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出資1億集めても届かない360度カメラ、主催者の説明に依然残る疑問

時事ネタ

2019/03/03 17:00

 およそ1億円の出資を集めた360度カメラ「Wunder360 S1」。米クラウドファンディングサイトIndiegogoでプロジェクトを展開しているが、出資者には製品が届かないまま、先にアマゾンやe-bay、さらには日本のクラウドファンディングサイト、Makuakeで大量販売されていることがわかり、ちょっとした騒ぎになっている。この問題に進展があった。

米クラウドファンディングサイト、Indiegogoで展開する360度カメラ
「Wunder360 S1」プロジェクト

 Indiegogo側に対して行ったBCNの指摘と取材の結果、Indiegogo側ではWunder360 S1に対する新規投資を凍結したが、プロジェクトを主催するShenzhen Evomotionにも、出資者に対して適切な説明を行うよう要請した模様だ。

 これを受けEvomotionは、2月に入って2回の状況説明を行った。実際に発送の準備は始まっているものと見られ、荷物の追跡番号を受け取ったとする報告も投稿され始めている。しかし、Wunder360 S1のコメントページには依然として返金を求める声や、詐欺だと指摘する声が後を絶たない。BCNではEvomotionに改めて取材を申し込んでいるがまだ連絡はつかない状態だ。
 
360度カメラ「Wunder360 S1」は、いつ出資者の手許に届くのか

 Evomotionは2月9日、それまでコミュニケーションが不十分だったことを詫びつつ、ほぼ1か月ぶりにサイト上で進捗を報告した。その後も出資者の不満の声が収まらないのは、Evomotion側の説明にまだ疑問点が残っているからだ。報告によると、1月は計2400台を3回に分けて配送代理店に出荷。さらに今後、毎月1000~2000台程度出荷できる見込みだとしている。しかし実際にすべての出資者にいつ頃までに製品が届くかについては曖昧なままだ。試算してみたところ、発送総数は少なくとも8200台。すでに発送された分を除くとあと6000台近くが残っている。出荷が1か月で2000台ペースだとすると、全数出荷できるのは早くても4月。月1000台ペースであれば、最長で7月あたりまでかかる計算だ。こうした見積もりを明確に提示しないことも、出資者をイライラさせる原因になっている。

 また、出資者にWunder360 S1を届ける前に、日米両国のアマゾンやe-bayで販売し、日本のクラウドファンディングサイト、Makuakeでも販売しているとの指摘がなされている。こうした行為はIndiegogoでの規約違反にあたるため、出資者から批判されていた。これに対しEvomotionは「Indiegogo以外の他のチャネルでは販売していない」と改めて主張している。しかし3月1日現在、米アマゾンではまだ6台の在庫があるとして販売されている上、e-bayでは依然として3社から合計25台以上が在庫ありとして販売されている。2月初旬に6台の在庫が確認できていた日本のアマゾンでは、その後売り切れた模様だが、3月31日に入荷予定として販売は継続している。Evomotionは「テスト目的で代理店にサンプルを配った」ことは認めている。仮にサンプルが市場に横流しされたとしても、この数は多すぎるだろう。
 
Makuakeでは、少なくとも92台販取り扱い、昨年12月の時点ですべて発送済みだ

 日本のクラウドファンディングサイト、MakuakeでWunder360 S1を取り扱った主催者によると、少なくとも92台を昨年の12月21日に発送を完了したとしている。その後追加でさらに35台程度販売したようだ。Evomotionからの製品調達の経緯については「独占販売契約を結んだ上で、日本でのテストマーケディングのためにクラウドファンディングを実施した」と説明している。

 これが事実であれば、Evomotionの説明と大きく食い違う。さらにEvomotionは、発送が遅れている理由として、日本の技適を例に出し、いくつかの国で認証を待っている状態だとしている。しかしBCNの調査では、昨年7月にWunder360 S1の技適認証が取得されていることが判明。少なくとも日本向けについては出荷遅れの要因ではないことが分かった。

 2月22日、進捗を報告する新たな投稿がなされたが、さらに何台か出荷したことを明らかにしただけで、具体的な出荷計画に関しては言及していない上、後日発送するとしているアクセサリー製造の進捗状況などは全く触れていない。ただし、殺到している返金要求に対応し、方針について内部で議論していることは明かしている。サイト上で書き込まれたコメントへの返答の投稿も始めており、Evomotionとしても精一杯の対応をしようとしている姿勢は見られるようになっている。
 
ソニーセンサーを採用し高品質だとアピールするWunder360 S1

 今回のトラブルで最大の問題は、なんと言ってもコミュニケーションの欠如。クラウドファンディングの出資者を差し置いて他の経路で先に製品を販売してしまったとすると、規約違反の問題以前に出資者の怒りを買うことは間違いない。これはこれで論外なのだが、生産や発送の工程での遅れについては、その都度きちんと事情を説明すれば理解を示す出資者も多いだろう。さらに、目標額を40倍近く上回る大量の出資が得られたことで、生産・出荷体制の大幅な増強を余儀なくされ、結果として予想外の遅延を招いたという可能性も否定できない。クラウドファンディングでは、出資を受ける側も出資する側もこうしたリスクがあることは、あらかじめ考えておくべきだろう。

 この件に関する次の記事では、製品が出資者に届き始め、プロジェクトが無事終焉をむかえつつあることを報告するものであることを願いたい。(BCN・道越一郎)