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AmazonのQRコード決済に勝算はあるか、見えづらい競合優位性

 官民でキャッシュレス化推進の動きが加速している。日本は世界と比較して普及率が低いが、経済産業省は今年4月、2025年までにキャッシュレス決済の比率を40%まで高める目標を発表。普及に本腰を入れ始めた。それに呼応するように、民間企業各社も相次いでサービスを提供開始。特に、店舗に設置する決済端末のコストが抑えられるQRコード決済に期待が集まっている。

AmazonがQRコード決済の提供を8月29日に発表。実店舗ソリューション参入の衝撃は大きいが……

ユーザー・店舗ともに「始めやすさ」が最大の売り

 8月29日、世界最大のショッピングサイトを運営するAmazonは、Amazonアカウントと紐づく決済サービス「Amazon Pay」を活用したQRコード決済の仕組みを発表した。Amazon Payの公式認定制度「グローバルパートナープログラム」のパートナーであるNIPPON PAYと組み、決済端末とサービスをセットにしたソリューションを提供する。

 他社の決済サービスと比較した場合、一般消費者にとって利点となるのは、すぐに使い始められる手軽さだ。Amazon PayのQRコード決済には、スマートフォンアプリ「Amazonショッピングアプリ」を利用する。アマゾンジャパンAmazon Pay事業本部の井野川拓也本部長は、「国内のAmazonユーザーが使用するデバイスはPCで約1700万台、スマホで約3700万台。スマホ利用者はアプリ使用率が高く、クレジットカード情報を登録済みであればすぐに決済を実行できる」と説明する。
 
使用するのはスマートフォンアプリ「Amazonショッピングアプリ」。
利用者であれば、初期設定なくQRコード決済できる

 店舗側の利点としては、専用の決済端末を無料でレンタルできることがあげられる。これまで決済端末の購入に踏み切れなかった中小店舗も、初期費用なく導入することが可能だ。Amazonはここに狙いを絞る。20年末までは決済手数料も無料とし、19年内には売上代金を最短で翌日に支払えるようにするという。
 
店舗側の利用メリット

アマゾンエフェクトは起きない? 現時点では狙いが不透明

 EC専業のAmazonがついに実店舗ソリューションに参入してきた衝撃は大きいが、一方で現時点では先行企業を脅かすほどではないかもしれない。理由はいくつかある。

 まず、専用端末必須という縛りだ。レンタルが無料とはいえ、競合サービスはスマホアプリで手軽に決済できるものも多い。中小店舗であればなおさら大きなタブレットよりポケットに入るスマホの方が相性がよいのではないか。協業するNIPPON PAYは、18年度中のタブレット設置店舗の目標を約5万6000店としているが、LINE Payは18年末までに対応店舗を100万か所まで拡大すると公言している。中小店舗を狙い撃ちするとはいえ、後発としては導入ペースに焦りが感じられない。
 
専用端末の設置店舗の目標は年度末までに約5万6000店。競合が掲げる目標と比べるとかなり低い

 また、ユーザー側のメリットも見えづらい。決済額に応じたポイント制度などを採用しているサービスが多いなかで、AmazonのQRコード決済は利便性以外の強みは現時点では見当たらない。強みであるアプリのインストール数も、すでに社会インフラとして機能しているLINEとは大差がついている。

 今後の戦略はまだ明らかにはなっていないが、もしかするとAmazonとして重きを置いているのは利用者数やシェアではないのかもしれない。Amazon Payはもともと「Amazon.co.jpで購入できない商品でもAmazonと同じ購買体験を提供する」という理念をもっている。今回のQRコード決済でターゲットとしてフォーカスする中小店舗も、まさに「Amazon.co.jpでは購入できないもの」を扱っている店舗だ。単純にAmazon Payの対象範囲を広げるためだけのサービスになるのか、実店舗での影響力を高めるための足がかりとなるサービスになるのか。Amazonとしては珍しい日本発のサービスなだけに、どのように成長するのかは未知数だ。(BCN・大蔵 大輔)