レノボ・グループの傘下となった富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は5月16日に事業説明会を開催し、AI処理用サーバー「Infini-Brain」を発表した。価格や発売時期は未定だが、2020年中の商品化を目指して開発を進める。

AI処理プラットフォーム「Infini-Brain」

 富士通のPC事業を分社化して16年2月に設立されたFCCLは、今年5月2日、レノボが51%、富士通が44%、日本政策投資銀行が5%出資する合弁会社となり新たなスタートを切った。事業説明会で齋藤邦彰社長は、開発・生産・サポート体制や、富士通・FMVのブランドはこれまで通り変わらないことを強調し、「これまで以上にお客様に寄り添う」企業になっていくと宣言した。

 日本市場で、レノボはすでにNECと合弁でPC事業を展開しており、さらにFCCLを傘下とした場合、工場など生産体制の過剰や、顧客の取り合いといった不効率を招くのではないかという指摘もあった。しかし齋藤社長は、レノボとの協議の結論は「このままいくのがビジネスの成長につながる」というものだったと説明。NECレノボとFCCLには異なるユーザーがいて、それぞれがオリジナリティのある製品を開発・販売していくことで、PC事業全体を大きくしていけるとしている。
 
FCCLの齋藤邦彰社長

 今後の成長戦略の核として齋藤社長が強調したのが、AIと、その処理プラットフォームとなる「エッジコンピューティング」だった。エッジコンピューティングとは、インターネットの向こう側にある「クラウド」ではなく、ユーザーの手元に近い「エッジ(末端)」で情報を処理するという考え方を指す。新発表のInfini-Brainは、企業や学校など、今後AIの需要が増える場所に設置し、エッジコンピューティングを実現するための製品だという。

 AIを活用したシステムの構築には、巨大な処理能力を利用できるクラウドが用いられることが多いが、インターネット越しにデータをやりとりするため、データを取得してから処理結果が得られるまでにタイムラグがある。また、プライバシーやセキュリティの関係で、外部に出したくないデータを扱う場合もクラウドは相性が悪い。AIが、今後の社会でなくてはならないものになれば、エッジコンピューティングの需要も増す。顧客の要望にベストフィットしたコンピュータを自社で開発・製造できるFCCLは、高性能かつ小型で低騒音・省電力のエッジ用製品が提供できるため、AI時代にビジネスを大きく花咲かせられるという見立てだ。

 ただ、エッジコンピューティングは必ずしも新しい概念ではなく、世界のPC・サーバーメーカーのほとんどは、エッジコンピューティング需要を取り込むべくすでに動いている。また、技術ではなくマーケティングの文脈での「エッジコンピューティング」という言葉は、サーバー需要をクラウドに取られることに危機感をもつメーカー各社によって、販売台数を維持するための方便として用いられていることには注意が必要だ。エッジ市場がどこまで拡大するかは不透明だ。

 齋藤社長が発表会で「体制はこれまでと変わらない」「お客様に寄り添う」を繰り返したことも、手放しには肯定できない面がある。もちろん、FCCLの主要顧客である企業や官公庁は、富士通ブランドのPCを調達するにあたって、今後も従来と変わらない品質やサポートが提供されるのかを重視するため、FCCLにとって不安の払拭は重要な課題だ。しかし一方で、何も変わらないのであれば、(旧親会社富士通の都合だったとはいえ)本当に経営体制を大きく変える必要があったのか、という疑問が生まれる。

 また、国内PC市場全体の傾向として、法人向けは堅調だが、コンシューマ向けは台数で前年割れが続いていることは齋藤社長も認める。課題をもつ顧客の要求に応えられることが強みになる法人市場とは異なり、消費者が想像する範囲を超える驚きや革新性を提供し続けることが、コンシューマ向けの製品では求められる。それができなければ、PCは今後もスマートフォンやタブレット端末に市場を食われ続けることだろう。テクノロジー企業には、顧客に「寄り添う」だけではなく、半歩先の世界を提案していくことも必要ではないだろうか。
 
5月16日を1日目と定義し、1000日目に向けて新しいビジネス領域を開拓する

 もちろん、レノボのスケールを生かしたコスト効率の改善や、富士通本体の戦略に左右されることなく、理想のコンピュータづくりに全力で取り組めるようになったことで、FCCLの機動力は大きく拡大している。前出の疑問に対する答えが、具体的な製品のかたちで得られることを期待したい。(BCN・日高 彰)