インドで開眼し、日本はもとよりシンガポール、台湾、中国・上海、米国、スペイン、アイルランドの「光と影」を追い続けているモノクロ写真の鬼才、鈴木龍一郎氏。1970年代と2000年代の作品を集めた9年ぶりの写真展「鈴木龍一郎作品展 寓話/RyUlysses(リュリシーズ)」が東京・千代田区の日本カメラ博物館 JCIIフォトサロンで5月8日、開幕した。6月2日まで開かれる。

今回のために新たにプリントした全46点の作品と、撮影に使用したカメラも展示している

 70年代に国内で撮影した初期作品を集めた写真集「オデッセイ」から選定した作品群「寓話」と、00年代にアイルランドで撮影した写真集「リュリシーズ」より選定した作品を集めた。ロクロクと呼ばれる60×60mmの正方形フォーマットで撮影した「寓話」では、日本のふとした日常を鋭く切り取った作品を展示。24×65mmのパノラマフォーマットで撮影した「リュリシーズ」では、アイルランドの首都・ダブリンで繰り返される過去と現在、生と死の境界を、白と黒が繰り広げる無限のグラデーションで見事に表現している。

 作品は今回のために新たにプリントし直したもので、作品展の後、日本カメラ博物館に収蔵される。オープニングパーティーで挨拶に立った鈴木氏は撮影のエピソードを披露した。写真集「リュリシーズ」をまとめるため、最後にダブリンを訪れた時のこと。最終日の夕方、行方不明の少年を探すポスターを見つけて撮影した。少年の名前はジェイムズ。偶然にも写真集のモチーフになった小説「ユリシーズ」を書いたアイルランドの作家、ジェイムズ・ジョイスと同じ名前だった。鈴木氏は「導かれたのかもしれない。この出来事で写真集の成功を確信した」と語る。
 
作品展のオープニングパーティーで挨拶する鈴木龍一郎氏

 鈴木氏がこれまで発表してきた作品は全てフィルムカメラで撮影したものだが、ようやくデジタルカメラを本格的に使い始めたとも明かした。「馴染むのに、とても時間がかかったが、最近はむしろ自分に合っているかもしれないと思うようになった。考えたり、人と会ったり、食事をしたり、といった生活を全て取り込んで、自分の存在そのものが撮れるという感覚がある」と話す。「リュリシーズ in Tokyo」あるいは「リュリシーズ in Japan」という仮タイトルで撮影を開始したという。カメラをデジタルに持ち替えて、今度はどんな龍一郎ワールドを見せてくれるのか。新作の披露を楽しみに待ちたい。

 写真家・鈴木龍一郎氏は1942年東京生まれ。75年に「聖印度行」で第12回太陽賞を受ける。2008年に写真集「オデッセイ Odyssey」で日本写真協会賞年度賞、10年に写真集「リュリシーズ RyUlysses」で第29回土門拳賞を受けた。14年から17年までは土門拳賞の選考委員も務めた。(BCN・道越一郎)
 
「鈴木龍一郎作品展 寓話/RyUlysses(リュリシーズ)」図録