富士フイルムのカメラと言えば、フィルム時代のフィルムの特徴や味を再現する優れたフィルムシミュレーションで定評がある。例えば、雑誌掲載や広告写真などでも使われた、同社のプロ向けリバーサルフィルムでは「プロビア」や「ベルビア」がよく使われていた。両者の仕上がりはかなり異なり、鮮やかさなら「プロビア」、ナチュラルさなら「ベルビア」と、目的に応じて使い分けるのが常だった。今やフィルムはすっかりマイナーな存在になってしまったが、フィルムの味とノウハウをデジタル時代に引き継ぎ、デジタルカメラで蘇らせた。「写真フィルムの国産化」を掲げて創業し、日本を代表するフィルムメーカーとして歴史を刻んできた同社。写真フィルムと画像・映像の知見は膨大なものがある。instax mini Evo Cinemaのジダイヤルによる映像の変化は、こうしたフィルムシミュレーションの知見の蓄積があってこそだろう。類似の機能は、一見スマートフォン(スマホ)でも容易に実現できそうに思える。しかし、実際の効果のかかり方は、やすやすと真似できるものでもないだろう。
動画のQRコード付きのチェキプリントを手に
製品の使用感を語る広瀬すずさん
撮影した動画は、専用アプリをインストールしたスマホ経由でサーバーにアップロード。本体でプリントしたQRコードを介して共有できる。19年発売の「instax mini LiPlay」では、音声付きのスライドショーをQRコードで共有する機能はあった。今度は動画そのものの共有だ。動画の長さは15秒まで。短いが、流行りのショート動画を考えれば「アリ」だろう。秒数が長くなれば、アップロードの負荷と時間も増える。15秒はちょうどいい「尺」だ。本体形状は縦型。日本で普通の人に動画撮影を広めた初めてのカメラ、ともいえる「フジカシングル8」を彷彿とさせる。ジダイヤルともども、ちょっとノスタルジーに浸りすぎではないか、とは思う。その影響でモニターは極めて小さい1.54型にせざるを得なかった。しかし、片手で縦位置動画が撮りやすい、というメリットもある。手軽にQRコードで共有できる短い縦位置ショート動画を撮れるカメラ。しかも時代ごとの映像味を楽しめる機能付き。ばらばらに存在した点と点の要素を見事に結びつけて仕上げた製品とも言えそうだ。
新製品を紹介する、富士フイルムホールディングスの
後藤禎一 代表取締役社長・CEO
チェキと言えば、ロングセラーの大ヒット商品「instax mini Evo」だ。21年12月発売にもかかわらず、依然売れ続けている。直近3年間のコンパクトデジカメ市場の販売台数ランキングで、月間1位に輝いた回数は11回にも及ぶ。足元の25年11月、12月でも連続で1位と、まだまだ勢いがある。富士フイルムホールディングスの業績も好調だ。24年度は売上高、営業利益とも過去最高だった。25年度も、揃って過去最高を更新する見込みだという。instax mini Evo Cinemaのような挑戦的な製品をリリースできるのも、こうした背景がある。
コンパクトデジカメの販売台数シェア。
instax mini Evoは売れ続けている
富士フイルム「instax“チェキ”新製品発表会」では、CM出演俳優の横浜流星さんと広瀬すずさんが登場。ジダイヤルを活用した動画撮影を実演して見せた。チェキの発表会の常連ともいえるこのお二人。いつになく楽しそうに見えたのが印象的だった。instax mini Evo Cinemaの発売は1月30日、価格は5万5000円前後だ。近年面白みに欠ける日本のカメラ市場。よどんだ水をかき混ぜる、こんな面白い製品こそ、ぜひ売れてほしい。instax mini Evoに続く大ヒットを飾れるか、楽しみだ。(BCN・道越一郎)