【日高彰の業界を斬る・32】 アップルが9月に発表したiPhoneの新製品の中で、デュアルカメラ・有機ELディスプレイの「iPhone XS」シリーズに対し、シングルカメラ・液晶ディスプレイとすることで価格を抑えた「iPhone XR」。10月12日になってソフトバンクが販売価格を決定したが、最も容量の小さい64GB版でも10万6560円(税込、以下同)と、10万円を超える価格帯に入ってきた。

廉価版とは到底呼べない、10万円前後の「iPhone XR」

 ソフトバンクの販売価格は、アップルストアでのSIMフリー版(9万1584円)、すでに価格を公開していたNTTドコモ(9万8496円)と比べてもさらに高く、廉価モデルとは到底言い難い。

 もっとも、iPhone XRはiPhone XSシリーズと共通のプロセッサを搭載しており、シングルカメラでも背景をボカした「ポートレート」撮影に対応するなど、一部機能を除いては上位モデルに準ずるスペックだ。他社のスマートフォンで言えばフラッグシップクラスと言って差し支えない機能や性能を備えており、この製品を“廉価版”に位置付けるのは誤りだろう。新聞報道等ではよくみられる表現だが、あくまでiPhone XSに比べれば安いという程度だ。

 とはいえ、とにかく最上位機を求めるユーザー層とは異なり、コストパフォーマンスもそれなりに気にする消費者を対象とした機種で、64GBモデルでも10万円超えという価格設定は衝撃的だ。ソフトバンクでは、特定の料金プランに加入すると通信料を12カ月にわたって1000円割引く「1年おトク割」など、さまざまな割引キャンペーンで実質的な価格を安くみせようとしている。

 しかし、そもそもSIMロック版ながら、アップルストアのSIMフリー版よりも約1万5000円も高い価格設定となっており、これまでのような「通信契約とセットで買えば、実質的な端末価格がお得になる」という前提も崩壊した格好だ。(48回払いの「半額サポート」もあるが、半額にするには2年後の端末返却が必要で、これは消費者からみれば「販売」でなく実質「レンタル」だ)
 
あの手この手の割引施策でみえにくくはなっているが、ユーザーは本体に10万円を払う必要がある

 これまでもソフトバンクは、3キャリアの中ではiPhoneの価格がやや高い傾向があったが、割賦販売契約の審査ハードルが上がる「支払総額10万円」を超えるのもいとわない今回の価格設定は、モバイル市場をめぐる昨今の議論に対する、同社からのけん制とみることもできそうだ。

 8月の菅官房長官の「(携帯電話料金を)4割程度下げる余地はある」という発言以来、政府サイドから携帯電話業界に対しては、さまざまな形で値下げ圧力が強まっている。各キャリアが「もうけ過ぎ」との批判は根強いが、議論の出発点となっている「他国に対して日本は○割高い」という数字が、通信料金のみなのか端末代も込みなのか、またMVNO市場など動きも織り込んだものなのか、きちんとした定義なしに印象論で独り歩きしている感がある。国や地域によって大きく異なるネットワークやサービスの品質も、見過ごされていることが多い。

 これまでも大手キャリアはさまざまな法令や、“ガイドライン”という名の実質的な規制をかいくぐりながら、大きな利益を確保してきた。政府の新たな競争促進策が投入されるたびに料金体系や販売形態が変わり、消費者は複雑化した契約内容を理解する意欲をもはや失っている。結果的に、相次ぐ新料金プランでも値下がりの実感を得られないまま、漫然と「○年縛り」の契約を継続するユーザーが主流となっている。ソフトバンクがiPhone XRで強気の価格を打ち出せるのも、このような硬直した市場だからこそだろう。

 10月10日から、総務省では「モバイル市場の競争環境に関する研究会」が始まり、年度末までには何らかの新たな指針がまとまるとみられる。しかし、消費者の反発が目に見える形で大きくならなければ、大手キャリアの事業戦略が根本的に変わることはない。幸いにして現在は、大手のサブブランドやMVNOなど、ほぼ確実に通信費を下げられるサービスが存在する。「携帯は高い」と感じるならば、消費者がより安価なサービスを積極的に選択していくことでしか、結局のところ市場の構造は変えられないのではないか。(BCN・日高 彰)