2026.8.16 17:00

スマホ・PC

AIで花開くゲーミングPC技術――ASUSのジョニー・シー会長自ら率いる「だるまラボ」とは?[道越一郎のカットエッジ]

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 今、最新のプロセッサーや大容量のメモリーを搭載したハイスペックPCを購入したとして、本当にそのパワーは必要だろうか。Webサイトや動画の閲覧、メールのやり取り、表計算ソフトの操作、プレゼンテーション資料の作成、あるいはオンライン会議といった、日常的な軽い作業をするだけなら、処理能力の大部分は眠ったまま。「宝の持ち腐れ」だ。一般的な用途だけなら、いくらPCのハードウェアが進化しても、その恩恵を直接的に体感する機会は少ない。

PCの最高峰と言えば、ゲーミングPCだ。
写真は、台北で発表されたASUSの「ROG EDITION 20 BUILD」。
ROGブランド20周年記念パーツだけで組んだ特製PCだ

 ただし、ゲーマーは別だ。激重でグラフィック豊かな最新のゲームソフトを「ぶん回す」だけの、高いスペックが常に求められる。日常的に動画編集をヘビーに行うようなクリエーターも同じだ。彼らにとって、PCの処理速度は速ければ速いほどいい。メモリーも大きければ大きいほどいい。ゲームにおける反応速度やレンダリングの時間は、ダイレクトに「勝ちと価値」につながる。そうしたニーズに応えるのが、クリエーター用途も含めたゲーミングPCだ。強力なグラフィックス処理ユニットや高速なプロセッサー、そしてそれらが発する膨大な熱を処理するための高度な冷却システム……。高性能PCといえばゲーミングPC一択だ。ただ、こうしたハイスペックマシンを必要とするゲーマーやクリエーターは、PCユーザー全体の中で見ればごくごく一部にとどまっていた。これまでは。

 状況を一変させたのが、AIの「爆発的」な進化だ。個人のPCにも真の「実力」が求められる時代が、再び訪れようとしている。もっとも、ChatGPTやClaude、GeminiといったクラウドベースのAIを利用するだけであれば、これまでのPCでも十分。おつりがくるくらいだ。しかし、AIの利用料、いわゆる「トークンコスト」の増大や、機密性の高いデータを外部サーバーに送信するプライバシー上の懸念から逃れることはできない。そこでローカルAIだ。これらの問題を一切気にせず、QwenやDeepSeek、Llamaといったモデルを使って、自分のPCでAIを使い倒したいとなれば、話は変わってくる。
 
NVIDIAが新たに開発したノートPC向けAI CPU「RTX Spark」
を搭載するASUS「ProArt P16」

 今や、天才のような賢さを誇るクラウドAI。こいつらの力はやっぱり借りたい。そこで、クラウドAIに投げても問題ない課題はそちらに頼り、個人的かつ日常的な用途や繰り返し長時間動かす、というエージェント用途には、ローカルAI、という使い分けが進むだろう。クラウドにいる天才AIと自分のPCにいる普通のAIの組み合わせ、ということになる。ただこの二つのAIの能力差があまりにも大きすぎると、快適にAI環境を享受することはできないだろう。ここでようやく、個人のPCにも強大なパワーが求められるようになるわけだ。これまで一部の専門家やゲーマーだけのものであったハイスペックマシンが、より広範なユーザーに広がっていく。

 賢さと速さを実現するためには、スペック通り実際に動くPCが不可欠だ。ここで生きてくるのが、ゲーミングPCで得た知見と経験、実績。膨大な演算を行うAI処理は、ゲームと同様、あるいはそれ以上にシステムに高い負荷と熱を発生させる。極めて高いパフォーマンスを維持しつつ熱を抑え込み、止まらずに動作させ続けるノウハウは、なかなかに深い。例えばASUSも、その優位性を持つメーカーの一つだ。事実、同社のAI PCは「熱に強く高負荷状態でも落ちない」といわれている。それも長年にわたるゲーミングPC開発の経験があるからに他ならない。
 
ゲーミングブランドROGの20周年イベントでスピーチする
ASUSのジョニー・シー会長

 同社のゲーミングPCブランド「ROG(Republic of Gamers)」は今年で設立20周年を迎えた。6月に台北で開催された記念イベントで、同社のジョニー・シー会長は「20年前、ROGはASUS社内の情熱と信念に突き動かされた一つのプロジェクトとして始まった」と振り返る。「真のゲーマーは、自らの運命に決して妥協しない」と話し、一切の妥協を排して極限のパフォーマンスを追求し続けてきたブランドの姿勢と重ね合わせた。さらに、AIがゲームそのものに命を吹き込むとして「もはや固定されたスクリプトに縛られることはない。PCが自ら思考し学習することで、プレー体験は固定されたストーリーから解放されるだろう」とも話した。

 台北のイベントでは、18インチの4K、240Hz駆動ミニLEDパネルを搭載したノートPC「2026 ROG Strix Scar 18」や容量3リットルの小型筐体にNVIDIA RTX 5090 ラップトップGPUを搭載した「ROG NUC 16 Edition 20」なども公開された。また、容量104リットルの大型筐体で、AMD Ryzen 9 X3DシリーズCPUとROG Matrix GeForce RTX 5090 GPUを搭載し本格水冷システムを備えるデスクトップPC「ROG G1000 Edition 20」もお目見えした。
 
2006年に発売したROGブランド初の製品「ROG CROSSHAIR」。
オーバークロッカー向けに作られたマザーボードだが、
初心者でも扱いやすいよう考慮して設計された

 同社は今年、日本の法人PC市場にも本格参入する。台北のイベントに続いて、東京で6月に開催されたASUS Summit 2026では、法人向けノートPCやエッジAIデバイスに加え、データセンター向けの高性能なAIサーバーを含む包括的な事業戦略を明らかにした。イベントの後、メディア向けに開いた合同インタビューで、シー会長は「AIが『Agentic AI』になったことで、PCは非常に強力な『ヘビークライアント』になりつつある」と話し、今後、PCにさらに大きな役割が求められるようになると話した。ROGブランドの知見を生かし、AI PCをどこまで極めることができるか、お手並み拝見だ。
 
CPU(SoC)に「NVIDIA GB10 Grace Blackwell Superchip」を搭載した
AIスーパーコンピューター「ASUS Ascent GX10」

 AIの進化はPCにとどまらない。シー会長は自ら「現在でも、トップエンジニアたちを集めた『だるまラボ』というチームを率いている。AIをはじめとする最先端の技術開発をリードしている」と語った。論文などを読み込み理論をしっかりと理解したうえで実際の製品としてかたちにすることで、究極のエンジニアリング(Extreme Engineering)を目指すものだ。同社が基礎研究から製品開発までを一貫して進められるのも、こうした専門的な研究開発組織の存在が大きい。このラボでは「ハードウェアやソフトウェアの最適化にとどまらず、PCの枠を超えた次世代のデバイス開発にも取り組んでいる」という。現在注力している分野は「ロボティクスやドローン、そしてスマートグラスといったフィジカルAI」。AIが世界を大きく変えようとする中、ASUSの次の一手から何が生まれるのか。楽しみに待っていよう。(BCN・道越一郎)
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道越 一郎

Ichiro Michikoshi

古屋の手作り万年筆と天秤にかけ、選んだNECの文豪mini5HTでCP/Mを操りCompuServeで遊んでいたのが原点。以来、筋金入りのモバイラーとして活動すること40年。人生の師と仰いだジョアン・ジルベルト亡き後、回転しながら浮遊して生息する。近年は音の人を自称。

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