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「自然にデジタル機器を身に着けて欲しい」、wena wrist発案者に聞く開発経緯と方向性

インタビュー

2018/06/24 13:00

 見た目は腕時計そのまま、バンド部に「通知」「電子マネー(FeliCa)」「活動ログ」の機能を入れ込んだソニーのハイブリッド型スマートウォッチ「wena wrist」。2016年に登場し、今年で3年目を迎えた。今年4月には、「第二世代」の製品が登場。有機ELディスプレイの搭載によって通知機能でメッセージ内容や発信者の名前を確認でき、スマートフォンを取り出さなくてもすむようになった。なぜ、ソニーはwena wristを世に出したのか。「自然にデジタル機器を身に着けて欲しい」と話す、wena wrist発案者の對馬哲平・Startup Acceleration部門Startup Acceleration部wena事業室統括課長に、開発の経緯や今後の方向性などを聞いた。(BCN・佐相彰彦)

對馬哲平統括課長
 
見た目は腕時計でバンド部に機能を搭載した「wena wrist」

「情緒」と「機能」を組み合わせたい

――wena wristを開発したきっかけを教えてください。
對馬 腕時計が情緒的、スマートウォッチが機能的という意味で、学生時代、腕時計とスマートウォッチを二つ着けて生活していたんです。自分では大満足だったんですけど、当時スマートウォッチが出始めた頃だったからか、電車に乗っていると、目立つというか、みんなが物珍しくこっちをみていて、何となく不自然なんだな~と感じました。ならば、一つで腕時計とスマートウォッチ両方の役割を果たす製品をつくろうと考えたんです。ちょうど就職活動の時期でもあったので、ウェアラブルを開発している会社を探して、ソニーを選びました。入社後、「Seed Acceleration Program(SAP)」という新規事業が創出できる制度があることを知って応募したいと思いました。ただ、「絵に描いた餅」では絶対に採用にはなりません。そこで、ちょうど何でも開発していいという研修が入社1か月後の5月にあったので、プロトタイプをつくってみたんです。で、製品化できると確信したんです。

――SAPで採用されてwena wristを完成したわけですが、製品化するまでに苦労した点はありましたか。
對馬 細かい点ではたくさんありすぎて長くなってしまうので避けますが、大きな課題としては、当社はスマートウォッチを開発していたものの、腕時計のノウハウがなかったということです。極端な話ですが、ゼロからつくらなければならない。そこで、腕時計を開発しているメーカーに聞かなくてはと思って、その時に出会ったのが、今はwena wristのパートナーでもあるシチズンさんです。シチズンさんとコラボレーションによって、wena wristの製品化が実現したんです。
 
3Dプリンタでプロトタイプをつくって開発

ユーザーの一人ひとりと直接やり取り

――wena wristの登場から3年目ですが、ユーザーからは、どのような評価を受けていますか。
對馬 実は、SNSなどでユーザーの声を収集しているんです。しかも、ユーザーの一人ひとりと直接やり取りしているので、本当に生の声をリアルタイムに聞ける。その声をもとに、機能改善や新しいモデルを追加していきました。そして、第二世代のwena wristも市場に投入することができました。SNSでやり取りしたユーザーとは、コミュニティが形成されていて、今はオンラインだけでなくオフラインでもコミュニケーションをとっているんですよ。

――どんな声があったんですか。
對馬 具現化した声としては、「バンドがいくつもあったほうがいい」ということで、バンド単品でも売るようになりましたし、女性向けモデルも出しました。機械式の腕時計が欲しいという要望にも応えました。ユーザー層を広げるという意味合いでは、BEAMSとのコラボモデルや、手塚治虫先生とのコラボモデルも発売しています。

――ユーザー層は広がっていますか。
對馬 そうですね。はじめはアーリーアダプタがメインだったのですが、今は40歳代の男性を中心にすそ野が広がっていることを実感しています。
 
プラットフォーム「First Flight」に寄せられたユーザーの声

生活に溶け込むデジタル機器の開発へ

――今後、強化していくことは。
對馬 ユーザー層を広げるために製品ラインアップを増やしていくのはもちろんですが、エリアを広げることも重要です。ですので、海外展開を視野に入れています。ただ、海外ではタッチして機能を使うという習慣がない国もありますので、それを踏まえて機能の改善や強化に取り組まなければなりません。

――wena wristが海外に普及すれば、さらに存在感を増すようになりますね。
對馬 例えば、自国でwena wristを身に着けている外国人観光客が、日本でも同じようにwena wristを身に着けて使う。国内外を問わず、多くのユーザーが喜んでくれる。そんな環境をつくっていきたいです。

――業績や販売台数などは順調に増えていますか。
 売り上げや販売台数などは、申し訳ありませんが公表していません。ただ、順調であることは確かです。スタッフも、当初3人だったのが十数人まで増えている。しかも、気心の知れた仲間ですので、もっと事業が拡大する機運が高まっています。

――将来的な目標は。
 バンドのなかに機能が入っている製品としてwena wristがあるということは確立しつつある。ただ、確実に認知されているかといえばそうではない。「腕時計やスマートウォッチなら何でもいいや」ではなく、「身に着けるなら、wena wristだよね」って思わせたいですね。そういった意味では、腕時計以外にも着手したい。「wena」は「wear electronics naturally」の略で、デジタル機器と思わせない生活に溶け込む製品の創造をコンセプトにしています。デジタル機器には、「もっとこうなったら、使いやすいんじゃない?」というのがたくさんあるので、製品化に取り組んでいきたいですね。