さらばカメラのメニュー地獄――AIとスマホで劇的な進化へ【道越一郎のカットエッジ】
カメラのメニューが苦痛だ。あの、ずらっと並んだ項目から必要なものを見つけ出すのは至難の業。実際、最近のカメラの設定項目数は1000を超えるものも珍しくない。全てを覚えておくことなど絶対に不可能だ。階層構造になっているので、なおのこと難しい。お目当ての設定がその階層になければ、上の階層に戻ってやり直しだ。直感的でも何でもない。こんな複雑怪奇なメニュー操作をユーザーに強いるデバイスは、今時カメラぐらいしか生き残っていないんじゃないだろうか。どんなに優れた機能が搭載されても、使えなければ意味がない。
デジカメの黎明期からメニュー選択の
基本はほとんど変わっていない
カメラ映像機器工業会(CIPA)の集計によると、この10年、カメラの世界出荷台数は半分以下に縮小した。2016年は2420万台だったが、昨年は940万台だった。ただ、770万台を記録した23年で底を打ち、徐々にではあるが回復基調にある。一方で単価の上昇は激しい。16年の2万9400円から昨年は9万3300円まで、3倍以上に急上昇している。レンズ交換型が増えた、というのが理由の一つだ。出荷台数構成比は16年の48.0%から、昨年は74.2%まで上がってきた。しかし、レンズ交換型に限った単価を見ても、16年の4万4800円から10万4100円と2倍以上に跳ね上がっている。16年を1とする指数にすると、カメラ全体の単価は昨年には3.18、レンズ交換型では2.33まで上昇した。折からの円安を単価上昇の要因とするメーカー関係者も多い。しかし、ドル円相場の指数では、16年から昨年では1.34と3割強の上昇にとどまっている。一昨年までのデータしかないが、平均給与に至っては、1.13と1割強しか上がっていない。
デジタルカメラの世界出荷台数と世界平均単価指数
<全体><レンズ交換式>/ドル円相場指数/日本人の平均給与指数
給与が一向に上がらない中、価格が2倍、3倍に上昇したとあっては、カメラは、一般消費者の手から、どんどん遠ざかっていく。確かに画質はよくなった。被写体認識の技術も格段に改善。「歩留まり」の向上も著しい。最新のカメラであれば、どれで撮ってもほぼ満足のいく写真が撮れるだろう。ところが、メニューの使い勝手は一向に改善されていない。こんなわかりにくいカメラならなおのこと、新規ユーザーの拡大は望み薄だ。冒頭に挙げたメニュー操作については、デジカメが登場した当時から、操作性の基本は全然変わっていない。どうにかならないものか。CP+2026の会場で、各メーカーのブースで不満をぶつけてみた。よく使う機能をショートカットボタンに設定すれば……との説明を受けたりもした。しかし、ちょっと待ってくれ。そもそもショートカットを設定するために、その機能を探すので一苦労なのだ。
OpenAIのChatGPTを筆頭に、GoogleのGemini、AnthropicのClaude、MicrosoftのCopilotと、生成AIは爆発的とも言えるスピードで普及が進んでいる。音声で普通に語り掛けると、多少の言い間違いがあっても意図を正確に受け止め、かなりの精度で的確に回答してくる。一方、カメラのAI活用と言えば、被写体検知やホワイトバランス調整など、ごく一部だけ。AI専用チップを搭載するカメラもソニーのα9IIIやα7RVぐらい。カメラまわりのAI化は激しく遅れている。AIをうまく使えば、温泉宿の迷路のようなメニュー体系から解放されるはずだ。カメラに直接AIを搭載するのは、さらなる価格上昇を招く。これ以上は勘弁願いたい。そこで、スマートフォン(スマホ)の活用だ。スマホ連携と言えば、ソニーのレンズスタイルカメラ「QXシリーズ」や、オリンパスのモジュール型カメラ「AIR A01」を思い出す。いずれも消えてしまった製品だが、AI活用時代の今こそ本格スマホ連携だ。劇的に使い勝手を向上させることができるのではないだろうか。
ソニーのα9III。AI処理専用の「AIプロセッシングユニット」を
備える数少ないカメラの一つだ。主に被写体認識で活用されている。
しかし使い勝手の向上に活用される予定は今のところないという
例えばこんな具合だ。まず、スマホとカメラを無線でつなぐ。スマホにカメラ設定の要望やこれから行う撮影シーンを声で伝える。スマホ側ではAIを活用し、まず音声認識から要望を分析。曖昧な部分は必要に応じてユーザーと音声でやり取りを行い解決。撮影者の意図をしっかり理解した上で、適切なカメラの設定要件を確定。最適な設定項目をカメラに送り、カメラの設定を完了させる……。あるいは、先に1枚撮影してスマホに画像を送り、状況をAIに判断させて、適切な設定情報をカメラにフィードバックし自動設定する……。今現在、こんなことができるカメラは1つも存在しない。今こそAIの出番だ。これで、絶望的に狭い画面にずらりと並んだメニュー項目からサヨナラできる。デジカメの黎明期からほとんど進化していないメニュー地獄から解放されるのだ。
大入り満員のCP+2026。カメラへの期待は依然として大きい
何年か前、あるカメラメーカーの開発陣に「声でダイレクトにカメラの設定ができるような機能は考えられないか」と訊いてみたことがある。「一応検討はしてみる」といった回答だった。結局、その後何の音沙汰もなかった。当時、まだ音声認識の壁は高かった。しかし今ならその可能性は大いにあるだろう。設定を簡単にしたいと言うと「初心者向けのメニューがある」という返答が返ってきたこともあった。いやいや、そうじゃない。こちとら写真を撮って半世紀。逆に「夜景モード」とか「ポートレートモード」とかの方が恐ろしい。実際のカメラの設定が、具体的にどうなっているのかよくわからないからだ。シーンに応じてどうカメラを設定すればいいかは、わかっているつもりだ。ただ、メニューからそこにたどり着けないだけ。それをどうにかしてほしい。もちろん、撮影者が知らない項目であっても、適切な設定をカメラ側から提案してくれればなおいい。カメラは、そろそろ旧態依然のメニューから卒業してもいいんじゃないだろうか。(BCN・道越一郎)
基本はほとんど変わっていない
カメラ映像機器工業会(CIPA)の集計によると、この10年、カメラの世界出荷台数は半分以下に縮小した。2016年は2420万台だったが、昨年は940万台だった。ただ、770万台を記録した23年で底を打ち、徐々にではあるが回復基調にある。一方で単価の上昇は激しい。16年の2万9400円から昨年は9万3300円まで、3倍以上に急上昇している。レンズ交換型が増えた、というのが理由の一つだ。出荷台数構成比は16年の48.0%から、昨年は74.2%まで上がってきた。しかし、レンズ交換型に限った単価を見ても、16年の4万4800円から10万4100円と2倍以上に跳ね上がっている。16年を1とする指数にすると、カメラ全体の単価は昨年には3.18、レンズ交換型では2.33まで上昇した。折からの円安を単価上昇の要因とするメーカー関係者も多い。しかし、ドル円相場の指数では、16年から昨年では1.34と3割強の上昇にとどまっている。一昨年までのデータしかないが、平均給与に至っては、1.13と1割強しか上がっていない。
<全体><レンズ交換式>/ドル円相場指数/日本人の平均給与指数
給与が一向に上がらない中、価格が2倍、3倍に上昇したとあっては、カメラは、一般消費者の手から、どんどん遠ざかっていく。確かに画質はよくなった。被写体認識の技術も格段に改善。「歩留まり」の向上も著しい。最新のカメラであれば、どれで撮ってもほぼ満足のいく写真が撮れるだろう。ところが、メニューの使い勝手は一向に改善されていない。こんなわかりにくいカメラならなおのこと、新規ユーザーの拡大は望み薄だ。冒頭に挙げたメニュー操作については、デジカメが登場した当時から、操作性の基本は全然変わっていない。どうにかならないものか。CP+2026の会場で、各メーカーのブースで不満をぶつけてみた。よく使う機能をショートカットボタンに設定すれば……との説明を受けたりもした。しかし、ちょっと待ってくれ。そもそもショートカットを設定するために、その機能を探すので一苦労なのだ。
OpenAIのChatGPTを筆頭に、GoogleのGemini、AnthropicのClaude、MicrosoftのCopilotと、生成AIは爆発的とも言えるスピードで普及が進んでいる。音声で普通に語り掛けると、多少の言い間違いがあっても意図を正確に受け止め、かなりの精度で的確に回答してくる。一方、カメラのAI活用と言えば、被写体検知やホワイトバランス調整など、ごく一部だけ。AI専用チップを搭載するカメラもソニーのα9IIIやα7RVぐらい。カメラまわりのAI化は激しく遅れている。AIをうまく使えば、温泉宿の迷路のようなメニュー体系から解放されるはずだ。カメラに直接AIを搭載するのは、さらなる価格上昇を招く。これ以上は勘弁願いたい。そこで、スマートフォン(スマホ)の活用だ。スマホ連携と言えば、ソニーのレンズスタイルカメラ「QXシリーズ」や、オリンパスのモジュール型カメラ「AIR A01」を思い出す。いずれも消えてしまった製品だが、AI活用時代の今こそ本格スマホ連携だ。劇的に使い勝手を向上させることができるのではないだろうか。
備える数少ないカメラの一つだ。主に被写体認識で活用されている。
しかし使い勝手の向上に活用される予定は今のところないという
例えばこんな具合だ。まず、スマホとカメラを無線でつなぐ。スマホにカメラ設定の要望やこれから行う撮影シーンを声で伝える。スマホ側ではAIを活用し、まず音声認識から要望を分析。曖昧な部分は必要に応じてユーザーと音声でやり取りを行い解決。撮影者の意図をしっかり理解した上で、適切なカメラの設定要件を確定。最適な設定項目をカメラに送り、カメラの設定を完了させる……。あるいは、先に1枚撮影してスマホに画像を送り、状況をAIに判断させて、適切な設定情報をカメラにフィードバックし自動設定する……。今現在、こんなことができるカメラは1つも存在しない。今こそAIの出番だ。これで、絶望的に狭い画面にずらりと並んだメニュー項目からサヨナラできる。デジカメの黎明期からほとんど進化していないメニュー地獄から解放されるのだ。
何年か前、あるカメラメーカーの開発陣に「声でダイレクトにカメラの設定ができるような機能は考えられないか」と訊いてみたことがある。「一応検討はしてみる」といった回答だった。結局、その後何の音沙汰もなかった。当時、まだ音声認識の壁は高かった。しかし今ならその可能性は大いにあるだろう。設定を簡単にしたいと言うと「初心者向けのメニューがある」という返答が返ってきたこともあった。いやいや、そうじゃない。こちとら写真を撮って半世紀。逆に「夜景モード」とか「ポートレートモード」とかの方が恐ろしい。実際のカメラの設定が、具体的にどうなっているのかよくわからないからだ。シーンに応じてどうカメラを設定すればいいかは、わかっているつもりだ。ただ、メニューからそこにたどり着けないだけ。それをどうにかしてほしい。もちろん、撮影者が知らない項目であっても、適切な設定をカメラ側から提案してくれればなおいい。カメラは、そろそろ旧態依然のメニューから卒業してもいいんじゃないだろうか。(BCN・道越一郎)





