りながら偏りなくラインアップを広げていきたい。マウント交換サービスもあるので、ボディのマウントが変わってもレンズを資産として使い続けることもできる。カメラについては、フルサイズのフォビオンセンサーの開発に苦戦しているが準備を進めている。
 
シグマ 商品企画部 大曽根康裕 部長

──これからのカメラ・レンズづくりについて。
大曽根 一言で言えば「頑張ります」。私が入社したのが1987年。初のオートフォーカスカメラのミノルタα7000が登場から2年後だった。当時はオートフォーカスとマニュアルフォーカスの二つの系統が混在していて、限られた開発リソースを振り分けるのにとても苦労したことを思い出す。今の一眼レフとミラーレスの状況はその頃に似ている。なので「頑張ります」。
 
司会を務めた日本カメラ財団の市川泰憲氏