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「冷たい靴」を備えたLUMIX S9が物語る、カメラメーカーの苦悩と決断

販売戦略

2024/06/02 18:00

 ついに「ストロボ」の使えないカメラが登場する。カメラ上部に「シュー」はついており、クリップオンストロボを物理的に装着することはできる。しかし電気接点のない「コールドシュー」。外付けストロボのケーブルを接続する「X接点」もない。とても遅いシャッタースピードにして「手動」でタイミングを合わせて光らせるしか、ストロボを使う手立てがない。これまで、アクセサリーシューを備えるレンズ交換式のデジカメで、電気接点のないコールドシューを採用したもの、というのは、ほとんど記憶にない。パナソニックが6月に発売する、LUMIX S9のことだ。実に大胆な決断だ。

6月20日にパナソニックが発売するレンズ交換型デジカメ、
LUMIX DC-S9。レンズは26mm F8の
パンケーキレンズLUMIX S-R26

 ストロボは、筐体が小さくても大光量で被写体を照らすことができる利点がある。しかし、一瞬しか光らない点光源であるため、素人には扱いが難しい。カメラの上に取り付けただけで何も考えず直射して撮ると、いかにも「ストロボを焚きました」という写真しか撮れない。自然な写真にするためには、それなりのテクニックが必要だ。一方で、高感度センサーが当たり前になり、薄暗い場所でも明るく撮れるようになった。照明なしでも問題ない場面も増え、ストロボを使う機会は驚くほど減っている。自分自身、ここ数年ストロボは使った覚えがない。仮に照明を焚くとしても、選ぶのはLED照明だ。常に光っている「定常光」のほうが扱いやすいからだ。ミラーレスカメラとの相性も良く、見たままに撮れるため、どんな写真になるかが分かりやすい。低価格化や小型化しつつ、どんどん明るくなって、ストロボの出番を奪っている。さらに、動画の撮影ともなれば、一瞬しか光らないストロボは無用の長物だ。写真を撮る際にも「ピカっ」と光るのは過去のことになるかもしれない。
 
カメラ上部中央に位置する「コールドシュー」。
ディスプレイ上部には「LUT」ボタンを備える

 Lumix S9は、35mmフルサイズセンサーを搭載するレンズ交換式のミラーレス一眼カメラだ。ライカやシグマも採用する「Lマウントレンズ」が使える。形はデジカメだが、ストロボが使えないことからもわかるように、動画撮影により重きを置いている。コールドシューにはマイクやLED照明を載せ、動画撮影時に使うという想定だ。さらにS9のシャッターは電子シャッターのみ。メカシャッターがないため、そもそもストロボをつなげたとしても、相当遅いシャッタースピードでしか同期できず、使い勝手はとても悪くなるだろう。そこで、部品点数を減らすため、ほぼ無意味なホットシューはやめ、外付け機器を取り付けるベースとして、コールドシューを残した、ということだ。

 S9が強烈に意識しているのはスマートフォン(スマホ)との差別化だ。パナソニックは、いわゆる「撮って出し」(=撮影したデータを加工せずそのまま使用すること)で使えることを目指している。それはグローバルの製品ビジュアルの中で表現されているキーコピー「SHOOT. EDIT. SHARE.」に表れている。真ん中の「EDIT.」を取り消すかのように赤々と横線が引かれているのだ。編集の技術がなくても、撮ってすぐ、例えばインスタグラムやTikTokに上げられる素材を提供できる、というわけだ。そのためにリアルタイムLutという機能も付けた。Lutは、Look Up Tableの略で、映像の色調(色味)を自在に変更できる仕組み。S9では独立した「LUTボタン」を備え、撮影段階で色調設定の変更がしやすい。
 
EDIT.を取り消すように赤々と線が引かれたキーコピー

 S9は小型軽量もコンセプトの一つだ。しかし、それなら同社が展開する小型カメラのフォーマット、マイクロフォーサーズのほうがはるかにふさわしい。なぜあえて大きなフルサイズセンサーを採用したのか。その理由はスマホとの分かりやすい差別化だ。パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションの副社長執行役員で、イメージングソリューション事業部の津村敏行 事業部長は「明らかに理解しやすいのはボケやすくノイズが少ないフルサイズセンサーのカメラ。まずフルサイズでスマホにない体験をしていただきたい。マイクロフォーサーズの利点を理解していただけるのは、むしろカメラに詳しい方々」と話す。また、パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部 商品マーケティングセンター イメージマーケティング部 商品マーケティング課の塩見記章 課長は「カメラのリテラシーが低い人たちにとっては、マイクロフォーサーズは使いこなしが難しい。ボケる、ノイズが少ないフルサイズセンサーであれば、そうした方々にも乗りこなせる」と話す。
 
パナソニックの塩見記章 課長(左)と
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション
津村敏行 事業部長

 S9ボディーと同時に発表したパンケーキレンズ、LUMIX S 26mm F8は、絞り値固定のマニュアルフォーカスレンズ。あえて面倒なマニュアルフォーカスを採用し、スマホでは得られない撮影体験を味わえる。9月1日まで実施するLUMIX S9の発売記念キャンペーンでは、このパンケーキレンズをプレゼントするという大盤振舞だ。カメラメーカーは、いかにスマホとカメラを共存させつつ、カメラとスマホの違いを際立たせるか、に苦慮している。巨大なスマホというライバルが存在する以上、カメラには、これまでの常識を飛び越るような大胆な進化と変化が求められている。「冷たい靴」(コールドシュー)を備えたLUMIX S9にも、その苦悩と決断が投影されていた。(BCN・道越一郎)