“縛り”という言葉自体が、携帯キャリアの思う壺

【日高彰の業界を斬る・26】 行政当局と携帯電話キャリア各社の攻防が今年も続いている。IT系のニュースメディアのみならず、新聞各紙やテレビのニュース番組においても、大手携帯キャリアの「2年縛り」「4年縛り」にメスが入ったことが大きく報じられた。

 しかし、この動きが携帯電話市場に本質的な変化をもたらすのか疑問を抱かざるを得ない。

 例えば、総務省は6月、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社に対し、「2年縛り」の是正を求めた。それだけを聞くと、2年間の定期契約というやり方自体が否定されたかのような印象があるが、実際に指摘されたのは、「『2年=24か月契約』なのに、解除料なしで解約できるのは『25か月目』なので、24か月分よりも多くの通信料金を払う必要がある」点。この行政指導に従って、各社は「24か月目」も解約可能月に加える方針だ。2年ちょうどで契約を満了し、解除料なしで他社へ移れるようになる。

 これが果たして、大騒ぎするほどの変化だろうか。もちろん、2年ちょうどで解約できるほうがわかりやすいし、解約月をうっかり忘れてしまうことは多いので、無料で解約できる期間が長くなるのは契約者にとってはありがたいことだ。ただ、この改善による競争促進効果は、大きなものではないと考えられる。

 公正取引委員会は、KDDIとソフトバンクが提供している、48回払いの契約継続を条件として、2年ごとに実質半額で最新端末に買い換えられるプランを問題視。6月、携帯電話市場の課題をとりまとめた発表資料では、わざわざ「いわゆる『4年縛り』」と明記したうえで両社の販売方法にクギを刺した。実質半額とはいえ、2年経過後に最新機種へ買い換える際には、旧端末の下取りと、新たな48回払い契約が必要なので、実質的には「永久縛り」になってしまうからだ。
 
「4年縛り」の文字が頻出した公取委の資料
「4年縛り」の文字が頻出した公取委の資料

 4年縛りが拡大すれば各社のシェアをいっそう硬直させるおそれがあるため、公取委が問題視するのも理解はできる。しかし、そもそもの経緯をさかのぼれば、総務省がキャリアに対し端末購入補助金を抑制するよう働きかけ、端末代が高額になったことが、48回払い導入のきっかけだった。あえてキャリア側に肩入れした言い方をすれば、「お役所に従ってやれる範囲で工夫をしたら、今度は別のお役所から怒られた」というところだろう。

 ここ数年、当局とキャリアの間ではいたちごっこが続いており、肝心の消費者はめまぐるしく変わる料金プランや販売方法に翻弄されている。もちろん、大手キャリアから縛りのない安くてシンプルなサービスが提供されていないことは問題だが、それをとがめる当局の指導内容もどこか場当たり的な部分があり、結果として“モグラたたき”のように噴出した問題に対し泥縄で規制が講じられる格好になっている。この構造を崩す光明となり得るのが、第4のキャリアとなる楽天の参入だが、ソフトバンク同様、楽天も一定のシェアを獲得した後に、現在の大手キャリアのように変質してしまう可能性は否めない。

「違約金」という言葉も、乗り換え意欲を削ぐ

 メディアとしての自省を込めて言えば、「2年契約」を「2年“縛り”」と呼び換えてしまうことが、消費者の乗り替え意欲を削いでいる面もあるのではないかと感じている。

 「そろそろ『2年縛り』が終わるから、次のスマホを何にしようか考えている」といった話し方をする消費者は少なくない。しかし、キャリアを乗り替えるのに、何も「縛り明け」を待つ必要はなく、他社から魅力的なサービスや料金プランが提供されるのであれば、契約解除料を払って移ればいい。最近は中古スマートフォンの買い取りを行う店も増えており、端末の残債が少々あったとしても、それを一括で支払ったうえで売却すればいい。

 大きなキズのないiPhoneなら、2世代くらい前の機種でも2~3万円にはなるし、通信契約部分の契約解除料もほとんどの場合9500円+消費税で、これくらいの額なら乗り替え先のキャンペーン等で相殺できることも多い。契約解除料のことを「違約金」と呼ぶことも多く、「違約」というと何か悪いことをした気分になる人もいるのかもしれないが、あくまで「契約解除」で、これも正規の手続きだ。

 携帯電話市場では「縛り」という言葉が半ば独り歩きしているが、長期契約を結ぶことでより大きな割引が提供されるのは、あらゆる商品やサービスにおいてごく当たり前のことだし、よりよいサービスを他に見つけたのであれば、前もって合意したコストを支払って乗り替えるのも一般的なことだ。

 かつては少々高くても我慢して使い続けるしかない携帯電話サービスだったが、今ではMVNOというリーズナブルな選択肢もある。当局の指導で市場が大きく変わらないのであれば、結局のところ、消費者がより良いサービスを求めて積極的に移るしか、大手キャリアを動かす方法はない。「○年縛り」に自分の考えまで縛られる必要はない。(BCN・日高 彰)