一生モノのデジタル製品

オピニオン

2022/05/29 18:30

 ライカジャパンは昨年12月、自社製品の買い取り、販売を始めた。名付けて「Leica Pre-Owned(ライカ・プリオウンド)」。対象のカメラは「ライカM型デジタルカメラ」「ライカQシリーズカメラ」のデジカメ2系統。同社の長い歴史を考えればごくごく一部の製品だ。しかしレンズについては、フィルム時代から販売を続けている「ライカMレンズ」を対象としている。ライカといえば、カメラメーカーの老舗中の老舗。もちろん、買い取りできるかどうかは実物の程度次第だが、メーカーのライカ自らがこうした取り組みを始めたのは興味深い。

 メーカー自ら中古品を買い取って販売という図式で、すぐ思い浮かべるのは中古車。中古車を下取りして新車を販売し、買い取った中古車を整備して販売するというのは昔から行われている。例えばトヨタは、1950年代に中古車販売の会社を設立。古くから中古車オークションを始めるなど、中古車を積極的に取り扱ってきた。デジタル製品に比べると車はかなり高価。しかしガソリン車の技術は成熟の域で、技術的な陳腐化は緩やかだ。中古車でも十分な市場価値が保てる。
 
ライカオンラインストアでは「ライカM11 シルバー・クローム」(左)の税込価格は123万2000円、「アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH. ブラック」は同112万2000円。新品でそろえると合わせて230万円を超える買い物になる

 ライカはカメラとしては最も高額な部類に入るブランド。ボディーとレンズで新車が買えるくらいの出費は覚悟する必要がある。普通の人にはなかなか手が届かないのが実情。中古市場は成立しやすい、とはいえ、中古になっても製品の価値が保たれてこそ成り立つ話だ。製品の信頼度やブランド力は高く、中古市場においてもライカは常に一定の地位を占めてきた。メーカー自ら買い取り、整備して販売するという構図も自然な流れのように感じる。メーカー修理の流れを一部応用すれば、買い取り価格の査定や調整も比較的容易。しかも、ライカ自らが再調整し2年の保証もつけるという。ユーザーも安心して購入でき、選択肢が広がる。

 実は、中古品の販売は、売買手数料などを除いてGDPに含まれない。所有者が変化しただけで付加価値が新しく生まれたわけではないからだ。GDPの成長を優先すれば、新品をどんどん作ってどんどん売って、どんどん買うことが善。使い捨ても厭わない姿勢が求められる。使えなくなったら捨てて新しいものに買い替える。修理すれば修理代のほうがむしろ高くつく。修理には時間もかかり面倒。いろいろな理由があるが、一つのものを修理しながら大事に使っていくという考えは、ずいぶん少数派になってしまったかに思える。とはいえ、のどに引っかかった小骨のように、ずっと気になって釈然としない思いは消えない。SDGsが叫ばれる昨今だが、そんな小難しいことよりも「まだ使えるのにもったいない」「いいものをずっと使っていたい」「いいものだから誰かが引き継いで使ってほしい」という感覚だ。
 
最後は花壇?として有効活用される車、という例も

 メーカーにとって中古市場は痛し痒しの存在だ。自社製品のユーザーを維持できること自体は悪いことではない。しかし中古市場が活性化すれば新品の販売は勢いを失う。結果として、故障せず長く使える製品をつくり販売することが損になる、という妙なことが起きる。げんなりする話だ。デジタル製品といえども技術は成熟化しつつある。使い捨てが奨励された過渡期を経て、再びモノそのものの存在感や価値を重視する風潮が復権しつつあるように感じる。人生の伴侶として長く使え、故障しても長期にわたって修理が可能な息の長い製品。デジタル製品のメーカー自身も、そろそろ、そんな「一生モノ」を視野に入れてもいい頃ではないだろうか。(BCN・道越一郎)

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