なぜ参入デジタル一眼? データで探る家電メーカーの思惑

特集

2006/06/22 23:32

 デジタル一眼レフカメラ(デジタル一眼)市場に家電メーカーが相次いで参入している。今月に入りソニーが「α100」、松下電器産業も「LUMIX DMC-L1」を発表。国内のデジタル一眼市場はキヤノンニコンで圧倒的なシェアを占めるが、あえてなぜ参入するのか? 2強に挑むソニー、松下の狙いはどこにあるのか? 「BCNランキング」のデータから探った。

 デジタル一眼レフカメラ(デジタル一眼)市場に家電メーカーが相次いで参入している。今月に入りソニーが「α100」、松下電器産業も「LUMIX DMC-L1」を発表。国内のデジタル一眼市場はキヤノンニコンで圧倒的なシェアを占めるが、あえてなぜ参入するのか? 2強に挑むソニー、松下の狙いはどこにあるのか? 「BCNランキング」のデータから探った。


●飽和点が見えてきたコンパクトデジカメに対し、成長続くデジタル一眼レフ

 デジタルカメラ(デジカメ)は市場は、コンパクトタイプのデジカメ(コンパクトデジカメ)市場とデジタル一眼市場とに大きく二分される。06年5月現在の販売台数比を「BCNランキング」でみると、コンパクトデジカメが95.6%で、デジタル一眼が4.4%。販売台数でみた日本のデジカメ市場は、ほとんどがコンパクトデジカメ、という構造になっている。

 数がはけるコンパクトデジカメだが、その分競争は激しい。参入メーカーが29社と多いうえ、販売台数ランキングもめまぐるしく変動する激戦区だ。一方デジタル一眼では、参入企業はわずか6社。コンパクトデジカメと比べると光学系で高度なノウハウが要求されるものの、製品ライフサイクルは長い。

 また、デジタル一眼市場は成長余地も大きそうだ。コンパクトカメラユーザーのステップアップ需要が見込めるうえ、長年フィルムカメラに親しんできた写真愛好家のデジタル一眼への「移住」も期待できる。

 数字でみてみよう。「BCNランキング」で販売金額の前年同月比推移をみてると一目瞭然。このところ前年割れの月がちらほらみられるコンパクトデジカメを尻目に、デジタル一眼は若干上下にブレながらも、一貫して右肩上がりを続けている。この5月には前年比20%増の伸びを示しており、トレンドはまだ市場拡大の方向に向かっているといえそうだ。


●4.4%の台数で15%の金額を売り上げるデジタル一眼

 デジタル一眼市場の魅力は他にもある。付加価値の高さ、つまり価格の高さだ。販売台数と金額について、デジカメ市場全体に占めるデジタル一眼のシェアを比べてみた。前述したとおり、デジタル一眼がデジカメ市場全体に占める台数の割合は4.4%とまだまだ少ない。しかし、販売金額シェアでは、今年に入って15%にまで伸びてきている。


 平均単価でも見てみよう。5月現在の税別平均単価で双方を比較すると、コンパクトデジカメが3万2000円なのに対し、デジタル一眼は12万5000円。約4倍の開きがある。さらに、「コンパクトデジカメ」では、この1年ほど平均単価の動きがほとんどないのに比べ、「デジタル一眼」は緩やかな上昇傾向を示しており、13万円台に乗せる月も出始めている。そもそもの価格が高いうえに、単価自体も徐々に上がっているとなれば、金額的なインパクトは大きくなってくる。

 つまり、デジタル一眼レフは市場の成長性もさることながら、少ない台数であっても売り上げに貢献する、メーカーにとって“おいしい”商品ともいえる。デジタル一眼は、販売台数規模ではわずかだが、売上ベースでは、決して無視できないボリュームになってきたともいえそうだ。

●デジタル一眼の初心者ユーザー開拓を進めるソニー

 このように、デジタル一眼市場は、新たに参入する企業にとって魅力的な面が多い。しかし、現在の市場構造を見ると必ずしも楽な市場とはいえない。

 現在、国内のデジタル一眼レフ市場は、キヤノンとニコンの2大メーカーが牛耳っている。販売金額シェアの推移でみると、キヤノンは平均で50%以上、ニコンも30%以上のシェアを維持し続けている。直近の5月の数字ではキヤノン58.5%、ニコン32.7%と、この2社だけで実に9割を超えている状況。ソニーと松下は、この市場で戦いを挑むことになるわけだ。しかし、それぞれまったく異なる戦略で立ち向かおうとしている。


 ソニーが7月21日に発売する「α100」はコニカミノルタから受け継いだ「αマウントシステム」を使い、CCDが有効1020万画素の高画質が特徴のデジタル一眼。実勢価格は10万円前後の見込みだ。


 ソニーでは「α100」を入門機と位置付け、初心者やコンパクトデジカメユーザーの買い替え需要を狙う。競合機種は、この分野で圧倒的なシェアを持つキヤノンのEOS Kiss Digital N、さらにニコンのD50、D70、D70sなどの製品。こうした状況下では今後価格競争が激しくなる可能性も高そうだ。

 「α100」の販売を統括するソニーマーケティングの鹿野清・執行役常務は「『α100』は1020万と高画素で他社の普及機(入門機)にない付加価値の高い商品。この高画質機能を前面に出せば価格競争に巻き込まれることはない」と強調する。

 さらに「撮影した写真をHDD-DVDレコーダーに保存し、液晶テレビで見るといった新しい楽しみ方を提案すれば他社との違いを十分に打ち出せる」(鹿野常務)と、ソニーの強みであるAV機器との連携でユーザー獲得を狙う。

●デジタル一眼入門機ユーザーの取り込みを狙う松下

 一方、松下が7月22日に発売するのは「LUMIX DMC-L1」。独ライカカメラと共同開発したレンズを採用し、液晶ディスプレイで撮影する構図を決めることができる「ライブビュー」機能、光学式手ブレ補正機能を搭載する。フィルムを使い分けるようにモードを切り替える機能や絞りリングとシャッターダイアルはユーザーが操作して設定できる機能も備える。


 実勢価格が25万円前後で、ターゲットにするのはハイアマチュア層だ。フィルムの一眼レフカメラユーザーからの乗り換えはもちろん、特に狙っているのはデジタル一眼レフ入門機からの買い替え需要の取り込みだという。

 「現在のデジタル一眼レフカメラを使っている人で不便と感じている人は相当いる。ライブビュー機能はそういった人たちに必ず浸透する。今後の機種にも期待していただきたい」と牛丸俊三・松下電器産業専務役員は自信を見せる。

 新たに2社が参入したことで、デジタル一眼レフ市場の競争が激化するのは必至。コンパクト市場に比べれば穏やかだった一眼レフ市場でも「今日の負けは明日の勝ち、今日の勝ちは明日の負けのオセロゲーム」(牛丸専務)の様相を呈する可能性が出てきた。

*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など18社・約2200の店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。